第七十話 覚悟を決めました
お久しぶりです。
今年もよろしくお願いします!
今年の目標はブックマーク1000件突破です。
そして、お知らせです。
時間は未定ですが、次回は近日更新予定です。
お待ちいただければ幸いです。
まずは状況を整理しよう。
シュラートの目的は二つ。
『商店街を貴族専用商業施設にする』…長いので、今からは『再開発計画』と呼ぼう。
それと『ハイキを利用出来るようにする』事だ。
俺を利用出来るようになれば、一番の問題になっている『再開発の資金難』は解決するし、懐が潤えば『商店街の地上げ』ももっとやりやすくなる。
逆に言えば、『ハイキを利用出来ない状況にする』事が出来れば、全てが解決する。
その為には脅迫状に書かれていた俺への襲撃をどうにかしなくてはいけない。
脅迫状には『十日以内に返事をしろ』と書かれていたけど、『十日後から襲う』とは書いていない。
ギルゼさんにも言ったけど、商業ギルドを出た後、すぐ襲われてもおかしくないし…
…しばらくどこかに隠れるか?
その間に作戦を考えて、一気に動く。
でも、そうなるとどこに隠れる?
まっさきに浮かんだのは【小鳥の宿】だ。
『特別な理由がない限り、どんな立場の人でも一切の戦闘を禁じる』決まりがある【絶対不戦の場所】。
俺の知る限り、ユーランで一番安全な場所だ。
ここなら……
…やめよう。
モルスと違ってシュラートが決まりを守るとは思えないし、むしろ進んで破ってきそうな気がする。
女将さんは『わざわざ破るのはよっぽどの馬鹿』って言ってたけど、相手は『よっぽどの馬鹿』だし。
俺のせいでフーさん達に迷惑をかけたくはない。
ちょっとでも不安があるならやめておくべきだ。
次の候補は…ハイキ商店の生活スペースだ。
俺の所有する物件の地下だから大手を振って襲撃は出来ないだろうし、お店の周りも閑散としているから何かあっても被害は少ない。
引きこもるには最適…
…いや、これもダメだな。
元々、昼でも人通りが少ないし、夜なら堂々と襲撃出来てしまう。
それに誰にも迷惑をかけない安全な場所に思えるけど、生活スペースの出入り口は一つしかないから、お店を制圧されたら逃げ道がなくなる。
脅迫状に「店の権利も渡せ」と書かれていたからお店を壊す事はしない…と思うのもやめておこう。
お店の中にある商品や物を根こそぎとって、証拠隠滅の為に放火…なんてことも充分あり得る。
スプリンクラーも火災報知器もない木造の家に放火されれば、気づく間もなく火の海だ。
生活スペースのある地下に火が回らなくても、酸欠と高温でじわじわと息の根を止められてしまう。
あと思い浮かぶのは…
…農業地の森。
これは絶対に無理だ。
森は隠れやすそうだけど、逆に言えば向こうも奇襲をかけやすい。
出口を固められて大勢で捜索されたら、一日ももたないだろう。
…その場で埋められても目撃者もいない。
なら、いっその事、迎え撃つか?
…これにも問題がある。
シュラートは馬鹿貴族だけど、動かせる人間は大勢いる。
商店街への嫌がらせを延々と続けるぐらいだ。
質を問わなければそれなりの数になるだろうし、ギスやユミラのような厄介そうな奴らもまだいるかもしれない。
…だいたい、迎え撃つと言っても、俺の戦い方は「【神眼】で攻撃を見切っての相手の無力化」だ。
一度に来る人数が四、五人ぐらいならなんとかなっても大勢への対応は難しい。
【赤の牙】は四人がそれぞれ剣や弓とか役割を持っていて、連携を前提にしていたから対応出来たけど、連携もない集団で特攻をかけられたら対応なんてできるわけがない。
こっちは一人だから、ローテーション組んで、毎日襲われたら身体が保たないし、まともに眠れもしない。
…このままでは手詰まりだ。
せめて情報が欲しい。
シュラートが動かせる部下の数と襲撃の予定日。
それが分かればまだ手の打ちようがある。
今のままじゃ逃げ隠れも…
…。
……。
………あ。
「…ギルゼさん、ちょっと提案があるんですけど。」
面倒だけど、大体を解決出来る方法がある。
…あんまりやりたくないけど。
俺は思いついた案をギルゼさんに説明してみた。
*******
「…ハイキ様、本当によろしいのですか。」
説明を聞き終わったギルゼさんの顔はとても怖かった。
「確かにそれならすべての問題を解決出来るでしょうが…ハイキ様にかかる危険も桁違いのものになります。」
「…ですね。」
と言うか、怪我じゃ済まないかもしれない。
俺だって自分がこんな状況じゃないならやりたくはない。
俺は現代日本の軍人でもなければ、この異世界の冒険者でもない。
静かな暮らしを望んでいるだけのただの一般市民Aだ。
けど、今はやるしかない。
「でも、今の状況ならこれが最善手だと思います。だから、お願いします。協力してください!」
誠心誠意、頭を下げる。
俺の考えた作戦は複雑なものじゃない。
ただ、それを実行する為には俺一人じゃ無理だ。
助けが必要になる。
それもたくさんの…
「………」
「………」
時間にして、一分が過ぎた頃だった。
「…頭を上げてください。」
顔を上げた俺の目に映ったのは、決意をした商業ギルド支部長の顔だった。
「その案に乗りましょう。手続きなどは私が請け負います。皆様へのご連絡も必ず。」
はっきりと口にするギルゼさんを視て、俺は内心ほっとした。
「ありがとうございます!」
これでなんとか…
「…ただし、条件があります。」
「え?」
条件って何だ?
構える俺に対し、ギルゼさんは
「…必ず戻ってきてください。」
優しく微笑んでくれた。