家族1
俺の名は優。一家の大黒柱で父親だ。
愛する妻と、2人の子と幸せに暮らすため、今日も仕事に励む。
仕事は鍛冶屋。農具を主に作っている。
もともと婿入りして継いだ仕事だったが、性に合ってたようで、今では余裕がある生活が出来る程度に注文がきている。
カンカンカンカン
鉄を叩く音が鳴り響く。
ここは、ど田舎もいいとこ、それも更に山奥。
聞こえるのは鳥のさえずりや、川のせせらぎぐらいなものだ。
「夜ご飯できたわよー。」
(おっと、うちの可愛い奥さんの声もあった)
「紅、呼びに来てくれてありがとう。片付けたらいくよ。」
「分かったわ、早くしてね!冷める前にね!サクもハナもそろそろ帰りましょう。」
「「はーーーい!」」
仕事場の周りで遊んでいた子どもたちが元気にかけてゆく。
(さて、さっさと終わらせますか)
火の始末、道具の片付け、明日の段取りを手早くこなす。
「ふぅ…意外とかかってしまった。」
片付けが終わり、俺は神棚に手を合わす。
「火の神様、今日も無事仕事ができました。感謝感謝ー!」
若干ふざけながら手を擦り合わせ、拝む。
(鍛冶屋は火が命だ、必ず手を合わせ拝むこと、だっけな。生前お義父さんに酸っぱく言われたからなー)
そして、家への帰路についた。といっても、歩いて15分程だ。俺は急いで山をくだった。そろそろ我が家が見えてくるはず。
(あれ?なんか家の方が明る…い?)
日が沈みかけ、暗くなった森を抜けた先。視界に入ったそれは、轟々と勢いを増した炎に包まれた我が家だった。
「ーーーーーーーーっ!!」
声にならない叫びあげ、俺は駆け出した。
火の勢いの弱い壁をぶち破り家へと入る。
「紅っ!!サクっ!!ハナーーっごほっごほっ」
煙も回りつつある。時間がない。焦って探すが、誰の姿もない。
(もしかして避難できたのか?)
そんな思いがよぎったとき、視界の端に何かがいた。
「あーー、失敗かー。やっぱり無理やり入った身体じゃだめかー。」
投げやりにりに何かを呟く。床に仰向けに寝転ぶそれは、皮膚がドロドロと溶け出し、原型が無くなろうとしていた。
そいつの左手には、俺が妻に贈った指輪がついていた……。
(あぁ……あ、ぁぁぁ、なぜ、、なぜ)
こちらが絶句していると奴が喋った。
「あ。こいつの家族かな?ごめんね?もう手遅れなんだー。一応手は尽くしてみたけれど、もう無理だねっ!!……だから、さっさと離れな。」
そう言うと、奴は手をこちらに向ける。
「お前、家族になにをー」
そう言いかけたときには身体が勢いよく外に吹き飛ばされていた。
「ぐはぁっ」
3回、4回と地面を転がり、木にぶつかり止まった俺はよろよろと身体を起こした。
吹き飛ばされた直後、家は更に炎の勢いが増し近づくことさえ出来ない。
(くそっ……俺の家族……紅、サク、ハナ、どこだ。どこにいる。いてくれっ…!)
血の味がする。痛みの走る身体を引きづりながら、周囲を探し回った。
「み、見つけた!!」
家から少し離れた茂みの奥に我が子を見つけた。
だけど1人だった。
急いで容態を確認する。
呼吸もしてる。顔色もいい。火傷もない。だけど
(ーーっ…片手がない!)
左の手首から下がなかった。
傷口はなぜか塞がっている。
悲しみと数多の疑問が浮かぶが、思考が追いつかない。今は兎に角、
(急いで安全な場所に!)
子どもを両手で抱え立ち上がる。
その時、背後の燃え盛る家の方から音がした。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ
慌てて振り向くと、異様な光景が広がる。
炎が収束していく。まるで、家の中心に吸収されるように。そしていつしか2mほどの球体になったと思った瞬間、
目を塞ぎそうになるほどの眩い光の柱に包まれ、炎の球体は消え去っていた。
1時間後。
俺は子どもを連れ、麓の町まで降りていた。
幸いにも車は燃えていなかったので、さほど時間はかからなかった。そして俺は、急いで町の診療所に駆け込んだ。
「先生、子どもをお願いします。」
「はいはい、任せない。だけど帰ったらちゃんと説明してもらうよ?」
白衣を着た初老の女性は困った顔で見てくる。
子どもの左手をみても慌てないあたり、相当に肝が据わっている。
本当は子どもの側にいたい。だけど、まだ1人見つかっていないのだ。
「すみません、俺にも分からなくて…とりあえず行かなきゃ……。」
未だに意識の戻らない子どもを診療所に預けると、俺はもう一度家のあった場所に戻った。