第六話 初めて【スキル】を使ってみました
とりあえず草原を歩いていると十分ぐらいして道らしき物が見えた。
道と言っても草原の草が倒れている舗装もされていない獣道だ。
人が歩いているかは分からないが今度はその道に沿って歩いてみる。
スマートフォンには【マップ】のアプリがなかったから、ここは勘だ。
アプリがあれば便利だけど、地図なら街で売っているはずだ。
それにこれ以上望むのは罰当たりだろう。
しばらく進んでいけば何か見えるかもしれない。
そう楽観的に考えながら、俺はまた十分ほど歩いて行った。
「お。」
どうやら当たりだったようだ。
獣道は突然、草の生えていないあぜ道に変わっていった。
それに馬車を引いている人や荷物を背負った人、鎧を着た冒険者のような人、とにかくたくさんの人がこの道を歩いていた。
その道の先に視線を動かすと、ずっと遠くに外壁らしき物が見えた。
よかった、合っていた…
ほっと安心すると、
ぐ~。
と腹の音が鳴った。
「…お腹空いたな。」
女神様と食べたおまんじゅうじゃ足りなかったようだ。
「よし。」
少し休憩も兼ねて、スマートフォンを出してみる。
歩きながらスマートフォンを使う気にはならない。
道を逸れて、生えている木を背に適当な場所に座る。
待ち受け画面に出ている時間はちょうど十二時過ぎだった。
昼にはちょうどいい。
【収納】アプリに入っている食料はまだ使わない。
使うのは…
馴れた操作で【スキル一覧】のアプリをタップすると、画面に項目が出てきた。
【使用可能スキル】
一番上の項目をさっと確認し、スマートフォンを一度ポケットに入れる。
女神様の話では【スキル】を使用するのには、名前をいちいち呼ぶ必要はないらしい。念じればすぐに発動するそうだ。
でも、自分が造った【スキル】の初めては言葉にしたい。
息を吸い、その名前を口にする。
「【廃棄工場】!」
手をかざすと目の前の空間に液晶画面が浮かんできた。
【廃棄工場】レベル1
【現在倉庫内取り出し可能一覧】
・食料品
・衣類
・雑貨
指先で『食料品』をタッチすると、今度は別の表示が並ぶ。
・菓子パン
・総菜
・レトルト
・カップ麺
と…細かく分類されている。
「えっと、とりあえず…」
簡単な食事がしたいから、菓子パンの項目を選ぶとよく視た名前の文字が次々出てくる。
・あんパン
・ジャムパン
・カレーパン
・食パン
・焼きそばパン
ただ、よく視るとその名前の後ろにはこんな文字が必ず付いている。
あんパン(潰れ)、ジャムパン(期限切れ)、カレーパン(腐りかけ)などだ。
ここは無難にあんパン(潰れ)を選択する。
すると、俺の手元にはよく行くコンビニで売られていたあんパンが出てきた。
ただし、包装のビニール袋は破けていて、パンは少しだけヘコみ、あんも漏れていた。
「おお。」
正直、コンビニで売っていたら手に取りたくない物だが、今の俺には関係ない。
ここでもう一つの【スキル】を使う。
追加をお願いした【スキル】だ。
「【鑑定】!」
せっかくだし、こっちも声に出してみた。
あんパンを見つめると説明文が見えた。
あんパン(潰れ)…コンビニの品出し中に謝って落とし、潰れた為に売り物にならなくなった物。見た目に問題はあるが、味に異常なし。食べても状態異常は起きない。
なるほど。
じゃあ、遠慮無く。
「いただきます。」
むしゃりとかぶりつく。
あんパンのあんが口に広がり…
「…さっきもおまんじゅう食べたじゃん。」
俺は今更その事実に気づいた。
あんパン(潰れ)はおいしくいただきました。