ハットトリックの果てに
「お前の脚に、力を授けよう。その代わり魂は貰う」晦冥の中、悪魔は臭い息を吐いた。
「構わんよ、それでチームが優勝できるならね」私は答えた。
「そういう自己犠牲の気持ち、気持ち悪いな。そうだ、お前がハットトリックを出したら、命を助けてあげよう、お前は英雄だぞ。」
「面白い提案だな」
「だろう、ただしそうで無ければお前の命はない」
「いいぞ」
「俺は、自己顕示欲の方が好きだよ。」悪魔は、笑った。「さあ、頑張ってくれ」
1点先制された状態での後半、突然ピッチに大穴が開いて地下深くに落とされ、悪魔と契約を終えた時点で、時間が再び動き出したように私は芝生の上に戻っていた。
走り出すと、脚も体も軽く感じた。ボールの軌跡や、敵や味方の動きも俯瞰するかの様に良く見えた。
荻川が、ドリブルで突っ込んできた。彼は周りを囲まれつつも、ボールを私に出した。私は、そのまま相手ゴールに向ったが、DFがしつこくフリーになった荻川にボールを戻した。彼は、ドリブルが非常に上手いが、アシストはもっと上手い。 ゴール近くで、相手をしっかり引きつけると、僅かな間隙を付いて高めのシュートを打った。私は、それを捕らえ、頭でゴールに押し込んだ。
2点目は、コーナーからだった。良い感じでゴール前にボールが上がったが、好守備に阻まれた。しかしそのこぼれ球をこっちの林がシュートし、それもキーパーがはじき返した。再び林がそれを奪い、サイドに逃れ周りを囲まれながらも、相手の股ぐらからボールを出した。それを、私が拾い、そのまま鋭角に打ち込んだ。
その後、味方のゴール前で混戦となり、一点失い、ロスタイムが始まった。
キーパーは相手陣地の深い所にボールを飛ばし、相手はそれをクリアしたつもりが、蹴ったボールは、サイドを走っていた私の足元に飛んできた。時間が残り少ない中、味方も相手も疲弊しているが、私の脚は疲れというものを知らない様だった。陣形が整っていない中、一気に突進した。そしてむちゃと思えながらもゴールを狙った。
3点目が、入った途端皆が芝の上に倒れた。それどころか、観客の声援もない、観客は、椅子から崩れ落ちていた。
「さて、素晴らしい試合だった」地面から拍手をしながら悪魔が湧いてきた。
「なにが起きたんだ?」
「君以外の魂は全て私が貰ったのだよ、言っただろハットトリックをだしたら、君は生かすって」