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第六十六話 一難去ってまた一難でした

お久しぶりです!

一ヶ月以上も更新せず、申し訳ありませんでした!

活動報告にもお詫びとか色々書いています。

またどうかよろしくお願いします。




「…はあ。」


 ユミラとギスの来訪から五日が過ぎていた。


 お店は順調に開店への準備を進めている。


 販売する商品の確認や商店街側との調整など、やる事は多いけどなんとかやれている。


 イールさんも商店街の人達の説得に成功したそうで、こちらの開店日に合わせた大々的な特別イベントをやるそうだ。


 サイラさんからは新しく【解除】系の【魔道具】を購入して、お店自体にも【精神干渉】などの効力が起きないような設置型の【魔道具】も取り付けてもらった。


 サイラさんは少し驚いていたけど、特に理由を尋ねはしなかった。


 …正直、助かった。


 ユミラとギスが話していた事、それに俺が【恐慌状態】にされた事はランドさんしか知らない。

 と言うより、あの二人の事は誰にも話していない。


「奴らは『あの夜の事は何もなかった事にする』というこちらの提案を呑んで、身を退きました。奴らの立場を考えれば筋を通すべきだと思います。」


 ランドさんからの助言もあったので、あの夜のいざこざはランドさんと俺だけの秘密になっている。


 話せば今度こそあの夜の続きが始まってしまう。


 その判断は正しかったようでユミラとギスはあれから一度も見掛けていないし、変な人間がお店や俺の前に現われたりはしなかった。


 それがこの五日の出来事だ。


「はあ…」


 で、さっきから続いている俺のため息は全く別の理由だ。


 今すぐなかった事にしたいけど、もう遅い。


「面倒くせえ…」


 心からの言葉が出るけど、それでも状況は変わらない。


「はあ…」


 俺はこのため息の原因となった物…ついさっき渡され…無理矢理押しつけられた手紙をもう一度広げてみた。


「……」


 何度読み返しても内容が変わるわけはないけど、それでもせめて何か落としどころがないか文を眼で追ってしまう。


 長々とそれでいて遠回しに、オマケにイエス以外答えを許さない文章はどこかのお役所かと思ったけど、送り主は役所じゃない。


 ユミラとギスの雇い主らしいあのシュラートって貴族からだ。


「…やっぱりそうだよな。」


 手紙の内容を簡単にまとめると、こんな感じだ。


『十日以内に店の権利と販売する商品を明け渡せ。冒険者ギルドとの専属契約もこちらが引き継ぐのでその手続きを行え。商品は無期限で用意する事。必要経費は全て自費で。売り上げは全てこちらで管理し、給金はこちらから支給する。従わなければ二度と商売が出来なくなってしまう悲劇が起きるだろう。』


 手紙と言うより脅迫状だ。


 一度、お店を売る話を断ったからか、とにかく条件が酷い。


 …ジャイ○ンでもここまでしないってほど、無茶苦茶な条件だった。


 お店の買い取り金額に関しては一切書いてなかったし、もし俺がお店を売っても俺は永久に働く事になっている。


 この感じだと給料も出るか怪しい。


「…はあああ。」


 これ、絶対に俺が断る事を前提にしているな。


 受ければそれで良し、断ったら堂々と叩きのめすって感じだ。


「…馬鹿じゃ無いのか。」


 きっかけはシュラートが支援していた冒険者パーティー【赤の牙】を俺がねじ伏せた事が原因だけど、あれは正当防衛だ。


 無茶苦茶な事を言ってきた【赤の牙】に対し、こちらは丁重にお断りしただけだ。


 その結果、逆ギレした連中は人通りも多い真っ昼間から街中で武器を出して、俺に襲いかかってきた。


 それがあの日の出来事で、俺の中ではとっくに終わっていた話だ。


 ただ、シュラートの方はそうではないそうだ。



 眼をかけて支援していた【赤の牙】を冒険者でもない俺が抑えつけたと聞いて、メンツを潰されたと怒り狂っているらしい。


 で、チンピラを送ってきたり、脅迫状を叩きつけたり…


 やることが子供の仕返しだ。


 Eランクだった時ならともかく、こっちは今やBランクの商人だし、冒険者ギルドと商業ギルドの二つのギルドの支援もある。

 

