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第五十一話 会議を始めました




 商業ギルドの支部長室。


 一週間前に特例ランクアップを受けた場所に俺はまたいた。


 ただし、今回は集まっている人間があの時よりも多い。


「まさか、君があの【窓盾の商人】だったとはな。」


 そう言って、俺の前に立っているのは商店街のお肉屋さんの店主であり、商店街のまとめ役…イールさん。


 今日はこの前と違って大剣も持っていなければ、興奮している様子もない。


「先日は本当に済まなかった。」


 深々と頭を下げられたけど、俺は別の視線を感じながら、その謝罪を受け入れる。


「謝罪は確かに受け取りました。もうこの話は終わりです。いいですね(・・・・・)!?」


 最後の部分を強調して視線を送ってきた人…警備隊隊長のユーラさんの顔を見て念押しする。


「…ハイキ様がそうおっしゃるなら、私からは特に意見はありません。不本意ですが…」


 渋々納得している顔のユーラさんだけど、俺が何か言う前に「ガハハ!」と笑い声が部屋に響いた。


「いいじゃねえか、小僧。当人同士で問題が解決していればそれで終わりだ。下手な事をすれば、話がこじれて元より悪くなる…だろ?」


 冒険者ギルド支部長のオルゼさんは今日も変わらず、葉巻を吸っている。なんて言えばいいのか、うまい具合にムードを変えてくれるんだよな。


「まあまあ、世間話はそこまでにしましょう。ハイキ様もお待ちですしね。」


 その変化を逃さないで、この部屋の主のギルゼさん…商業ギルド支部長が話を始める空気に変えていく。立っていたイールさんも席に戻り、葉巻を吸っていたオルゼさんも灰皿で葉巻の火を押しつぶした。


「では、今回の会議は公式な物とさせていただきますので、録音魔道具を起動します…起動しました。これより会議終了後に停止を押すまで全ての会話は録音され、商業ギルド内で公式記録として保管されます。また、会議終了後に問題が発生した場合、この会話は有力な証拠として使われますのでご注意ください。」


 ピリッと引き締まった雰囲気の中、俺はテーブルに着く四人の方々に礼をする。


「本日はお忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます。早速ですが、議題に入らせていただきます。」


 そこで、俺は息を深く吸い、声を整える。


「私の店、ハイキ商店の開店とそれに伴う様々な案件についてです。」



****



「商店街の近くに店を開きたい。」


 あの買い出しの後、俺はそう決めて、次の日にはギルゼさんにその話をしていた。


 ギルゼさんは驚いてはいたけど、俺の提案を聞き、関係するであろう人達を集めて、会議を開く事になった。


 それが今行っている会議だ。


 冒険者ギルドと商業ギルドのそれぞれの支部長、警備隊の隊長、商店街のまとめ役。


 会議に参加してくれている人達が肩書きのある大人なのに対し、こっちは大した実績も肩書きもない若造だ。


 現代日本なら滅多にない場面だけれど…自分でもびっくりするほど落ち着いている。


 コミュ障の俺だけど、昨日散々シミュレーションはしてきた。


 それに全員知らない人じゃないから、緊張しても多少はマシな気がする。


「皆様には前もってお伝えしていましたが、私の個人商店…『ハイキ商店』を近日開店する予定です。しかし、それによって起きる可能性のあるトラブルなどをあらかじめご相談したくこの場を設けさせていただきました。」


 全員が無言で頷く。


 特にイールさん以外の三人は露店通りでの一連の騒動に関わっているから、対策についても念入りに行うつもりだろうし、当事者でなかったイールさんも真剣な眼でこちらを視ている。


