12話 ワンコと天使だけでも覚えて帰ってください
共同依頼からしばらくして僕たちはギルドに来ていた。
あれからロウに会うと挨拶するぐらいの仲にはなっている。いや、許してないからな。最初にボコボコにされたこと。今戦ったら絶対に負けるから言わないけど。
僕としてはやり返したいと体を鍛えているんだけど、あまり成果は上がらない。
まあ、そんなすぐに成果が出るとは思ってないけどさ。
「今日こそ何かいいヤツないかな~」
リーティアは今日も依頼板をスキップしながら見ている。
いつもやっているけど結局はオークとかゴブリン退治になるんだよな。たまには薬草取とかしたいんだけど。あるか知らないけど。
「わ!あったよ!トワ君」
リーティアは時々こういう嘘を吐いて僕の気を引こうとするから注意しなければいけない。子犬に餌をあげすぎるとダメって誰かが言っていたからな。
「ねぇ、聞いてる?初めて見る依頼だよ」
「…………」
「ちょっと!」
今日はやけにしぶといな。
いつもは一回で諦めて黙るのに。
「トワ君!ほら見て!」
リーティアは耐えかねた様に僕の顔の真ん前に依頼の紙を突き出す。
あ、本当だったんだ。
なになに…………、ノイスへの買い出し兼異変確認?
どこだ?ノイスって。
「ノイスって言うのはここ、ネチャル国の首都。ここからだと少しかかるけど、たまには遠出したくない?」
目がキラキラしたリーティアを前にしたら断われないだろ。
それに買い出しだったら命の危険はなさそうだしいいんじゃないか?
受付に持っていこうとするリーティアの背に声が聞こえてくる。
「お、その依頼やるのか?」
振り返ると今日も酒を呷っているジギラスがいた。
顔は赤くないが、それでも相当酔っているのが分かる。
「うん、楽しそうだしね。ジギラスも来る?」
「俺はいいよ。面倒くさいし、向こうにはあまり会いたくないヤツもいるからな。あ、だけど行くんだったら注意しろよ」
「?」
どうして注意するんだ?
首都だったら栄えていたり、安全なはずだろ?
あ、旅路に注意しろってことか。それは確かに不安だな。
この世界は意外かどうかは分からないが、街の中にいれば結構安全である。包囲がしっかりしているので外から魔物は入ってこないし、出入り口も門兵がいつもいるためあからさまに怪しい者も入ってこれない。
しかし逆に、街の外はかなり危ない。街から徒歩10分のところに魔物がうろついているので、子供一人で外に出るとすぐに死ぬ。それはもうあっさりと。だから旅路が危険っていうのは頷ける話だった。
しかし、ジギラスの言う危険はそれではないようで。
「今、ノイスには『闇犬』が潜んでるって噂だからな」
「ねざーはうんど?」
なんだそれ。おいしいの?
「んだよ、知らないのか?」
「はいはーい!私も分かんない」
「お前もかよ。いいか?『闇犬』ってのはここ十数年で出てきた組織で、何が目的なのか、構成員は誰がいるのか、何人の組織なのか何も分かっちゃいねぇ危険な組織だ。『闇犬』を見た人の中には大切な人を殺されたって人もいれば、助けてもらったって人もいるから分かりにくい。ただ確実に分かってることは、構成員の全員がめちゃくちゃ強いってことだ。それこそ、Aランクのハンターに並ぶくらいには強い」
ジギラスは意外に真面目な顔で秘密結社のことについて話す。
誰が、何人、何のためにいるのかすらも分かっていないとは、その秘密結社もなかなか秘密を守り通しているっぽいな。それに、Aランクハンターと同じくらい強いってのが信じられないな。僕の知っているAランクはジギラスしかいないけど、その秘密結社がみんなジギラスくらい強いとか考えたくもないな。
だけどそうかぁ、危険がいっぱいなんだったらノイス行くの辞めようかなぁ。
「つっても、今のノイスには『六神天将』のリヴェラルがいるから大丈夫だとは思うがな」
また知らない単語が出てきたな。
ゼクスクヴァルトってかっこいいなぁ。
「それなら知ってるよ!人類の守護者って呼ばれるくらいに強い6人だよね。魔王に匹敵するくらい強いとか」
「今度は知ってたか。そう、『六神天将』はいつ侵攻してくるかわからない魔王への抑止力として創設された人類最強の6人だ。まあ、正直魔王に勝てるとは思えねぇがな。その1人のリヴェラルが今ちょうどノイスにいてくれるから、万が一『闇犬』が出てきても取り押さえてくれるだろうよ」
そうか、人類最強か。憧れるけどいろいろ大変なことを押し付けられるんだろうなぁ。
ていうか、魔王は7人なのにそれの抑止力は6人なんだ。
『闇犬』に『六神天将』に『魔王』
この世界で強者と認められた称号を持つ者、か。あまり積極的に関わりたくはないけど、僕たちの目標の障害になりそうなやつらだな。
この世界を平和にするって目標の。
「ってことで、ノイスに行くんだったら気をつけて行くんだな。もし『闇犬』に出くわしても絶対に戦おうとするんじゃねぇぞ。今のお前らじゃ勝てねぇから」