 いくら貴族でも横暴がすぎれば、自分の首を絞めるだけのはずなのに。


 確か、異世界物語だとこういう時は二つのパターンが多い。


『何をしても自分は許されると勘違いしている無能な権力者』か『何をしても握りつぶせる有能な権力者』だ。


 どっちにしても迷惑なのは同じだけど。


「…仕方ないか。」


 一人で悩んでいても仕方がない。


 ここまでの事態になったのなら、こっちも後ろ盾を遠慮無く使わせてもらおう。


 眼には眼を。


 権力には権力だ。


「………」


 念のために【廃棄工場】からも使えそうな物を探しておこう。


 手紙の渡され方が渡され方だったからな。


 『十日以内』って手紙には書いてあったけど、その前に実力行使をされる可能性も充分あり得る。


「……」


 一時間ぐらい前…手紙を渡された状況を思い出す。


****


 商品の配置の準備を進めていると、


「店主はいるか!」


 乱暴にドアを開けたのは執事服を着た年配の男の人だった。


「……」


 呆然としていた俺を見ると、男の人はそのままズカズカとお店に無断で入り込んで、


「貴様のような身の程を弁えぬ馬鹿へ我が主人からのありがたい贈り物だ。光栄に思え。」


 嫌みたっぷりにそう言って、俺の足下へ手紙を投げつけると、さっさと帰っていった。


「………」


 時間にして三十秒もなかった。


 言いたい事だけ言って、こちらの反応などどうでもいいという感じだった。


******



 …シュラート本人はどういう人か分からないけど、手紙の内容や使いで来た執事に挑発紛いの事をさせるってだけで、どんな人間かは想像が出来た。


 あっちがその気ならこっちもやれるだけやっておこう…


「…あ、そうか。」


 今更ながら、自分が怒っている事に気づいた。


 あまり怒らない俺だけど、今回は限界だったようだ。

 

 …まずはこの後、商業ギルドに行こう。



 ******



 ユーランの街の片隅には、【旧市街】という区画がある。


 その名の通り、かつての市街地だった場所だが、区画整理や街の発展により、いつしか寂れ、住民は徐々に新たな市街地へ移り、今はボロボロの家屋だけが残されている。


 …記録上は。


 ユーランという賑やかな街にも様々な人種が存在する。


 その中には日の当たる場所では生活出来ない者も少なくない。


【旧市街】にはいつしかそんなごろつきや犯罪者、身寄りの無い者や行く当てのない者達が集まり出し、独自の街を形成していき、ユーランの裏側を象徴する場所となった。


 非合法の物品が当たり前のように取引され、いくつもの犯罪組織がシノギを削る、警備隊も近づけない無法地帯。


 それが今の【旧市街】だ。


 もちろん、この【旧市街】の存在はユーランの人間は誰もが知っている。それでもこの【旧市街】を無くそうと声をあげる者はほとんどいない。


 誰も平和な日常を自ら地獄にしたくはないだろう。


 この【旧市街】には大小含め、いくつもの組織が存在しているが、対立、同盟、静観などにより絶妙なパワーバランスが取れている為、【旧市街】にはある程度の秩序が保たれているのだ。


 殺伐とした空気こそ流れているが、組織同士による命を懸けた抗争などはほとんど起きないし、わざわざ起こそうとする者もいない。


 逆に言えば、そのパワーバランスを崩すか【旧市街】という受け皿を壊してしまえば、仮初めの平穏は消え、抑えられていた連中は暴れ出し、ユーランの街全体を巻き込んだ抗争の日々が始まってしまう。



「…そんな【旧市街】によくぞおいでいただいたものだ。」


 スキンヘッドの男、モルスは酒場のカウンターで酒をあおりながら、横に座る男性…フードを目深に被った男に眼を向ける。



「忠告しておこう。アンタみたいな格好はこの【旧市街】では珍しくはない…が、話しかける言葉、椅子に座り、酒を注文するまでの所作。それだけで余所者だとすぐに分かる。」


 顔を隠す為にフードをかぶってはいるが、口元は丸見えだ。さらに言えば、アクセサリーだろうか。服の袖口に着けられている金色に光る何かが薄暗い店内の灯りに反射している。


「…話を進めよう。」


 フードの男はモルスの言葉を無視すると、目的を告げる。


「襲撃を頼みたい。報酬は大金貨十枚。前金で大金貨三枚。」


 フードの男がテーブルに出した三枚の大金貨をモルスは眼で軽く受け流すと、


「…標的は?」


 大金貨を受け取らず、モルスは続きを促していく。


 襲撃の依頼など山ほど受けていたモルスは淡々とした様子だったが、フードの男はそこでニヤッと口元を歪ませた。


「【アームズ工房】と【ハイキ商店】だ。」


「……」


 酒を飲んでいたモルスの動きが止まった。


 フードの男は笑みを浮かべたまま、さらにテーブルに大金貨をまた追加していく。


「【ハイキ商店】はお前にとって浅からぬ相手のはずだ。店主のハイキは好きなだけ痛めつけてもいい。しゃべれる程度にはしといてくれ。」


 テーブルにはすでに十枚の大金貨が積まれている。


「…なんのつもりだ?」


 報酬と同じ額の金貨にモルスはいぶかしげに尋ねる。


「なに、これはただの気持ちだ。好きにしてかまわん。」


 フードの男は満足気な様子で頷いた。


「悪い話ではないはずだ。最近は【旧市街】を離れて、当てもなくぶらついているんだろ?」


 気分が良くなったのか、男はカウンターに出されていた酒のグラスを持ち、唇に傾けた。


「さあ、返事を聞こうか。」


「……」


 モルスはグラスをテーブルに置くと、返事をする為にフードの男に向き直った。


「?」


 その時、モルスはようやくさっきから光を反射している、フードの男が袖口に着けているアクセサリーの形を視た。


 フードの男の服の袖口には、金色の十字架型アクセサリーがいくつも着けられていた。




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