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第九十三話 おやすみなさい、また明日



「………」


 時間は夜の十二時を過ぎたところだ。


 いつもならまだ起きている時間だけど、俺はベッドに入り、眠ろうとしている。


 …三十分前から。


「あ~…」


 うなりながら頭を抱えてしまう。


 別に何か大きな問題が起きている訳でも、失敗をしたわけでもない。


 ただ、明日…日付が変わったから今日か。


 今日が、ハイキ商店の開店日だってだけだ。


 この日の為に準備もしっかりしてきた。


 ギルゼさんにも頼んで、オープン時の予行練習もしたし、問題点も洗い出して解決済みだ。


 念のために商業ギルドから短期アルバイトもお願いして、接客教育や売り物の説明、マニュアルも作って確認したし…


「………」


 アルバイトしかしていなかった俺が、まさか個人経営者になるなんて…


 今更だけど本当にすごい事だよな。


 この世界でもお店を開くには色々な手続きはあったけど、思っていたほど複雑なものはなかったし、税金なんかも種類は少なかった。

 

 現代日本にいた時と比べるとすごく簡単だけど、逆に言えば「完全な自己責任」ってわけだ。


 ニュースでよく聞いていた「自己破産」なんてものはないし、借金が返さなければ最悪「奴隷」にまで墜ちてしまう。


 軽い気持ちで始めても「や~めた」は通じない。


 …いや、違う。


 現代日本でも、この世界でも結局同じだ。


 始めたからにはいつか来る終わりまで終わらせないように。


 終わらせるなら自分が納得の出来る終わり方になるように。


「上等だよ。」


 口に出してみると、ちょっと落ち着いてきた。


 ちなみに今日はハイキ商店の地下に泊まっている。


 万が一、寝坊しても地上に上がるだけで出勤できるので安心なのと、今日は一人でいたかった。


 …少し眠くなってきたから、周りの事もふりかえってみようか。


 まずハイキ商店のあるこの一帯。


 商店街から道を挟んだこの場所は空き家が多かったけど、今はほとんどが埋まりだしている。


 以前は、『ハイキ商店が出来るからそれにあやかりたい』…って声を聞いていたけど、今は別の理由の方が大きい。


 新しい警備隊の詰所が正式に出来上がったからだ。


 詰所の責任者にユーラさんが就任する事もあって、治安の良さを目当てに定住する人、お店を始める人も増えた。


 商店街も良い変化があった。


 商店街はあの騒動が終わってから人が徐々に戻りだし、土地を差し押さえられ、閉まっていたお店も昔と変わらないまま営業を始めている。


 少し離れているけど、警備隊の詰所も出来たから、完全に賑わいが復活するのもそう遠くないと思う。


 そういえばこの前、商店街を歩いていたら、「どうやって借金を返したんだ?」ってお客さんに聞かれている人がいた。


 その人は俺をちらりと見たけど、「それは言えないんだよ」と頭を下げてうまい事かわしてくれた。


 …結論から言うと、借金返済に使ったお金は全て俺が出した。


 正確には俺が商店街の人達に貸した。


 もちろん、最初は断わられた。


 当たり前だ。


 タダでさえ、騙されて借金背負わされたようなもんだし、心身共に疲弊している状態でもそんな言葉は信じられないだろう。


 だから商業ギルドの人を立会人として呼んで、借金を背負った人達と商店街代表のイールさんと俺が正式な契約を交わした。


 簡単にまとめると契約内容はこうだ。


・ハイキは商店街の借金全てを返済出来るお金を無期限無利子(諸事情による期限、利子の追加は無効)で貸し出す。

・商店街側はハイキの出す指示に従う(回数制限なしの拒否権あり、拒否権行使によるペナルティはない)。

・契約書の原本は商業ギルドが保管し、ハイキと商店街側はその写しを持つ。

・商業ギルドが商店街側に返済の意志がないと判断した場合、商店街側の拒否権を剥奪し、全ての資産、人材、生命の権利をハイキが所有し、それを認める(返済額が微々たるものでも基本的には返済の意志がないとは判断しない)。


 『チャミル・シュラートをやっつけたいから協力してください。その作戦には商店街の借金を全額返済する必要があります』って言ったら驚いたけど、相当借金取りに鬱憤もあったようで…


 唯一心配していた拒否権を使われることなく、皆さん契約を結んでもらって、作戦に参加してもらいました。


 それなりに大きな出費だったけど…まあ、先行投資って事で。


 あとは、そうだな。


 レミト婆さん…『おばあさんはよしな』と言われたから、そう呼ぶようにしたけど。


 助手が出来たって何日か前に話してくれたな。


 まだ会った事ないけど…


 助手か…


 …


 ……


 ………だいぶ、眠くなってきた。


 じゃあ、振り返りもここまで、だ。



 寝よう。


 おやすみなさい。


 起きたら新しい始まりが待っている。


 その目覚めまで、しばしお別れだ。


 日付も変わって誰に言うって訳でもないけど、あえてこう言おう。


「また明日。」

第二章、これをもちまして完結です。


ここまでお付き合いくださいましてありがとうございます。


…最終回みたいな終わり方ですが、まだ続きます。


少し時間が空きますが第三章をお待ちください。


第三章では第二章で語られなかった事柄にも触れていきます。


次回更新は年内の予定です…多分。


それでは、また次回に!

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