第八話 コミュ障ですが異世界交流出来ました
三日でブックマーク20件、高評価もありがとうございます!
不定期更新としてましたが、一話ずつでも出来上がったら更新していきます!
ユーランに入ってすぐは驚きの連続だった。
門をくぐると、足下は石畳の地面に変わり、大通りは様々な人で賑わっていた。
武器を持った若い男女五人が歩く姿が見えれば、露店では見た事のない生き物をおじさんが売っていたり、豪華な馬車がせかせか遠くを走っていたり…
建物は石造りが多いが、木造らしき建物も意外と多い。
さすがに鉄筋コンクリートの建物はないようだけど。
外国のおしゃれな街にありそうな風景だった。
「すごいな~。」
つい、そんな言葉も出てしまった。
異世界というより外国に観光に来たような気分だ。
スマートフォンのカメラアプリを使ってみようか。
でも、確かアプリになかったような。
出来たとしても目立つか…
などと、どこか浮かれていた。
それがいけなかったのだろうか。
平穏は突如終わりを告げた。
「おう、兄ちゃんよ!」
デカいドスの利いた声が背中から聞こえたので、ビクリと驚きながら振り返ると、
「………」
犬だった。
正確には顔が犬に近かった。
人間と同じ二足歩行の身体に鎧と剣を装備した黒い犬の…獣人?が立っていた。
「おう、なんだ?獣人視るのが珍しいか、ああ?」
獣人さんの睨むような視線とオラオラ声に、俺はすぐに頭を下げた。
「すみません!自分、田舎の出で獣人さんを視るのは初めてで!ご不快に思われたなら申し訳ありません!」
コミュ障の俺だが、とっさの謝罪だけは流暢に出来る。
…あの、地獄の接客バイトで手に入れた技だ。
これで「お、おお」と相手が反応した瞬間、
「次から気をつけます!では失礼します!」と追加謝罪の逃走式が完成する。
これなら万が一、追いかけられたり、「待て!」と言われても、
「こっちが謝って、貴方も受け入れましたよね、それで終わりです!」
と言い訳が出来る。
…中々の屁理屈だと思うが、そこは見逃してほしい。
俺は平穏に過ごしたいんだ。
トラブルもごめんだ。
さあ、早く!早く反応してください!
「………」
しかし、いくら待っても反応はない。
もしかしたら、もう相手がいないかもしれないのでゆっくりと顔を上げると、
「…兄ちゃんよ。」
獣人さんはそこにいたままだった。
低いうなり声を出しながら俺を視ていた。
…やっちゃった。
そう思った瞬間、ガシッ!っと獣人さんの大きな手が俺の肩を掴んだ。
「田舎の出で?獣人視たのが初めて?じゃあ、ユーランも初めてってことか?」
鼻息がかかるほど顔を近づけられた。
女神様と触れあった次がこれだから余計辛い。
女神様の『おお、女神様!』的なあのいい香りが『ザ・ワイルド!』と呼ぶにふさわしい野生の匂いに上書きされていく。
「は、はい…」
肩に食い込む力がより強くなった。
オワタ…
ごめんなさい、女神様。
もう終わりそうです。
女神様に心から謝る。
「…どんだけ大変な所から来たんだ、兄ちゃん!」
と、獣人さんが突然、泣き出した。
「え?え?」
酔ってる?もしかして、酔ってる?
でも、酒臭さは全くなかったよな?
「兄ちゃんがよ、あちこち珍しそうに視ているから心配になって声かけたけどよ…獣人もいないなんて…本当に田舎から来たんだな?」
鼻をずるずるすすりながら、獣人さんは涙を持っていたハンカチで拭いていた。
訂正…この獣人さん、すごくいい人!
獣人さんは涙をぬぐい、自分の胸をドンと叩いた。
「よし!兄ちゃん、もしユーランで困った事があったら俺を頼りな!俺はアシト!しばらくユーランにいるから、遠慮するなよ!」
獣人さん、いやアシトさんはそう言ってくれた。
「あ、ありがとうございます!えっと、俺は…」
そこで今更、自分の名前の問題に気づいた。
この異世界で前の世界の名前を使うのは少し危険な気がした。
直感だけど、こういう時の予感は昔から当たった。
アシトさんのような名前にしようか…
でも、この歳でカタカナ名前か…
ゲームのハンドルネームはちょっと抵抗あるし…
…そうだ。
「…俺はハイキです。よろしくお願いします。」
【廃棄工場】からのハイキ。
別に意味なんてない。
ただ、これなら響きもいいと思っただけだ。
今度は謝罪ではなく、挨拶の為にアシトさんに軽く会釈する。
「…ハイキ?」
あ、まずかったか?
名前だけ言うのに数秒間があったし。
怪しまれたか。
「いい名前じゃねえか、親御さんに感謝しろよ!それにさっきから挨拶もしっかりして!お前、どんだけいい男なんだよ!」
アシトさんはまた泣きそうになっていた。
いや、涙もろいにも限度があるでしょ。
本当に酔ってないよな、この人?
目頭を押さえていたアシトさんは、大きく息を吸い込むと、今度はキリッとした顔になった。
「いいか、ハイキ。もし、今日の宿が決まっていないならこの先の噴水がある広場に行って、左に行けば宿屋が並んでいる。オススメは『小鳥の宿』だ。『アシトに紹介してもらった』と言えば、問題ないはずだ。」
そのまま、アシトさんは腰に着けていた袋から一枚の紙を出して、俺に渡してくれた。
「この街の地図だ。俺は覚えたからやるよ。」
「え、いいんですか?」
アシトさんはうなずくと、今度は優しく俺の頭をなでた。
「田舎から出て、初対面の男と一緒だとお前も疲れるだろうし、今日は休め。あ、観光するなら裏路地は止めておけよ。今は特にな。」
アシトさんはそう言って、軽く手を振って人混みに姿を消してしまった。
幻でも見てたんじゃないかと思えるほど、あっという間に見えなくなってしまったけど、俺の手の地図が確かな現実だったと伝える。
「…カッコイイな。」
獣人のアシトさんと出会い、改めて異世界に来たんだと感じた。
会う人みんながいい人とは限らないだろうけど、あんな風に優しい人と出会いたいな。
見えなくなったアシトさんにせめてものお礼と消えた方向へ頭を下げる。
ただ…獣人がみんなアシトさんみたいな人なのか、アシトさんだけが特別なのか、そこはもう少し知る必要があるな。
獣人はワイルドなイメージあったけど、あれ…オカンだったよな。