1-3 真剣勝負
一杯のコーヒーに心を込めて淹れてます。
「カウンター。ラテ1つと苺パフェを1つをお願いします。」
「ラテ1,苺パフェ1。了解しました。」
ここは『cafe Lily』
何年も働いて、やっと昨年オープンさせた私だけの城。
従業員や周辺にも恵まれて、そこそこお客様にご来店頂いてる。
仕事は順調だし、プライベートも充実してるし、とても楽しくしている。
そんな日々に密かな楽しみがあった。
カランカラーン
「いらっしゃいませ。」
静かな店内に響く来客音。
お昼を過ぎて、お客様が少なった頃にいらっしゃる方・・・。
「やぁ、オーナー。今日も君は美しいね。」
私の顔を見るなり、私の手を取り甲にキスを落としてくる。
「・・・栗木様。お褒めの言葉は光栄ですが、今は営業時間内になりますので軟派等の迷惑行為はご遠慮下さい。」
常連客である栗木夕飛様。
近くの会社にお勤めなようで、ほぼ毎日、コーヒーを飲みに来て下さっている。
顔を会わせる度に口説いてくるので、私は苦手なタイプである。
「(ぱっ)ハハッ。相変わらずお堅いねオーナー。ま、そんな君も素敵さ。」
いつものように軽く笑って手を離すと、栗木様は決まった席へと座りコーヒーを一つ注文した。
「出来上がるまで、少々お待ちください。」
栗木様がいつものようにカウンター席に座ると、ここからが私にとって一番緊張する時間へとなる。
なぜなら、私がコーヒーを淹れていく様子を栗木様がただ黙って眺めているからだ。
なんだかいつも試されているような気がして、私の心の中が穏やかではなくなる。
もちろん仕事中なのでそんなことは顔に出さず、私はコーヒーを淹れることに集中するのだが・・・。
=カチャッ=
「お待たせいたしました。ブルーマウンテンになります。お熱いのでお気をつけくださいませ。」
丁寧に淹れたコーヒーを栗木様にお出しする。
そして出されたコーヒーを口にする栗木様。
この瞬間が一番緊張してしまう。
「(コクッ)・・・うん。いい香りだ。今日のオーナーもいい腕をしているね。」
「ありがとうございます、栗木様!(笑顔)」
褒められたことに素直に喜ぶと同時に私の身体からは緊張感が一気に抜け、そのまま他のお客様へのコーヒーを淹れていくのだった。