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アイスコーヒーのひと時

 ドアを開けると、カラン、と鈴の音が店内に鳴り響く。

 店内はクーラーの冷気で満たされており外の熱波で熱くなった体を包み込み涼しさを感じる。


「いらっしゃいませ」


 マスターの渋い声で迎えてくれる。


「いつもの一つお願いします」

「かしこまりました。カウンター席でお願いします」


 マスターに席を案内されると氷が3個ほど入ったお冷を出してくれた。


「ありがとうございます」


 礼を言うとマスターは頭を下げ豆を挽き始めた。


「はいどーぞ」


 不機嫌そうにアイスコーヒーを提供してくれるのは幼馴染のメイ。

 黒髪のセミロングが良く似合う色白な女の子だ。


「相変わらず無愛想だな」

「ふん! あんただけよ」

「愛想良くしてくれてもいいんだぜ?」

「なんで? する必要ないじゃない」

「いやいや仮にも僕はお客さんだよ? わかる? お・客・さ・ん」


 マスターは新聞を広げ、彼女とふざけあっているのを止める様子はない。

 いつものこと。店内が、彼女と僕、マスターだけなら迷惑にはならないからだ。

 そういった意味では幼馴染で良かった気がする。


「んんっ! えっと、ミルクと砂糖はいりませんよね?」

「おい、ふざけてるのか?」

「いえ、ふざけてなどおりません! 至って真面目でございます」

「あの、僕はブラック飲めないんだよ?」

「お客様? 何事も挑戦でございます。もしかしたらブラックコーヒーの美味しさに目覚めるかもしれません!」

「いや、いい! ミルクと砂糖をくれ、溢れない程度に入れまくる!」

「……糖尿病予備軍」

「あ!? なんか言ったか?」

「い、いえ! なんでもないです! でも、一度だけブラックで飲んでみてくださいよ。ブラックにはブラックの良さがありますから。一度飲んでみてダメだったらミルクと砂糖入れればいいじゃないですか」


 確かに……言われてみればそうかもしれない。

 彼女に促されるままアイスコーヒーを飲む。


「いただきます」


 カップに口をつけ口に含もうとした瞬間コーヒーの香りが感じられた。

 ホットコーヒーなら香りを感じることはできるのだがアイスコーヒーで香りを感じたのは初めてだ。

 アイスでも香りを感じれるということは良い豆を使っているということになる。

 口に含むと、キーン、とした冷たさが襲ってきてそれを追うように苦味が来る。

 苦味を我慢し一気に口に含んだコーヒーを飲み干す。

 飲み干すと鼻から苦味が逃げていくのを感じた。


「ごめん、やっぱりミルクと砂糖をください」

「ブラックダメなんですね〜。ふふっ、まだまだお子ちゃまですね〜」

「逆に聞きたい、なんでわざわざ苦いのを飲む必要がある?」

「それは人それぞれ、リラックスする効果もありますし、あくまでも私は時間を購入して頂いていると思ってますから」

「時間を購入……ね」

「はい!」

「ところで、ミルクと砂糖は?」


 ブラックのままでは飲めないため聞くと彼女はにっこりと笑いながら「あら、覚えてましたか」と挑発気味に言った。

 いたずらごころというか彼女は人……いや、僕をからかうのが好きなようだ。

 その後ミルクと砂糖を出してくれて僕の好みのアイスコーヒーが完成し美味しく飲むことが出来た。


「ごちそうさまでした」


 もう少しゆっくり味わって飲めば良かったなと思いつつ、コースターの上にカップを置いた。

 氷が何粒か残っているが完全に溶けて味が薄くなるよりはいいだろう。

 レジでお会計を済ませ帰ろうと店を出た時だった


「あ、あのさ!」


 彼女が声を掛けてきた。


「ん? なんかあった?」

「お盆の時にある花火大会一緒に行かない?」

「は? なんで花火大会? しかも俺と」

「どうせ暇でしょ? 付き合いなさいよ」

「はぁ、なんでお前なんかと……」

「嫌……なの?」


 いつもからかってくる彼女の様子がいつもとは違った。

 目にはうっすらと涙を浮かべていた。


「な、なんで泣いてるんだよ」

「べ、別に泣いてないし!!」

「泣いてんじゃん。かわいい顔が台無しになってるぜ」

「う、うるさい!」

「わかった、お盆な。予定空けておくようにするから」


 彼女を慰めるように頭をなでながら言い聞かせた。

 夏休みの一大イベントになることは確定だろう。

 後にも先にも今年の夏は一回しかない。

 せめて彼女を楽しませてあげようと思う。

 彼女は小さな声でつぶやいた。


「……ありがと」

最後まで読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字がありましたらご指摘ください。

正直恋愛ジャンルにしようか悩みましたが恋愛ジャンルに入れさせて頂きました。

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