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音色少女と白い代奏者  作者: 山奥一登


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18/30

代々木あかりと音無奏②

 夏休みは残り3日となった。宿題をとっくに終えていた私は部活が休みの日は手持ち無沙汰になる。そうなると自然とトランペットを手に取る。両親は一昨日から旅行に出ていていない。私は部活を優先したいのでと断った。物音のしない家は若干寂しくもあるが、何も気にせずトランペットを吹ける嬉しさの方が勝っていた。

 今日もやるか、と思っていた矢先、スマホが震えた。奏からのメッセージだった。

『もし私の親に何か言われたら昨日は一緒にいたって言っておいて!』

 よく分からないメッセージに、私の頭には?が浮かんだ。

『どういうこと?』

『昨日真白君と県外の旅館に演奏に行ったんだけど帰れなくなっちゃって。親に聞かれて咄嗟にあかりと一緒って言っちゃったの。お願い!もし聞かれたら話合わせておいて!』

「そういうことか」

 納得して呟いた。奏が手を合わせて懇願している様子が目に浮かんだ。

『分かった。その代わり今日暇だからどこか行かない?』

『どこへでもお供します!』

 私はトランペットを置いて、出かける準備をした。


 お昼過ぎ、奏と合流して2駅先の大型ショッピングモールに向かった。奏と二人でどこかに出かけるのは久しぶりだった。私は部活で忙しいし、奏も真白君やカレンちゃんと一緒に忙しそうにしているから中々予定が合わないのだ。

「今日は休みなの?」

「うん。夏休みはほぼ休みなしだったから。最後くらいはってことで」

「部活よりハードスケジュールじゃん……」

 ショッピングモールで服を買って、美味しいと評判のクレープを食べて、中学校以来のプリクラを撮った。奏は以前と変わらず子供のようにはしゃいでいたが、幼稚園からでもう慣れっこなので、その騒がしさが妙に落ち着いた。数時間で全てを見て回って、飽きたので私の家に行くことになった。音楽以外には飽きっぽいところも変わらない。

「お!」

 私の家に着くと、奏はトランペットに目を付けた。

「ちょっと見てもいい?」

「いいよ」

 奏は色々な角度から、ほーと感心しながらトランペットを見た。

「ねえ、あかりの演奏聴きたいな」

「え、今?」

「うん」

「……しょうがないなあ」

「やった!お願いします」

 奏はトランペットを、まるで謙譲するように私に傅いて渡した。まあいずれは奏に聴いてもらうつもりで練習していたから、それが少し早まっただけか、と私は覚悟を決める。今の全力を、私の想いを乗せればいい。

「ファイトー!」

「うるさいっ」

 体育座りをして茶化す奏も、私が構えるとその表情は真剣になった。音楽への真摯さも相変わらず変わっていない。私も真剣に「音色」を奏でる準備をする。すうと息を吸い、優しく吹き込んでいく。

 最初は音を鳴らすのも一苦労だったが、今では自在に音をコントロールできるようになったし、感情を込めるコツも理解できた。私が込める感情は一つだ。

戻ってこい。

呼吸に願いを込めて。一挙手一投足で感情を伝える。

戻ってこい。


 息が乱れる。持ち慣れたトランペットが重く感じる。普段演奏後にこんな疲労を感じることはない。奏の前での演奏というのが、それだけ私にとっては特別だということだ。

私の演奏が奏に届いているように。

願って目の前の奏を見ると、その表情には確かに心の動いた痕跡が見えた。焦燥?羨望?動揺?分からない。確かに奏の心はぐらついていた。けれど。

「あかり、ありがとう」

 奏はうつむいてそう言った。表情が見えなくなる。

「今でもそんなに想ってくれていて。すごく嬉しい」

 奏の言葉が止まる。私は乱れた呼吸を無理やり止めて奏の言葉を待った。

「けど、ごめん」

 その言葉に、私は落胆せざるを得なかった。まだ足りない。自分の力の足りなさに思わず唇を噛む。

「あかり……」

 奏は立ち上がって、ゆっくり私の胸に寄りかかって泣き出した。私は奏を抱き寄せて、ただその涙が止まるのを待った。

 奏も戦っている。けど自分の力だけではどうしようもないことを知っているから、泣く。



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