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第九十七話 配達サービスを受けました



「よし、終わろうか。」


 時間は夕方六時。


 ハイキ商店はこの時間にはお店を閉めている。


 開店時間は朝十時ぐらいから夕方六時ぐらい。


 商店街も大体そのくらいの時間にはお店を閉めているところがほとんどだ。


 閉店時間になってお客さんが来たとしても「店を閉めるから帰んな」で通じる当たり、さすが異世界。


 現代日本だと「まだやってるでしょうが!」とか文句を言う人もいるし、買わないで世間話に延々と付き合わせて遠回しに帰ってもらおうとすると「クレームをいれてやる!」と逆ギレする人もいるからな…経験談です。



 とにかくお店の看板を『閉店』に変えてもらって、ハイキ商店の営業は終了だ。


 ここからは片付けだ。


 クーナはお店の外と内の掃除、ヤルシは作業机付近の片付けと今日描いた絵の提出。


 終わったら二人で倉庫から商品を補充して、俺と軽く話し合いをして一日の業務が終わる。


 俺の仕事は今日の売り上げ金額の確認、在庫の見直しをした後に日誌の作成だ。


 …日誌と言っても、ノートに書き込んでいるメモ書きみたいなものだけど。


 どんなお客さんが来たかとかどういう物が売れた、どんな反省点があったとかのまとめ。


 細かい事だけど後で役に立ちそうだし。 

 

 じゃあ、早速売り上げ金額の確認をしよう。


 俺は懐からスマートフォンを取り出し、画面のアプリアイコンを選択した。


 その名も『売り上げ確認(異世界版)』だ。


 このアプリにはハイキ商店で売っている商品とその金額が登録してある。


 何が売れたかは手書きで帳簿を着けているけど、うっかりミスもあるかもしれないから、このアプリを使って二重に確認をしている。


 どうやってそんなアプリをインストールしたかはまた別の機会に。


「ええと、今日は…」


 

 十分くらいかけて商品と金額に間違いがない事を確認し、データを保存する。


 ついでにここ一週間のデータを視てみると、最近は文具…特にボールペンとメモ帳、ノートの売れ行きが良い。


 使い捨てライター、ステンレス水筒も結構な数が売れている。

 

 簡単に火を点けられるライターと革製と違って破れる心配のない水筒は冒険者にも人気だ。メモ書き関係は簡単な地図を描いたり、商談の記録にも使われているそうだ。


 アウトドア系の道具を置くのもいいかもしれない。


 …問題は俺が根っからのインドア派でそういう道具の使い方に弱い事だけど。


 日誌に『アウトドアグッズ導入?』と一応書いておく。


「店長、いらっしゃいましたよ。」


 外掃除をしていたクーナがドアを開けて、そう呼びかけてきた。


「どうも、お邪魔しま~す。」


 入ってきたのは知り合いと言うか、顔なじみの人だった。


「ああ、いつもありがとうございます。」


 俺はお礼を言ってその人が持っていた布をかぶせたあみカゴを受け取る。


「いえいえ、こちらこそ。今日は少し遅くなりましたが…」


 布を外すと、あみカゴには横倒しになった魔法瓶…ステンレス製の保温ボトルが入っていた。


 保温ボトルを取り出すと、チャプチャプと中身の液体が揺れる音が聞こえる。


「確かに。では、こちらを。」


 俺はお代とカウンターに置いてある空の保温ボトルをあみカゴに入れ直し、カゴごと返却する。


「どうですか、そちらは?」


 俺の質問にその人は苦笑しながら答えてくれる。


「きっちりしごかれてますよ。あの婆さん、人使い荒いんだから…ナイショでお願いしますよ。それにしても…」


 俺から視線を外し、その人はお店をゆっくり見回していく。


 俺としては後ろで一本にまとめた長い黒髪が尻尾のように動くから、ついそっちが気になってしまう。


「こちらも調子は良さそうだ。近々買い物させてもらいますよ。」


「ええ、ぜひ。」


 お店のドアを開けて帰ろうとしたその人は思い出したようにこちらへ振り返った。


「ああ、そうだ。婆さんから伝言がありました。」


「伝言?」


「ええ。『明日の昼ぐらいに話があるから時間をとってもらえないかね。アンタにも悪い話じゃないさ』…です。」




******


「店長、掃除終わりましたよ。応接室も掃除しておきましょうか?」


 ドアが開いていたからか、クーナも話の内容はしっかり聞いていたようだった。


「ああ、頼む。」


 俺は保温ボトルの蓋を開け、中身を口に流し込んだ。


 ほどよい苦みとどことなく漂う緑茶のような香りに浸りながら、一息をつく。


「いつも思いますけど、本当においしそうに飲みますね。」


 クーナの言葉に頷くと、俺は保温ボトルを差し出してみた。


「ユーランに来た時から飲んでいる薬草茶だからね。飲んでみる?」


 俺が勧めると、クーナは慌てて首を横に振った。


「お気持ちだけ。そういうのは一人一人に合わせた調合だから、私が飲んでも効果がある訳じゃないんですよ。」


 クーナの言っている事は正しい。


 この薬草茶は俺がレミト婆さんに作ってもらっている専用のものだ。


 飲んでも俺と同じ効果が出ないし、逆効果になる事もある。


「で、本音は?」


「…前に飲ませてもらいましたけど、苦すぎて無理です。」


 ささっと応接室へ入っていくクーナを見送り、俺はもう一口薬草茶を飲む。


 レミト婆さん特製の薬草茶を仕事終わりに飲むのは俺の日課だった。


 ただ、ハイキ商店とレミト婆さんのいる露店通りまでは距離があって、俺が通えない日が続く事もあった。


 そんな時、レミト婆さんが配達サービスを提案してくれた。


 ハイキ商店がオープンする同じタイミングでレミト婆さんも弟子が出来たそうで、せっかくだから配達をやってみる事にしたらしい。


 配達料金分、割り増しになったけど、大した金額でもないし、ちゃんと届けてくれる。


 …ウー○ー○ーツ?みたいなもんだ。


 おかげで、俺は毎日淹れ立ての薬草茶を飲めるようになった。


 薬草茶が入っている器も保温ボトルだから温度は変わらないし、風味も落ちない。


 当然、これは俺が【廃棄工場】から用意したものだ。


 ハイキ商店で販売している水筒は保温性はそれなりにあるけど、俺が使っている物は「二十四時間保温可能!」の触れ込みで有名になったメーカーの高級モデルだ。


 【廃棄工場】でも二本しかなかったから販売しないで自分用に使っている。



「あ、そうだ店長。」


 ひょっこりとクーナが応接室から顔を出した。


「ん?何かあった?」


 俺が聞き返すと、クーナは首を傾げていた。


「あの人、どこかで名前を聞いた気がして…たまたま耳に入った程度だったと思うんですけど。」


 俺はそんなクーナに苦笑いしながら、薬草茶をグビッと飲んで、ペンを持った。


「まあ、思い出したら教えてよ。さあ、もう一踏ん張り。」


 小休憩は終わり、日誌の続きを黒く埋めていく。






近日公開と言いつつ、一ヶ月ぶりの更新になって申し訳ありませんでした!

次回更新は…近々という事で。

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