「では、まず店の開店予定地についてです。」


 最初に言ったけど、全員には前もって説明はしている。


 ただし、あくまでも『簡単』な説明だ。


『商店街付近にハイキ商店を開くので、それに関わる話をしたい』


 意見交換や疑問点に関しては当日の会議で話し合う流れになるとも伝えている。


 会議の都合上、前もって一人一人に別の話をしているけど、会議中に気になる点や反対意見があるなら遠慮無く話して欲しいとも伝えている。


 知らない仲じゃなくても、お金や生活が関わってくるなら一切の妥協はしてはいけない。適当に決めればそれで痛みを受けるのはそこに住んでいる人達だ。


 だからこそ、全力で意見をぶつけ合わないといけない。



「店の候補地は商店街付近。具体的にはこの辺りです。」


 テーブルに広げたユーランの地図の商店街の近くを俺は指さした。


「…ここは。」


 イールさんが反応するが、俺は話を続けていく。


「こちらは商店街からは直線距離で百メートルほど離れた場所になります。商店街の店とは大きな一本の道を挟んでいますので商店街側に行列が続くなど、商店街の通行の邪魔になる可能性は低いと思われます。」


 店を開くに当たって意地でもやると決めた事は一つ。


『人様に迷惑をかけない!』


 その一点だ。


 実際は難しいだろうけど、思いついた物で対処出来そうな物は可能な限り潰していく事にした。


 その手始めが店の場所だ。


 露店通りで店を始めた時、他の店の前まで続くほどの長い行列が出来た。そんな物を商店街でやってしまえば、他のお店の人達には迷惑でしかないし、通行の邪魔になる。そうなれば客足が遠のく原因になって、売り上げが下がってその分の補償だ賠償だ慰謝料だ…と恐ろしい事になりかねない。


 だから、今回俺は商店街からわざと(・・・)百メートル以上離れた場所に店を開店する事にした。


 なんで百メートルを基準にしたかと言うと、露店通りでお店をやった時の行列が長くて五十メートルぐらいだったからだ。なので余裕を持って百メートル。


 一本の道を挟んでいる分、商店街とは数字以上に距離があるように感じるし、店に並ぶ人も商店街とは反対方向に並ぶようにしてもらう。当然、開店予定地周辺の人達には事前に説明して同意もしてもらっている。


 …それに商店街から離れた理由はもう一つある。


 商店街にはすでに長い時間をかけて出来上がった仲間の輪が完成している。その中に余所者である俺がいきなり入り込んでもその輪に入る事は出来ない。無理に入り込めば厄介者扱いされるだろうし、こちらも無理に入っても得られる物はないどころか、商店街の取り決めとかそんな物に巻き込まれかねない…結局の所、お互いにメリットがない。


 …どのみち、コミュ障の俺に輪に飛び込むような度胸はなかったけど。


 でも、この開店予定地なら、あくまでも『商店街』というグループには属する事はなく、商店街側には『ご近所さん』としての立場が取れる。


 これなら堂々と自分の好きなように店の営業や開店日なども決められる。 


「開店予定地には二ヶ月前から空き家になっている物件もありました。所有は商業ギルドだったので、すでに内見は済ませています。」


 俺の言葉にギルゼさんが頷く。


「ハイキ様の希望により、内装の一部を改装しますが、そこまで大がかりな物でない為、数日で済むでしょう。管轄はあくまでもハイキ様になり、商店街が管理・指導する必要はありません。」


「…なるほど。」


 イールさんは地図を見ながら、少し考えるように口を閉じた。


 今の言葉の意味を分かったんだろう。


『商店街の近所だが、商店街とは関係ない立ち位置にあり、商業ギルドがそれを認める』と。


「…ふむ。」


 言い換えれば『商店街はハイキ商店に何かを強制する事は出来ないし、何か大きな問題をハイキ商店が起こしてもその責任を一切負う事はない』って事だ。


「…問題がいくつかあります。ハイキ商店は露店通りでも行列が出るほどの人気だったと聞きます。それも客はほとんどが冒険者。距離があるとは言え、必然的に商店街にもこれまでの客層とは違う者が現われる事になります。商店街内でのトラブルが増える可能性もありますが、それについてはどのようにお考えですか?」


 くだけた口調ではなく、公式の会議の場として、イールさんは発言した。


 商店街のまとめ役をしているイールさんなら、その意見は当然だ。


 商店街に来るのはあくまでも一般人。いくら店が商店街から離れているとは言っても、通りかかる冒険者は絶対に増える。そうなれば、それまで起きなかった問題が起きてもおかしくない。


 …もちろん、それは対処済みだ。


「それについては私からお話しましょう。」




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