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音色少女と白い代奏者  作者: 山奥一登


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真白創真と沢渡優①

 いつもは演奏するだけだったが、今回は指導がメインとなる。音楽教室でも指導があったが、あれは一度きりだし大人数だった。だが今回は一人を、長期的に教えなくてはいけない。つまり生徒を成長させなければいけないということだ。そう考えるとかなりプレッシャーを感じる。指導者というのは大変な仕事なのだな、と思いながら依頼先へ向かった。

 表札を確認し、立派な日本家屋のインターホンを押すと、依頼者の母が僕たちをもてなしてくれた。

「娘は元々表現力に優れた演奏家だったんですけど、最近何か行き詰っているようでして……」

 僕たちが話を聞き終えると、玄関の方から慌ただしい足音が近づいてきた。

「ただいま!すみません、遅くなりました!」

 僕たちの姿を見てお辞儀をしたのは制服に身を包んだ女の子だった。この子が今回の生徒だろう。

沢渡優さわたりゆうです。よろしくお願いします」

 少女はダッシュでもしてきたのか、肩で息をしながら微笑んだ。短く切り揃えられた黒髪。高身長の彼女を僕は見たことがあった。

 沢渡さんは僕たちをすぐにピアノのある防音室に案内してくれた。防音室はとても立派で、教室くらいの広さがあった。

「私、あの動画の演奏を聴いて感動しました!私にもあんな音が出せたらな、って憧れてるんです」

 無邪気な笑顔を浮かべる沢渡さんは僕らと一つしか歳が違わない。だからコンクールなんかで見かけたことがあった。

 この地元、僕たちに近い世代で一番の天才と言えば彼女の名前が上がる。類まれなセンスとこの防音室のような恵まれた環境。二つを持った彼女の音色は、音無さんほどではないにしろ正真正銘天才と呼ぶにふさわしいものだった。僕なんかが彼女に指導するなんて正直おこがましい気がするが、依頼なのでやるしかない。もし何かあっても代々木さんもいるし心配はないだろう。

「じゃあ、とりあえず演奏してもらえるかな」

「はい!頑張ります!」

 元気な彼女はせかせかとピアノに向き合うと、微笑みながら鍵盤に触れた。どこまでも優しいタッチは淡い音色を奏で始める。まどろみの様な、心地の良い演奏だった。夢の中のようなふんわりと抽象化された景色は僕らの心をどこまでも穏やかにして、優しくしていく。彼女の心の暖かさが僕らを包み込むようだ。

素敵な演奏をする。思わず感嘆するほどだ。彼女にも、人の心を動かす音色が宿っている。

けれど、何かが違う。

 違和感は曲が進むほどに明確になってゆく。少しずつ、少しずつ、ペースが乱れて景色がぼやけていく。元々柔らかで繊細な音色だ。それが薄くなってしまうと、与える感動までも薄くなってしまう。

 沢渡さん自身もそれを感じているようで、先ほどとは違い苦しそうな表情を浮かべている。指が忙しなく動く。沢渡さんは必死だ。けど、追いついていない。彼女の課題は、技術か。


「どうでしたか、私の演奏」

 沢渡さんは自信なさげだった。やはり自覚があるのだろう。僕たちは顔を見合わせる。何と言えばいいのか分からない。

「いいんです。遠慮しないでください。もっと上手くなるために、意見が欲しいんです」

「それなら、私から言わせてもらうね」

 小さく手を上げたのは代々木さんだった。

「表現力は素晴らしいと思う。けど、技術がまだ追いついていないのかな。指とペダルの動きにばかり意識が行って表現に集中できていない。後半になればなるほどそれが顕著に目立った。体力も課題かな」

 さすが代々木さんだ。的確に、僕の言いたかったことを言ってくれた。

「僕も同じかな。すごい表現力があるから、技術さえ身につければもっと良い演奏ができるようになると思う」

 僕が言うと、水谷さんも同意見とばかりにうんうんと頷いた。

「そうですか……。ありがとうございます。そしたら、今日からその技術を教えてもらってもいいでしょうか?」

「もちろん。僕らにできる限りのことはするよ」

「よろしくお願いします!」

 沢渡さんは頭を上げると、にこりと微笑んだ。その日から技術指導が始まった。


「明日からは僕だけでいいよ」

 帰り道、僕が言うと二人は驚いた。

「え、何で?」

「いや、技術の指導なら僕だけでできそうだから。代々木さんは部活もあるだろうし、水谷さんは音無さんと一緒にいてあげて」

「いや、でも」

「ごめん。今は色々考えたいんだ。二人といるとどうしても考えがまとまらなくて」

 僕がそう言うと、二人は黙ってうなずいてくれた。強い言い方になってしまっただろうかとすぐに後悔した。

 


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