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第七十五話 動く者と壊す者

【感想についてのお知らせ】

 いつも読んでくださっている方、初めましての方、こんばんわ。作者のクモトです。


 感想についてのお知らせです。


 書かれている感想には全て目を通させていただき、励みにしております。


 ですが、今回感想について以下の取り決めを勝手ながらさせていただきます。 


 【今後、感想につきまして、あまりにも悪質な物と作者が判断した場合、削除、ブロックなどの対策をさせていただきます。】


 突然の事で申し訳ありません。


 書かれている感想には全て目を通させていただいているのですが、一部の方による暴言のような感想により作品を純粋に楽しめない状況、またその方が他の作者様の作品に対しても同様の行いをしている事から、判断させていただきました。


 先ほども書きましたが、削除などの対策はあくまでも悪質な物とこちらが判断した場合になります。


 「○○だと面白くないな」や「こういう展開はちょっと…」のような感想に関しては削除するつもりはありません。

 暴言のような言葉、作者だけでなく読者の方も不快に思われそうな感想に対して上記の措置をとらせていただきます。


 長くなりましたが、以上、ご報告となります。


 2022年2月16日

 作者:クモト


 

 ユーランには四つの門がある。


 東西南北に分けられた門にはそれぞれに門番が数人常駐している。


 門番の仕事は主にユーランへの入退場への受付、入場料の徴収、不審な人物への対応、緊急時の門の開閉などがあるが、基本的には平穏な業務だ。


 入退場の受付は時間帯や時期によって人の混み具合によっては時間がかかるものの、大きなトラブルは滅多にない。


 起きるとしても年末年始や物流の多くなる時期がほとんどで、それも行列の小競り合いぐらいだ。


 今の時期なら何も起きない…はずだった。


「どけどけ!」


「ひき殺すぞ、オラア!」


「ヒャッハー!」


 現在、南門は異常事態に陥っていた。


 何台もの馬車や馬が手続きを無視し、一気に南門を通り抜けていったのだ。


 正規の手続きをしていた商人や並んでいた旅人達が慌てて避けたものの、南門は騒然としていた。


「警備隊にすぐ連絡だ!追跡の応援を要請しろ!」


 南門を担当する年輩の責任者が声を荒げて部下に命じる。


 南門の設備の損害自体は大した事はなかった。


 ただし、人的被害は違う。


 手続き中だった商人の馬車は男達の強引な割り込みで荷台が崩れていたし、並んでいた旅人達も馬を避ける為に身を投げたせいで身体を痛めていたようだった。


 責任者は唇を噛むと、両手の拳を握りしめた。


 死人こそ出ていないが、一歩間違えれば大惨事だった。


 長い間、門番を務めていてもこんな状況は初めての事である。


「…くそ!こんな事をしてタダで済むと思う---。」


「思っているんですよねえ。そして、それは間違っていない。」


「!?」


 責任者の怒りにそう言葉を返したのは、倒れていた旅人を介抱しているシャマトだった。


「連中は【獣爪団】って言う【旧市街】のチームです。貴族とも繋がりがあるし、追跡部隊も出ないでしょう。」


 シャマトは旅人の身体を見終わると、すくっと立ち上がった。


「…重傷者はいないようですね。これならまだ…」


 少し安心した顔をしたシャマトは呆気にとられている責任者へ忠告をする。


「気持ちは分かりますが、今は大人しくしていたほうが身のためです。」


「…お前もアイツらの手先なのか?」


 介抱こそしていたが、タイミングよく事情を知る人間が現われるのは偶然にしては出来すぎている。

 そんな疑惑の目を向ける責任者をシャマトはひらりと躱すと、すでに視えなくなっているチンピラ達の方向へ顔を向けた。


「せっかく準備していたのに、こちらの予想と全く違う事になるとは…まあ、逆にやりやすくなったと考えればいいか。」


 シャマトはそうつぶやくと、今も警戒を解かない責任者に近寄り、その手に何かを握らせた。


「…何のつもりだ。」


 いぶかしむ責任者にシャマトは笑顔のまま、


「少々お願いしたい事がありまして。お話だけでも聞いてもらえませんか?」


 追加で二枚目の大金貨を握らせた。



*******


 南門が突破される少し前…



「ハイキはね、『ユーランを出る』とわざわざ挨拶に来たのさ。目的地は分からないが、南へ向かうってね。」


 レミトはジキルに自分の知っているハイキの事を話した。


 途中、ジキルからハイキ個人についての質問があったので、それも答えられる範囲で答えた。


