第五十九話 完成パーティーをしました
「では、ハイキ商店の完成を祝して…乾杯!」
「「「「「「乾杯!」」」」」」
グラス同士のぶつかる心地よい音と共に宴は始まった。
今日はハイキ商店の完成記念として、完成したばかりのお店で夕方からパーティーをしている。
これは俺の提案だ。
お店が本格的に開いたらしばらくはパーティーなんて出来ないだろうし、何よりこれだけすごいお店に協力してくれた人達へのねぎらいの意味もある。
参加しているのは工事に参加してくれたグレットさんやランドさんを含む【アームズ工房】の職人さん達、商業ギルド支部長ギルゼさん、冒険者ギルド支部長オルゼさん、商店街代表のイールさん、サイラ魔道具店のサイラさん…だけじゃなく、
「いや~、お前大した男だよハイキ!もっと早く知っていれば、でけえ土産用意したのに!」
このユーランで初めて会った恩人、獣人のアシトさん。
「はいはい、アシトさんそれもう何回も聞いてるよ?お土産はまたの機会にね。」
そうアシトさんをなだめているのは料理を店の奥から運んでいるフーさんだ。
関係者でもないアシトさんとフーさんが参加しているのには理由がある。
パーティーの開催を決めた俺は小鳥の宿の女将さんにパーティー用の料理を頼んでいた。
女将さんはその場の調理じゃなくて、作り置きでいいならと別料金で引き受けてくれたんだけど、
「私も参加したい!料理当番やるからお願い!」
話を聞いていたフーさんが突如言い出したので、料理役として参加してもらう事にした。
と言っても、料理はほとんどが小鳥の宿で調理されていて、店の奥で火をかけたり最後の飾り付けをするだけで良い状態になっている。
「【アームズ工房】が本気で造った店か…すげえな。」
お店を眺めながらアシトさんはため息をついた。
アシトさんはついさっき街で見掛けたので、近況報告がてら、俺から参加してもらえないか話をした。
「関係者でもない自分が行っても迷惑になるだろう」とアシトさんは渋っていたのだけど、
「俺がここまでやれたのはアシトさんが俺に親切をしてくれたからなんです!ご迷惑じゃなければ来て欲しいんです!俺が、来て欲しいんです!」
と、コミュ障の俺にしては強い言葉でお願いした。
でも、本当にそうなんだよ。
アシトさんが小鳥の宿を紹介してくれなかったら、今みたいに人に恵まれてはいなかったと思う。
「…お前、お前なあ。」
アシトさんは顔をふせて俺の両肩をがっちりと掴んだ。
…え、これまさか。
「本当に良い奴過ぎるだろ…うあああああ!」
そのまま初めて会った時みたいに、いや、それ以上に大きな声で、アシトさんが泣き出してしまった。
周りの人達にすっごく視られているけど、気にするのは諦めた。
「うおおおおおお!なんて、なんて男だああ!」
見た目はかなりワイルドなんだけどな…
こんなに泣かれると俺が悪い事したみたいだ。
…あの、そこのお姉様方?
なんで口を抑えて、キラキラした眼でこっちを視ているんです?
なんで両手を合わせて拝んでいるんです?
なんでボールペン(俺が売った物)で紙(これも俺がばら売りしていた)に鬼の形相で色々書いているんでしょうかああああ!?
なんでそちらのマッチョなお兄さんはハンカチ噛んで、血の涙流しているんですかあああああ!?
そんな色々な視線を感じながら、五分ぐらいしてアシトさんは落ち着いてくれた。
さっそく一緒にお店まで行こうとすると、
「…ちょっと待ってろ!お前の店にふさわしい最高級の酒を持ってきてやる!」
そう言ってアシトさんは商業区へ走り出してしまった。
俺もお店で準備をしないといけない事があるので、追いかけはしなかった。
お店の場所は近況報告の時に話していたので、俺がお店に戻って準備を進めているとアシトさんは颯爽と来てくれた。
大きなカゴ一杯の瓶を持って。
「祝いの席にふさわしい酒だ。呑んでくれ!」
この世界のお酒なんて俺には分からないけど、瓶の銘柄を視た瞬間、すでに来ていたドワーフのグレットさんが固まったのだから、よっぽど凄い酒なんだろう。
俺呑めないんだけど…
「もちろん、呑めない奴用に高級ジュースも用意しているぞ!遠慮も心配もいらねえ!」
気遣いがすごい!
…この人、本当に何者なんだろう。
*****
「おや、どうしましたグレット様?せっかくの祝いの席なのに、こんな端っこで。」
「ん?いや、なに…仕事終わりの酒をこんなに良い気分で呑むのは久しぶりだと思ってな。」
「ご満足いただけたようですね。」
「ウチの連中もな。視ろ、あいつらの顔。最初こそ、あんたらに気を張っていたが今じゃ忘れて楽しんでやがる。本当、たくましい奴らだよ。」
「…グレット様、この場で口にするのはご気分を害すと思いますが…シュラート様の件は申し訳ありませんでした。」
「…気にするな。そちらの事情は知っているし、俺達もあの貴族様に出来る限りの譲歩はした。それを頭ごなしに突っぱねて契約を無効にしたのはあっちだ。アンタが謝る事じゃない。」
「そう言っていただけると幸いです。」
「…ところで。なあ、ギルゼさんよ。」
「はい。」
「見間違いじゃなければ、ハイキと話しているのは【獣王】だよな?」
「ええ、【獣王】アシト様です。」
「【骨剣】と【魔道具狂い】がいるのは分かる。あいつらは商店街の管理やこの店の魔道具を造っていた関係者だからな。それはいいとしてだ…【絶対不戦の場所】の小娘までいるのはどうしてだ?」
「ああ、それはハイキ様が宿泊されている場所が『小鳥の宿』だからです。」
「…また、サラッと言いやがって。」
「あのレミトさんにも気に入られていますし、警備隊のユーラ様も見回りがてら挨拶に来られるそうです。」
「………」
「どうされました?」
「あの小僧が警備隊やってるのがまだ信じられないだけだ。それも隊長とはな。」
「…まあ、昔は考えられませんでしたからね。」
「…それに聞きたくねえ名前を聞かせやがって。あのババア、まだ生きてるのか?」
「…あの人が只者じゃない事は私達がよく知っているでしょう。世界が滅んでも一人だけ生き残るような人ですよ。」
「それだけの連中と知り合いで全員にそこそこ好かれているとは…ハイキの奴、その意味分かっているのか?」
「…何かしらは感じているでしょうが、完全には分かっていないでしょうね。それにハイキ様は無自覚に自分から距離をとっているようにも視えます。積極的に知ろうとはしてませんね。」
「…まあ、ウチにもそういう奴らがいるからな。余計な事は言わねえよ。」
「さて、難しい話はここまでにして、この場を楽しむとしましょう。気遣いなく楽しめる場と言うのも年々少なくなっていますし。アシト様のご厚意をいただくとしましょう。」
「そうだな…おい、【獣王】!その酒ありがたくいただくぞ!」