第七話 【スキル】は魔改造されていました
あんパンを食べ終えた後、俺はスマートフォンをいじっていた。
【収納】をタップすると、ペットボトル飲料水と携帯食料、それにお金のアイコンが出たのでペットボトル飲料水を選ぶと手元に500ミリペットボトルの飲料水が出てきた。
早速水はあんパンを流し込むのに使わせてもらい、残りはまた【収納】に戻すと、飲みかけの水のアイコンが新しく増えていた。
分類も細かく出来るし、アイコンも分かりやすいし【収納】はとても重宝しそうだ。
次に【スキル一覧】をタップすると、さっきと同じ【使用可能スキル】が表示された。
俺が女神様にお願いした【スキル】は
【廃棄工場】
【鑑定】
【リサイクル】
この三つだ。
だが、表示された内容は少し変わっていた。
【廃棄工場】
【神眼】
【破壊と再生】
「…え?」
さっきはさっと…【廃棄工場】しか視ていなかったから分からなかったけど、なんだこれ?
…色々と突っ込みたいだろうけど、一度説明を読もう。
まず、【廃棄工場】についてだ。
【廃棄工場】をタップすると、説明が出てきた。
【廃棄工場】…現代日本で廃棄予定の物を自由に取り出せる。各分類別に一品一品細かく分けられており、時間経過は起きず、これ以上傷む事も腐る事もない。代償無しでの使用可。保管の容量には限界がないが、取り出さない廃棄予定品に【廃棄処分】を実行する事で【廃棄工場】のレベルが上がっていく。レベルアップに伴い、扱う物の種類が増えていく。
俺が生きていく為に異世界で絶対に必要な【スキル】だ。
何故、【廃棄工場】にしたか。
それは【廃棄予定】の物が必ず使えない訳ではないからだ。
確かに食料品で廃棄になる物は、傷んだり、腐ったりする物が多い。
だけど、例外はある。
さっき食べたあんパン(潰れ)がその良い例だ。
現代日本では、色々な理由であらゆる物が廃棄される。
野菜一つでもそうだ。
食べられるが見た目が悪い、味に問題ないが出荷の重量を合格していない、品質に問題はないが取引先からキャンセルして仕方なく処分…などだ。
カップ麺に至っては、期限内でも賞味期限まで残り数ヶ月になると廃棄される物もあるらしい。
と言っても、俺は環境問題に詳しい訳でもない。
今のだってマンガとテレビの受け売りだ。
本当ならもっと使い勝手の良いスキルがあったかもしれない。
だけど、【廃棄工場】なら菓子パンのビニール袋も廃棄工場に送って処理も出来る。
ゴミのポイ捨てなんて絶対にしないけど、この異世界に捨てると考えると躊躇いがある。
異世界の環境にもあまり影響を与えたくない。
だから、この【廃棄工場】は一番良いのだ。
女神様から「でも、このままだと貴方生ゴミ食べる事になるかも」と言われて、一緒に細かく修正してなかったら危なかったけど…
それにレベルのアドバイスもあったし、レベルを上げ続ければ、何とか使えるフライパンも手に入る可能性も…
「ん?」
俺はそこである事に気づいた。
【廃棄工場】の説明分の画面右端に下向きの矢印マークがあった。
これ以上は説明はないはずだけど…
画面を下にスクロールして視ると、何も書かれていないものの不自然な程に長い空白が続いていた。
「もしかして…」
試しに空白を長く押していると、指の触れた部分が選択され、隠された文字が浮かび上がってきた。
確か、あぶりだしって呼ばれる書き方だ。
文字を背景と同じ色にする事で、文字を『全選択』にしないと見る事の出来ない方法だ。
すぐに『全選択』を実行して視ると、そこには
※女神サービスを追加しとくね。【廃棄工場】はフィルター設定も使えるようにしたよ。最初は何もしてないけど、食料品の表示を規定上廃棄せざるをえなかった物限定にしたり、消費期限を一秒でも超えた食べ物や製造会社の都合上、期限内だけど廃棄せざるしかない食べ物だけの表示が出来ます。
ゴミ箱に入ったお弁当とかどうやっても食べられない物は自動で【廃棄処分】されるようにしてるから。あと、料理屋さんとかの注文キャンセルで廃棄になった食べ物は廃棄が決定した瞬間に、【廃棄工場】に転送されます。料理だけだからお皿は用意してね。
と書かれていた。
「…そうか。」
納得出来た。
正直、菓子パンを選んだ時にそこまで酷い物が表示されなくて驚いていた。一つくらい(汚)や(臭)などの文字が付いていても仕方ないと思っていたのだ。
女神様、仕事し過ぎじゃないか…
俺一人にここまでしていいのかな?
だけど、それよりも…
次に、【神眼】の項目をタップする。
【神眼】…神の眼。物事のあらゆる状態を見抜き、理解出来る。
これにも長い空白があったので恐る恐る長押しして『全選択』を選ぶと、また長い説明が表れた。
※女神サービスよ。最初は貴方の希望通り【鑑定】にしようとしたけど、この世界では【鑑定】を持つ人間も多いし、精度もバラバラなの。それに【鑑定】を人に使うと、された人間は独特の違和感で気づく事が多い。でも、【神眼】は【鑑定】を越えた【超級スキル】だから、貴方は誰にも気づかれずに情報を見る事が出来る。生物に使えば悪意があるかどうかも見えるし、集中すればすごく遠くも見えるから有効に使ってね。
との事だった。
いや、【超級スキル】って何?
気になって立ち上がり、目的地だと思われる外壁を集中して視る。
街の門では門番らしき人が一人一人からお金を徴収していた。
入場料みたいなものだろうか。
一カ所しか入り口がないからか、人気アトラクションの待機列並に長い列が続いている。
ちなみに俺が今いる場所から街の門までは五キロ以上はあるが、何の違和感もなく見えている。
手元に視線を移すといつも通りに物が見えていた。
あれだけ離れていた場所にピントが合っていたのに、手元にもピントがすぐに合うって…
「……」
もう驚く気にもならない。
ありがたいが、恐ろしい。
そう言えば女神様、『【スキル】を修正する』って言ってたけど…
三つ目の【スキル】は名前からして物騒だ。
俺が考えたのは不要品を再利用する【リサイクル】だったんだけど。
こんな恐ろしい名前じゃなかったんだけど!
【破壊と再生】って何でしょうか?
震える指で三つ目の項目を押す。
【破壊と再生】…戦闘利用可能スキル。指定した範囲の物を問答無用で破壊する。生物などにも関係なく使用出来る。また破壊した物はその物質を利用した別の物へと再生が可能。ただし、死亡した生物は除く。
…なにこれ?
しかも、一番長い空白が続いているし!
怖すぎてあぶり出しの文字を視る気も起きなかった。
「ふう…」
スマートフォンをポケットに直し、俺はユーランへの移動を再開した。
修正ってレベルじゃない。
魔改造だ。
女神様なのに魔改造はおかしいけど…
一応、女神様直々だから神改造か?
静かに暮らしたいだけだったのに物騒な【スキル】ばかりになったな。
そんな事を考えていたが、街が近かった事もあり道中モンスターにも盗賊にも遭わず、特に問題もなく俺は三時間ほど門の列で並んで夕方にようやくユーランの街へ入ったのだった。