 もし、相手がカメスであればレミトは間に適当な話を挟んで、時間を稼いでいただろう。


 だが、ジキルにそれが通用しない事。


 そして、自分がそれをしたら、今運ばれている男がどうなるかは容易に想像出来た。


「なるほどね…ありがとな、婆さん。」


 ジキルはレミトの言葉に納得すると、立ち去ろうとして…


「ほい。」


 懐から出した中金貨を二枚レミトの前に置いた。


「…何のつもりだい?」


 レミトの疑問にジキルは「おいおい」と呆れた表情になった。


「なにって…あの馬鹿に使った薬草代だよ。少ないけれどこれで勘弁してくれ。」


「…あんなのただの痛み止めだよ。そんなに払う必要はないさ。」


 レミトは置かれた中金貨二枚を返そうとするが、その前にジキルが中金貨二枚を回収し、レミトの伸びた手に握らせた。


「…いいから受け取りなよ、婆さん。【ミレトミア草(・・・・・・)なんて代物(・・・・・)大金貨でも(・・・・・)足りないんだ(・・・・・・)。ここは俺の顔を立ててくれよ。」


 ぼそりと耳打ちするジキルにレミトはさっきまでとは違って、純粋に興味のある顔になった。


「…アンタ、本当に何者だい?【ミレトミア草(あんなもの)】はそんじょそこらの人間じゃ手にとっても分からないものだよ。」


 【ミレトミア草】はレミトが言ったように直接食べる事で痛み止めと精神安定の効果が起きる薬草だ。


 単体での効果はそれだけしかないが、ある特殊な薬の材料(・・・・・・・・・)の一つ(・・・)であり、市場に出回る事がほとんどない。人の手による栽培は不可能で自生しているものを見つけるしかないが、その場所を探すことが難しい上に見た目が似ている薬草が多く、熟練の薬師でも見分けるのは至難の業とされている。

 それでいて特殊な薬の材料という情報だけが出回っている為、本物の価値は天井知らずとなっている。


 レミトが放り投げた行動は、もし【ミレトミア草】の価値を正しく知っている者がいたならば発狂するほどの雑な扱いだった。そのせいもあってか、先ほどの騒動の時は誰一人本物の【ミレトミア草】だと見抜けなかった。


 ただ一人…ジキルを除いて。

 

「…分かったよ。じゃあ、受け取らせてもらうよ。」


 レミトが中金貨を受け取ると、ジキルは満足したように立ち上がった。


「じゃあ、俺は行くよ。またな、婆さん。」


 軽やかに去って行くジキルを視ながら、レミトは彼の事を考えていた。


「獣爪団のジキル…相当危ない奴だね。」


 強者特有の存在感もないと思えば、部下へ迷い無く制裁を下す冷酷さ、【ミレトミア草】を一瞬で識別するほどの洞察力に、希少素材の価値を判別出来る知識の持ち主。


 そんな男が今になってどうして【旧市街】を出てきたのか。


「番狂わせ…いや、違うね。」


 レミトはジキルの中金貨を持っていた古い財布にしまうと、鞄の中から新しい(・・・)ミレトミア草(・・・・・・)】を取り出した。


「さて、ハイキ。思ってもみなかった奴が出てきたよ。一歩間違えれば、あの男は…」


 わずかな心配とそれをはるかに上回る楽しみを感じながらレミトはつぶやく。


「盤をひっくり返して、何もかもぶち壊すよ。」



********



「う~ん…」


 ジキルは難しい表情で空を視ていた。


 露店通りから出た後、たまたま近くにいた団員にハイキの行き先を伝えはしたが、浮かんだ疑問は消えなかった。


「…なんであの婆さんはハイキを気に入ってんだ?」


 短い時間だが、レミトと話をしたジキルは彼女の人となりをある程度理解した。


 その上で、レミトがハイキを信頼するように話していた事が納得出来なかった。


「な~んか、おかしいな。」


 自分が前もって聞いていた(・・・・・・・・・)ハイキの情報と、レミトから聞いたハイキの話にはズレがあった(・・・・・・)


 名前や商業ギルドのBランクと言う事は同じだが、素行や性格、商売に対する姿勢など…肝心の部分が(・・・・・・)別人レベルで(・・・・・・)違っていた(・・・・・)


「…仕方ねえか。」


 行き先を伝えた団員達にも聞いてはみたが、彼らもハイキについては人相以外は最低限の情報しか知らなかったようだった。


 なら、連絡を寄越した人物へ直接話を聞く方が早い。


「…こそこそ動いている(・・・・・・・・・)奴もいるみたいだし(・・・・・・・・・)。まったく…面倒だ。」


 ため息をつきながら、ジキルは目的の場所へ足を運んでいく。





 【獣爪団】の一部団員が南門を突破したのはこのすぐ後だった。

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