「はいはい、分かりましたよー。行こ、トワ君」
リーティアはうるさそうに返事をして受付に逃げるように依頼を持って行く。
まあ、あいつの気持ちも分からないでない。僕たちがノイスに行くときに限って『闇犬』が暴れ出すなんてことそうそうないだろうし、注意されてもどうしようもないからな。
ジギラスの心配は杞憂に終わるだろうな。
「まあ、旅行気分でノイスに行くとするか」
さっそく次の日、依頼人に会って買うもののリストをもらう。
ここら辺じゃ手に入らないものが多いみたいで、初めて見るものもあったが、リーティアに聞き覚えがあったみたいなので安心だ。
「それと君たちにはノイスで何か起こってないかも確認してきてもらいたい。君たちも噂の組織は知っているだろう?」
「はい!『闇犬』ですよね?」
「しー!言っちゃいけない!どこに奴らの構成員がいるか分からないんだから」
そんなヴォル◯モートみたいな存在なんだ。
依頼内容の異変確認は基本的にはその組織が暴れてないかの確認のようだ。
すこし王都を見てきな臭くなかったら大丈夫、とずいぶんアバウトな依頼だ。
「それじゃあ行ってきます。早くても2ヶ月くらいかかっちゃうんで、気長に待ってくださいね。もし5ヶ月経っても戻らなかったら、依頼は失敗ということで」
リーティアの何の気なしのその言葉に胸が痛む。
依頼の失敗、つまりは僕たちが死んだ時のことを考慮に入れて話しを進めているのだ。
もちろん、リーティアも死ぬ気はないのだろうが、依頼人の手前そういうことを言わなければならないのだろう。
一気に死の足音が聞こえてきた。
「トワ君、行こ」
「ああ、分かってる」
こんなところじゃ、まだ死ねない。
王都までの道のりは特段変わったこともなく進んだ。
やはりクリプン町は田舎だったのだと分かったのが、王都に近づくにつれて建物が高くなっていったり、往来が激しくなっていった。
道中森の中では見ないいろいろな魔物にも遭遇した。
夜にしか活動せずに月と共に襲い掛かる『月狼』
幻惑を見せるほどに美しく、しかし狂暴な鹿『凶夢鹿』
一部では信仰の対象にもなっている光り輝く蜘蛛『虚栄蜘蛛』
どれもが恐ろしい強さを誇っていたが、リーティアの戦闘能力や僕の『火球』、それに普通に走って逃げたりすることで何とか切り抜けることが出来た。
1月旅をするだけでこれほどの魔物と遭遇するのだから、やっぱりこの世界で生きていくには強さが必要なのだと分からされた。
「ふー、着いてみればあっという間ね」
ノイスに到着したのはクリプン町を出て1カ月しないぐらいの時期だった。
あまり急いだ実感はないが、身体を鍛えているおかげなのか普通よりも結構早くつくことが出来ているらしい。
「それじゃあ、さっそく買い出しに行こうか。えっと、まずは香辛料だから…………こっちかな」
リーティアが先頭に立って目当てのお店までまっすぐと進む。
初めて見るこの世界の首都はやはり地球には及ばないまでも、高い建物と華美な色合いに目が奪われた。やはりというかなんというか、ヨーロッパ風の城が見える。日本製の城とかじゃないんだよな、こういうときって。
「わ、見てアレ。鍛冶師だって。いや~、そろそろ買い替えたいって思ってたんだよね。ホラ、オークロードを倒した時のやつそのまま使ってるから切れ味が悪くて。だけど王都のは買えないなー、絶対高いもん」
そういって泣く泣く見送るリーティア。
たしかに彼女の剣の刃はボロボロでいつ買い替えるのか疑問だったが、彼女もそう思ってたんだな。まあ、クリプン町付近にはそうそう強い魔物は現れないし、今の剣でも余裕をもって依頼が完了できるから、リーティアも我慢しているんだろうな。
けど、命に関わることだから早めに買い替えたいな。
「よし、香辛料ゲット~。次は…………果物だね。あ、だけど果物は腐りやすいから最終日に買おっか」
………………………………
…………………
………
「オッケー。これで全部買えたかな。けっこう荷物多くなっちゃったけど、まあ問題ないかな。どうする?もう帰る?」
「まだ来て一日も経ってないぞ。今日はここでゆっくりしないか?宿でも取って」
「へ!?一緒に寝たいってこと?もー、今夜だけだぞ。あ、ごめんなさい。調子乗りました」
僕の冷めた目を受け止めてリーティアはただでさえ大きくない身をさらに小さくして謝る。リーティアのこのテンションも楽しくなってきたな。
まあ、宿を取りたいのはゆっくりしたいってのもあるけど、依頼内容は買い出し兼異変確認だ。
1日だけ滞在して異変があるかないかなんて分からないし、少なくとも1週間くらいは留まって住民の人に色々聞いておきたいな。
それになんだか、違和感というか恐怖をここでは感じるんだよな。
これの正体も探りたいし、明日以降に調べていきたい。
「そうだね。んじゃあ、宿取って今日は寝ますか」




