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第六十二話 只者ではありませんでした

お久しぶりです!そして更新が遅くなり申し訳ありませんでした!

三週間ぶりの更新になりますが、今後もよろしくお願いします!

何故、更新が空いたのかは活動報告に書いてますので興味のある方は活動報告も併せて読んでいただければと思います。

更新の間隔は空きますが、八月も更新頑張ります!





「これはこれは…【アームズ工房】の見習いの方が何のご用でしょうか?」


 ユミラは丁寧な口調でランドさんに話しかけているけど、放っている雰囲気は明らかに戦闘体勢に入っている。気に入らない事があれば、すぐに手が出てもおかしくない。


「……」


 弟分のギスは黙っているけど、両手をズボンのポケットに入れたまま、警戒を解いていない。ランドさんと俺の両方を視界に入れているし、こちらもいつでも戦闘出来る状態だ。


「お前達こそ、何をしている。こんな時間に開店もしていない店に押しかけるのは非常識だと思うがな。」


 ランドさんの表情は静かだが、威圧感は変わらない。なんか重みがあると言うか…


 俺もそれに当てられているのか、指先の動きが鈍くなっている気がする。


「この店は冒険者ギルド、商業ギルド、二つのギルドと支部長が支援している。下手にもめ事を起こせば、損をするのはどちらか分かるはずだが?」


 開けっ放しのドアの前に陣取っているランドさんは二人に対して全く臆する事なく、冷静に言葉を続けていく。


「それにな…堅気を脅してちょっと顔潰されたからって手を出すってのは筋が通らねえ。どう考えてもな。」


 ランドさんの言葉は的確で、なおかつ迷いがなかった。

 

 さっきからユミラ達が反論する隙を与えてすらいない。


 …初めて会った時、情けない声を出していた姿が本当に演技だったと今更ながら実感した。


 …でも、この感じ、ただ度胸がある(・・・・・)だけじゃない気がする。


 【アームズ工房】で鍛えられていたから…とかじゃなくて。


 まるで、何度もこんな場面(・・・・・・・・)を経験してきたような(・・・・・・・・・・)


「…それで、結局何が言いたいんだ?」


 ユミラは話を聞く気になったのか、拳を下ろした。心なしか雰囲気も少し落ち着いたように視える。


 ランドさんはその一瞬を見逃さなかった。


「今回の一件、互いに『何もなかった(・・・・・・)』事にしたい。」


「あ?」


「!」


 ユミラ、ギスがそれぞれ反応する中、ランドさんは親指で背後の開いたままのドア、いや外を指さした。


「今の時間『一般人』は外にはいない。ここにいる者を除けば、この事態を知る者はいない。」


 そのままランドさんはお店の中を見回した。


「分かるほどの被害もまだ起きていない。今なら、こちらがお前達のメンツが潰した事も、お前達がこちらに手を出そうとした事も、俺達が話さなければ誰にも分からない。このままだと互いが損をするだけだ。」


 互いが得をしない代わりに損もしない。


 『何もなかった』事にすると言う事はそういう事だ。


「…それを俺達が受け入れると思うのか?」


 ユミラが再び拳を構えようとすると、


「無理だろうな。頭で理解しても納得は出来ないだろう。」


 そう言いながらランドさんも両手を挙げ…


 え?


