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4 領主代理の愚痴

「失礼ですが、リアナ嬢は今いくつで」

「…十七、です」

 いくら小さな領とは言え、十七歳の公爵令嬢とついこの前まで侍従見習いだった執事が領を経営している? あまりに異常な状況に、ファビオはただ驚くしかなかった。

 そもそもこの村でのリアナの扱いは村人その一のレベルで、とても領主の娘には見えなかった。

「こんな若輩者の領主代理、どうしてもなめられちゃうんですよね。あちこちの村で税をごまかすようになって、収穫量はもちろん、一袋の小麦の量をごまかしたりするのも日常で。まあ抜き取り検査はして記録は取ってるので、そのうち何とかしようとは思ってるんですけど、もう間に合わないかも知れない…」

 ちらっと上目遣いで見られて、どうしてこんな話をふらっとやってきた自分に話しているのか、ファビオはちょっと嫌な予感がした。

 しかし、リアナは無茶は言わなかった。

「税の徴収にそちらの騎士隊をお借りできたらな、とも思ったんですけど、他領の騎士隊にお願いするのはさすがにまずかろうと。…間もなく王都から査察官が来ます。恐らくお騒がせする事になるかと思います。下手したら、うちの領をそちら預かりになるようなこともあるかも知れないので、一応事情をお話しした次第です。恐らくウルバノの領主様なら、大体把握されてるんじゃないかな、とは思うんですが…」

 はあ、と溜息をついたリアナは、あまりうまくはないながらもそれなりに結い上げていた髪に指を突っ込んで、遠慮なく片手で掻いた。ぱらりと落ちた後れ毛も気にすることはなかった。

「もう少し私に力があれば、もうしばらくは今の税率のまま何とか乗り切れるはずだったんだけど…。村のみんなに頼まれて頑張ったつもりなんですが、うまくいきませんでした。領主が代わったらきっと税率上がっちゃうなあ…」

「お嬢は充分頑張った!」

「そうですよ。レジェスさんがいなくなった途端にごまかす連中が悪いんです」

「まともに納めてるの、お嬢のことわかってるここの村くらいだもんなあ…。俺じゃ全然、脅しにならないし」

「言わない、言わない。その年でレジェスとおんなじ迫力持ってたら、逆に恐いって」

 三人は互いを励ましながら、気がつけば話題は変わって夕食に何を食べるかで盛り上がり、やがて外で仕事をしていた男、ダリオも窓から声をかけ、仲間に加わった。

 四人は領主の娘と使用人でありながら、それ以上に友達なのだ。

 ファビオにも夕食参加のお誘いがかかり、馬車で待っていた馭者も呼ばれた。

 ファビオは執事であるエリアスや通いの使用人のヤスミンやダリオに対しても対等で、よくいる貴族のように差別的な振る舞いはしなかった。それに安心したリアナは、ファビオが持ってきた土産の酒をどんどん開け、馭者も含めた六人でその日のうちに全て平らげてしまった。

 気がつけばファビオはエリアスとダリオと共に応接室で寝落ちしていて、翌日またしても朝食をごちそうになって帰っていった。

 全く風変わりな領主の娘だ。粗雑ではあったが、嫌な気はしなかった。

 いい酒を飲めた馭者はごきげんで、馬にも伝わるのか、その日の馬車の乗り心地は良かった。


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