018. エピローグ
******
後から聞いた話だが、式坂の母親とは違って白城の母親はいわゆる後妻だったそうだ。
もう一点違うことは、白城の母親は前妻の子ども達が大きくなってから畑坂家に嫁いだらしく、結婚相手が亡くなってしまった後は、その子ども達からひどく邪見に扱われたことにあるそうだ。
加えて、彼女は二回目の結婚だったようで白城巡という連れ子の存在も、邪魔者扱いされた大きな理由の一つだったに違いない。
白城が母親をあそこまで親愛していたのにはこの辺りの事情が絡んでいるのだろう。
白城について俺が知っているのはこの程度だ。
俺は校舎へと続く長い坂道を登りながらまた別のことを考え始める。
やはり白城と式坂はよく似ている、と思う。
片方は母親のために生き、母親の仇をうつために五年という長い歳月を憎しみに費やした少年。
もう一方は、自分の命が狙われているとしても他人のためにそれを喋らず、俺を助けるためにその命を投げ打とうとし、挙句の果てには自分を殺そうとした相手のためにさえ死を受け入れようとする少女。
彼女達はよく似ている。
……そして、俺も。
俺は妹のことを考えた。
ものごころ付いたころには親がいなくなった俺に、たった一人残された肉親。
俺はそんな妹のために今までの人生を生きてきたと言っても過言ではない――。
つまり、俺は彼らと同じで自分自身のために人生を生きていないのではないだろうか。
――俺は変な方向にもっていかれそうになる思考を、頭を振ってまた別のものへと変化させる。
今日の夕飯は妹に何を作ってやろうか。
一昨日はオムライスを作ってやれなかったからな。
俺はそんなことを思いながら、輝く太陽を仰ぎ見た。
眩しい、光だ。日よけのために慌てて右手をかざす。
俺は自分の腕を見て、思いついた。
そうだ。さつまいもを使おう。
夕飯が決まった俺は前を向く。
坂道の先を見すえると、何か考え事をしているようで、髪を指で梳きながら歩く少女が目に入った。
彼女の悩みは考えるまでもなく、俺にはすぐに分かった。
他人のために生きてきた彼女は後悔しているのだ。
……ある、一人の少年を式神にしてしまったことを。
だから俺は、今から彼女にこの言葉を言ってやろうと心に決めた――。
式神は、いりませんか?