「…何のつもりだ?」


 ユミラの言葉は俺の気持ちと同じだった。


 いつでも戦闘態勢に入れるユミラとギスに対して、ランドさんの姿は…


「見ての通りだ。」


 両手を開いたまま上に上げるランドさんのその姿は…どう見ても降参の意思表示にしか視えなかった。


「俺は一切抵抗しない。好きにしろ。代わりに、この店にもその人にも手を出さないでほしい。」


「ランドさん!?」


 【神眼】で視なくても分かる。


 今のランドさんにはさっきまであった威圧感も消えている。


 それに脱力しきっているから、最低限の防御すらなくなっている。


「…分からねえな。そこまでする理由はなんだ?なんの得がある?」


 ランドさんが身体を張ってまでこのお店を守る理由なんてないはずだ。


 初めて会ってから何度か話す機会はあったけど、特別仲が良い訳でもないし、せいぜいついさっき掃除道具を渡す約束をしたぐらいだ。


 …本当にそれだけのはず。


 ユミラの問いかけにランドさんは表情一つ変えずに、


「この店とその人には守る価値がある。俺にとってはそれで充分だ。」


 そう言いきった。


「…ランドさん。」


 現代日本でウソや見せかけの言葉は何度も聞いた。


 それを信じて、裏切られて、まだ信じていたくて、でも結局裏切られて…


 いつの間にか、ウソや悪意に気づくようになっていた。


 【危険察知(アラート)】もそのせいで身につけてしまった。


 だけど…


 今、確かに聞いた言葉は打算でも、見栄でも、格好着ける為のウソや見せかけの言葉じゃなかった。


 正真正銘の…心からの言葉だった。



 そして…



 それで全てが決まった。


「…どうやら、ここは退いたほうが良さそうだねえ。」


 ギスはズボンのポケットから手を出すと、ため息をついた。


「ユミラ、帰ろうかあ。元々の用件は済んでいるし、これ以上は意味がないよお。」


 完全に戦う気がなくなったのか、ギスは大あくびまでしている。


 …けど、


「…このまま黙って引き下がれって言うのか!?」


 ユミラは違ったようだ。


 クールダウンしたように視えていたけど、また怒りで顔が歪んでいる。固く握りしめられた拳からは力の入りすぎなのか、骨の軋む音まで聞こえる。


「『好きにしろ』と言ったのはアイツだ!なら、好きなだけぶん殴ってーー」


「ユミラ!」


 今までとは違う鋭い叫びがユミラの動きを止めた。


 その声を出したギスはゆっくりとユミラの肩に手を置いた。


「今日は何もなかった(・・・・・・)んだ。それにユミラも気づいているだろ(・・・・・・・・)?」


「……っ。」


 唇を噛むように押し黙るユミラを説得するギスを視て、俺はこう思った。


 …誰?


 いや、見た目は変わっていないけど、声がなんか…間延びしていたのんびり声から、イケメンボイスに変わっているんだけど…


 そして、ユミラは顔を落として、自分を落ち着かせるように大きく息を吐いて、拳を解いた。


「…分かったよ。」


 ユミラは短く答えると、ランドさんの横を通り過ぎていく。


「…悪かったな。」


 小さな謝罪の言葉を残して、ユミラはお店を出て行った。


「じゃあ、今日は何もなかった(・・・・・・・・・)って事でいいねえ?」


 一方、ギスは最初の時と同じ語尾を伸ばすしゃべりに戻っていた。ユミラの後を追うようにお店の外へ出ようと足を踏み出した瞬間、


「ああ、そうだあ。」


 ギスはゆっくり振り返って、俺に眼を合わせた。


「…気をつけないと全部(・・・・・・・・・)なくなっちゃうよお(・・・・・・・・・)。」


「!?」


 ゾワッともの凄い悪寒が背筋を走った。


「じゃあねえ。」


 ギスは意味深に笑うと去って行った。


「アイツ、何を…」


 ランドさんがそういぶかしむけど、俺は答えなかった。


 いや、答えられなかった(・・・・・・・・)


「はあっ!はあ!」


 俺は床に膝を着いて、むせ込んでいた。


「ハイキの兄さん!?」


 ランドさんの声が聞こえるけど、それどころじゃない。


 息が…出来ない…!


「がっ!あっあ!」


 さっきから息をしているはずなのに、空気が吸えない。


 怖い。

 


 酸素不足からか、冷や汗と寒気が止まらない。


 怖い怖い。


 目眩もしてきた。


 怖い怖い怖い。


「まさか、これは!?」


 ランドさんの声が怖い聞こえ怖い息がまだ怖い出来な怖い怖い怖どうなってい怖い怖いる怖いどうし怖いて何が怖い誰か怖い怖い助け怖い死怖いぬ怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い…


「失礼!」


 バシンッ!


(いっ)っ!」


 背中を叩かれた衝撃と痛みで、まっ暗だった意識が鮮明になっていく。


 頭の中に入っていた何かが消えていく。


「ハイキの兄さん大丈夫です!ゆっくり、ゆっくりと呼吸をしてください。」


 駆け寄ってくれたランドさんの指示に従い、俺は呼吸をもう一度ゆっくりと始める。


「そうです、ゆっくり。ゆっくりと…心配ありませんから。」


 ランドさんの静かな声に導かれるまま、俺は数分間背中をさすられたまま呼吸を繰り返した。


「…すみません、ランドさん。」


 ようやくまともに息が整い、俺はランドさんに礼を言った。


「いえ、お気になさらず。まさか、最後にあんな事をするとは…」


 ランドさんは悔しそうに言うが、俺にそんな余裕はなかった。


 数秒。


 たった数秒、眼が合った瞬間、謎の悪寒に襲われ、身体を動かすどころか、息さえもまともに出来なくなっていた。


 それどころか何もかもが怖くなっていた。


 恐怖で押しつぶされる…そんな感覚だった。


「アイツら…一体…」


 何者…なんだ…?


「ハイキの兄さん!」


 隣にいるのに遠くから聞こえるランドさんの声に返事をする事もなく、俺の意識は消えていった…



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