第四十八話 商店街に行きました
フーさんとの買い物で向かったのは商業区にある商店街だった。
食品から服に雑貨、色々なお店が並んでいて、どれも一般の人が買いやすい値段で売られている。
アーケードはさすがにないけど、俺のイメージする商店街そのままだ。
現代日本で俺の近所にあった商店街はシャッター通りだったから、異世界と言ってもこういうのはまた新鮮だな。
ちなみにまだフーさんに手首を掴まれたままだけど…気にしない事にした。
黒パンの入った紙袋は【収納】に入れたけど、掴んだ手は今も離してはくれそうにない。
…力が最初より弱くなった分、良しとしよう。
「まずはここ!」
そのまま俺はフーさんに引きづられながら案内した肉屋さんに入っていった。
手つなぎデートって言うか、母親の買い物に嫌々付き合わされている子供みたいだな…
さすがに言わないけど…
「…!」
お店の中に入って驚いた。
商店街は露店通りで商売をする時に何度か通りかかった事はある。
でも、買い物をした事はなかったし、お店の内装まではしっかりと視ていなかった。
お店に入って眼に着いたのは正面にある透明なショーケースだった。
中には様々な種類のお肉が並んでいて、名前と値段も書かれている。
ショーケースの奥には包丁や重量計も置いてあるし、どの装具も使い込んだ痕はあっても綺麗にされていた。
「いらっしゃい。あら、フーちゃんじゃない!」
俺達に気づいて、ショーケースで作業していた女の人…四十代ぐらいのおばさんが声をかけてくれた。
「こんにちは、おばさん!今日はね~。」
フーさんはそう言って、欲しい肉の名前と部位と注文していくと、おばさんはすぐにそれをショーケースから取り出す。
そのまま包装用の紙に包んでいくけど、その様子は現代日本のドラマでよく視ていた肉屋さんとほとんど同じだった。
値段はさすがに銀貨や銅貨だし、レジはないけど…
女神様は食文化は中世レベルって言っていたよな?
…ここまで現代日本と同じなのに、どうして食事がそこまで発達していないんだろう?
そんな事を考えていると、
「はいよ、おまちどおさま。」
おばさんの準備は終わったようだ。
大きな紙袋の中には肉がぎっしりと詰め込まれている。
お会計だからか、フーさんがようやく手を離してくれたので、試しに持ってみるとかなり重い…!
フーさんが財布からお金を出してやりとりをしている間に【収納】に入れると、おばさんがそこで俺に目線を向けた。
どこかニヤニヤした感じで。
「ところでそこの兄ちゃんはフーちゃんの彼氏かい?」
唐突にそう聞かれた。
「?」
首を傾げる俺に対し、フーさんの顔が一気に真っ赤になっていく。
「か、かかかれ…」
本人が言葉も出なくなったようなので、代わりに訂正する事にした。
「いや、ただの荷物持ちです。」
俺が正直にそう話すと、フーさんがまた俺の手を握ってきた。
…痛いです。
最初よりも力強いし、眼も怖いです。
おばさんはそんな俺達を視ると、大笑いし始めた。
「いや~、若いわね~!兄ちゃんも良い男だしね~!アタシもあと二十年若ければ手を出したんだけど!」
「ははは、それは…」
おばさんの言葉にどう返して良いか分からないまま、曖昧にそう答えていると、
「おう、フーが来ていたのか?」
店の奥から体格の良い男の人…多分、旦那さんかな?が出てきた。
「久しぶりだな、フー。で、そこの兄…ちゃ…ん…は………」
そのまま眼が俺の手首…正確にはフーさんが握っている俺の手首に向かうと、
「ふ、ふ、ふ…」
旦那さんは声を震わせながら、よろよろと俺達を通り過ぎ、そのまま店の外に出ると、
「フーに彼氏が出来たああああああああああああああ!」
商店街中に響くほどの大絶叫が木霊した。
「え、え?」
困惑する俺に対し、おばさんは頭に手を当て、「やっちゃったよ」と困り顔になっていた。
「兄ちゃん、先に謝っとくね。ごめんね。」
「…え?」
訳が分からない俺だったけど、すぐにその理由が分かった。
ドタドタドタドタ!
地響きと何か大勢が走ってくる足音が聞こえると、
「どういう事だあああああ!?」
肉屋さんの入り口に男の人がたくさん集まっていた。
全員、旦那さんと同じぐらいの歳に視える。
「…もしかして商店街の人達?」
…これ、またテンプレ展開ですか。