第八十六話 聞き届ける事にしました
お久しぶりです!
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『カメス様が商店街の方々にかけていた【支援魔法】は解除させていただきました。』
テーブルに置かれた四角い箱から流れる声を聞いて、俺は首を傾げた。
「【支援魔法】?」
それってゲームで言う【攻撃力アップ】や【速度上昇】ってやつだよな。
能力値を一時的に上昇させる、確か『パフ』って言うんだっけ?
…でも、なんで【支援魔法】を商店街の人達に?
「…なるほど、そういう事でしたか。」
「それなら全部、筋が通りますね…盲点でした…」
ギルゼさんとサイラさんは苦い顔をして納得しているようだけど俺は全く分からない。
「あの、どういう意味ですか?」
俺がそう聞くと、ギルゼさんが人差し指を自分の口に当てて、「静かに」と合図した。
「それについては今から彼が説明してくれるでしょう。私達は聞き届けるだけです。」
「…分かりました。」
ギルゼさんの言葉に頷いて、俺はこの四角い箱の魔道具…『遠距離音声伝達機七号』に意識を向けた。
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「カメス様が商店街の方々にかけていた【支援魔法】は解除させていただきました。」
「っ!?」
思わぬ言葉に息を詰まらせるチャミルだが、シャマトは尚も続ける。
「【支援魔法】はその名の通り、対象を支援する魔法です。腕の良い術士なら、水の入った桶も持てない子供を岩さえ持ち上げる怪力に、赤ん坊の柔肌を剣より固い鋼にも出来る。相性が良ければそれ以上の事も。」
それらはまとめて【支援魔法】と呼ばれる。
力や速さなど身体的な能力上昇もあれば、精神攻撃に対する耐性を引き上げるものもある。
時間制限はあるものの、元々の能力をより上昇させる【支援魔法】は冒険者の中でも重宝されている。
「…調べさせてもらいましたが、カメス様はかつて高名な【支援魔法】の使い手だったと。貴方はカメス様の力を利用して商店街の方々に【支援魔法】の一つ…【強化】をかけさせた。」
バンッ!
チャミルはテーブルを強く叩くと、勢い良く立ち上がった。
「馬鹿な事を言うな!【強化】などかければこちらが損をするだけではないか!そもそも今のカメスに大人数に【支援魔法】を使えるほどの力はない!」
泡を食ったようにまくし立てるチャミルだが、言っている事はおかしくはない。
確かに若かりし頃のカメスは【支援魔法】の使い手として名を馳せていた。
【支援魔法】の使い手が一度に支援出来る人数は五人が限界と言われているのに対し、カメスはその四倍以上の人数を相手に楽々と【支援魔法】を使っていた。
しかし、度重なる負傷や加齢により、今やその力は衰えてしまい、最も負担の少ない【支援魔法】を使ったとしても、一度にかけられる人数は全盛期の半分以下となっている。
とても商店街の人間全員に【支援魔法】をかける程の力はない。
それに【支援魔法】は戦闘時に戦いを有利にする為の魔法だ。
特に【強化】はシャマトが例で言ったような『身体能力の向上』に使われるもので、敵対する者に使うようなものではないし、そんな事をしたところでチャミル達が得をする事などない。
誰もがそう考えるだろう。
「ただの【強化】なら意味はないですね。ですから、【強化】の範囲を限定した。身体的な【強化】ではなく精神的な【強化】…攻撃性のみを【強化】した。これなら通常の【支援魔法】より術者の負担も少ないですし、かけられる人数も、効果時間も変わります。」
「っ!」
だから、誰も気づけなかった。
『そんな事は有り得ない』と誰もが思っていた。
【支援魔法】にも精神的な能力上昇はあるものの、それはあくまでも『精神攻撃耐性』…つまり、【精神干渉】による攻撃を防ぐものだ。
