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第四十五話 条件を出しました




「条件は営業停止命令の破棄と新しい店舗への支援です。」


 それが俺の条件だった。


「まず、営業停止命令の破棄を早急にお願いします。」


 一番最初にしなければならないのはこれだ。


 例えその理由が俺を守る為だったとしても、『商業ギルドから営業停止を受けた』は今後の商売に大きな影響が出る。


 ただでさえ、俺の店は話題になっているらしいからマイナスイメージは出来るだけ避けたい。


 だけど…


「…ハイキ様。申し訳ありませんが、それは出来ません。」


 ギルゼさんははっきりと俺に告げた。


「『露店通りでの営業停止(・・・・・・・・・・)』はすでに決定事項です。先ほど私が独断で(・・・・・・・・)決定した事(・・・・・)で、取り消しは出来ません。ですが…」


 ギルゼさんはそこでフッと笑った。


露店通り以外で(・・・・・・・)商売をする事に関しては何の制約もありません。この『営業停止命令』はあくまでも露店通り限定(・・・・・・)ですので。」


 わざとらしいその言い方で、俺はその言葉の意味に気づいた。


「そういう事ですか…」


 俺は少し考えて、


「では、その営業停止命令は(・・・・・・・)受け入れます(・・・・・・)。」


 露店通りでの営業を(・・・・・・・・・)諦める事にした。

 

 そのまま、言葉を続ける。


「ちなみに、営業停止命令が正式(・・・・・・・・・)に決まった時間(・・・・・・・)はいつでしょうか?」


 俺の質問にギルゼさんは静かに答えてくれた。


「ハイキ様がこの部屋にいらっしゃった一分前です。内容を知っている人間も私とオルゼ支部長、ハイキ様の三人だけとなります。当事者であるハイキ様にも支部長の私自らお伝えしたので、副支部長を含む商業ギルドの関係者にわざわざ伝える必要はないでしょう。」


「…ご配慮感謝します。」


 俺はギルゼさんに礼を言って頭を下げた。


 『露店通りの営業停止命令』は受けたけど、それを知る人はこの三人だけ。


 俺が店をしばらく休んでもいつもの気まぐれだと思われるだろうし、これで『店の評判が落ちる』心配はなくなった。


 あとはこれからの事だ。 


「今後は商業区で店舗を開いて営業していこうと思いますが、俺には店を借りるコネもないですし、露店通り以外の場所でのルールも分かっていません。その手助けを必要な時にお願いしたいです。」


 露店通りなら簡単な取り決めだけで問題がなかったけど、実際に店を持つとなるとそうはいかない。


 接客や売り上げのまとめならともかく、店を出す為の手続きやその周辺での暗黙の掟があるなら、それに従う必要もある。


 こういう小さな事を放っておくと、後々面倒の種になるし。


 面倒事は避けておきたいのは元からだけど、余計な問題を増やすのも防ぎたい。


 ギルドカードの更新料の事もある。

 

 当分は更新料を払わなくていいと言っても、それは五年限定だ。

 

 五年の間に更新料を問題なく払えるぐらい稼がないといけない。

 

 その為には必要な物がまだたくさんあるだろう。


 それに…


 絶対に守らないといけないモノがある。


「現状、紹介出来る空き店舗ならいくつか候補があります。よろしければ、そちらを使っていただければと思います。」


 書類の束をパラパラとめくりながら、ギルゼさんは地図を用意し始めた。


「では、お言葉に甘えまして。それと、お店についてですが…」


 一度息を大きく吸い込み、俺はそれを口にする。


「店の営業日、営業時間などの決定権、営業方針についても俺が決めます。ギルドや貴族、例え俺よりランクの高いギルドメンバーでも俺の店で無茶苦茶な事をすれば追い出します。あと、店の支援に関しては商業ギルドと冒険者ギルド、それぞれから頼む事もあります。人員や金銭面などです。それでも問題なければ、特例ランクアップのお話をお受けいたします。」


「…むう。」


「…なるほど。」


 オルゼさんとギルゼさんは俺が最後に話した内容を聞くと、考え込むように黙り込んだ。


 …図々しいかもしれないけど、これは大事な事だ。


 露店通りでは俺は気まぐれに店を開けていた。


 本格的にお店を構えるにしてもそこだけは譲れない。


 毎日開けるとかとても無理!


 休みは欲しい!


 こういう決定権は全て俺が持てるようにしないと…


 裏工作されても大丈夫なように…


 でも、金銭に関しては大して重要じゃない。


 俺の手持ちのお金でも、小さな店を開くぐらいの余裕はあると思うけど…こういうのは立場のある場所から出してもらったほうがいいはずだ。


 いきなりBランクに上がっても何の後ろ盾もないと思っている人には牽制にもなる、

 

 二つのギルドから支援されているなら『赤の牙』みたいな人も来ないだろうし…


 どうだろう…


 これがダメならユーランを出るしか…


「よし、それでいいだろう。」


「その条件で構いませんよ。」


 俺の考えとは裏腹にあっさり了承された。


「…よろしいんですか?」


 俺の言葉にオルゼさんとギルゼさんは力強く頷いた。


「妥当なところだろう。俺から文句はねえ。」


「私もですね。問題はありません。」


 …うん。


 なんか、負けた気がする。


「ふう…」


 椅子の背に深く腰掛けながら息をつく。


 …多分、俺が言う内容まで分かっていたんだな。


 目線を天井に動かしながら、今自分の目の前にいる二人が冒険者ギルドと商業ギルドのトップだと言う事を思い知る。


 運だけでなれるもんじゃないだろうし、その立場になる為には実力も当然必要で、何より経験も何もかもが俺とは違う。


 …目的を忘れちゃいけない。


 俺はもう一度二人のトップを視た。


 静かに暮らす。


 その目的の為に、今は頑張らないと。


 これからが本番だな。


 あと、ちょっと悔しいから…


 俺はテーブルに出された重そうな巾着袋を掴むと、


「では、冒険者ギルドからの『開店資金』ありがたく頂戴します。」


 唖然とするオルゼさんに俺はにっこりと笑いながら、巾着袋を【回収】に突っ込んだ。


 …このちょっとした反撃で、また話がもめそうになったけど。


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