『攻撃性の強化』など、【支援魔法】には存在しないはずだった。
「【支援魔法】は人によっては『身体』だけでなく精神にも影響が出る場合があります。と言っても、【支援魔法】が切れてしまえばなくなってしまう程度の微々たるもの。『攻撃性の強化』と言いましたが、せいぜい『少し怒りやすくなる』くらいでしょう。」
「…そ、それに何の意味がある。」
口ごもるチャミルだが、シャマトは確信を持ってその答えを告げる。
「それが貴方の狙いだった。商店街の方の中には『少し怒りやすくなる』方が増えましたが、全く影響を受けない方もいました。そして…相性が良すぎて『すぐに手を出すくらい怒りやすくなる』方も現われた。」
「……」
「後は簡単です。悪質なクレーマーやチンピラを雇って商店街で好き勝手させ、タイミングを見計らって一斉に手を引かせる。それで終わりです。」
雇われた者達の横暴で雰囲気が悪くなった商店街では客に対する不信感と警戒が露わになっていた。
客もその空気を感じ取り、もめ事は増え、ちょっとしたトラブルから大喧嘩が起きるようになった。さらに商店街の人間が客に怪我をさせてしまい、その賠償金の為に借金をする者も出ていた。
「手っ取り早く【精神干渉】にしなかったのは発覚を防ぐ為でしょう。【精神干渉】は即効性がある代わりに、かけられた者は相応の違和感が出ます。一方、【支援魔法】ならそんな違和感はない上、身体的な変化も出なければ、いよいよ分かりません。」
【精神干渉】はその特性上、かけられた対象は独特の不快感を感じてしまう。それに対し、【支援魔法】はかけられた者の補助を目的としている魔法である為、不快感などはほとんどない。
カメスがさせたと言う【支援魔法】による精神作用はあくまでも副次的なモノであり、違和感が出ることはない。
カモフラージュも完璧だ。
誰かが『商店街の人間が怒りやすくなっている』と気づいても、あらかじめチンピラ達に商店街で横暴をさせた事で、『商店街の雰囲気が悪くなったから怒りやすくなった』と原因の答えも用意している。
それほど考え込まれた計画だった。
「当然、カメス様が毎日【支援魔法】を使っていた訳ではないでしょう。術者の放った【魔法】の効果を魔石のある限り維持し続けるような魔道具を用意すればいい。カメス様は魔道具に一度だけ【強化】を使うだけ。それを商店街中に仕掛け、借金の回収ついでに魔石の交換を行う。これなら永遠に【支援魔法】は続きますから。」
「…黙れ。」
「!」
シャマトは外の様子が少し騒がしくなった事に気づくが、相対するチャミルはそんな事を察することも出来ぬまま、声を荒げる。
「だからどうした!?貴様の言った事は全てデタラメだ!いや、その発言は不敬に当たる!これまでの罪状を含めて私が処刑する!」
明らかに貴族の特権ですらない暴論を振りかざすチャミルに対し、シャマトはゆっくりとドアに視線を向けた。
「残念ですが、手遅れのようです。」
「!?」
チャミルの顔色が変わったまさにそのタイミングだった。
『な、なんだお前ら、ぐわああ!』
『い、いってえ!』
部屋の外が一際騒がしくなったと思った一瞬後、
バアアアアンッ!
無駄に装飾が着けられたドアが乱暴に蹴り開けられた。
「な、なんだ!?」
慌てふためくチャミルに対し、シャマトは動じる事なく部屋に入ってきた者達…警備隊の制服を着た男の一人に声をかけた。
「…お待ちしてましたよ。」
「……」
男は無言のまま、シャマトに目を合わせはしなかった。
ただ、その鋭い目には少し前まで消えていた光が戻っていた。
男は毅然とした態度で今も狼狽するチャミルに口を開く。
「警備隊隊長のユーラです。チャミル・シュラート様に逮捕命令が出ました。ご同行をお願いします。」




