第四十四話 知らないうちにマズイ状況でした
前回、前々回と行っていた一日での連続更新ですが、今回は一話更新です。
また余裕が出来たら連続更新やりたいと思います。
明後日も同じ時間に更新しますので。
どうかこれからもよろしくお願いします。
前回のお話…
偉い人達に呼ばれたら、豪華特典付きのランクアップをしてもらえる権利をもらったぞ☆
…いやいやいやいや、ちょっと待った!
なんでそうなってるの!?
展開についていけなくて、☆とか出て来たし!?
落ち着け、落ち着くんだ。
素数を数え……なくてもいいか。
……
…よし。
状況を整理しよう。
特例ランクアップをしてもらえるのはありがたい。
俺が商売をする目的だったし。
でも、でもさ…
商売を始めてまだ一ヶ月だよ?
確かに俺の露店は、サイラさんの言っていた一ヶ月に中金貨三枚の売り上げをとっくに達成しているけど…
「な、なんでこんな急に…」
いくらなんでも早すぎる…
こういうのって普通は、二、三ヶ月は様子を視るはずだ。
オープン直後は賑わっても、二ヶ月経った頃には廃れている…そんな事はよくある話で、現代日本でも『芸能人が開いた○○屋』が半年で潰れる事だってある。
なのに…
「それだけの価値がハイキ様にはあるのです。」
ギルゼさんはそこで何もない場所から俺が見慣れた物を取り出した。
「【空間魔法】!?」
俺の反応にギルゼさんは笑いながら、その見慣れた物…透明窓付きフライパンの蓋…今、ユーランで【窓盾】と呼ばれている物をテーブルに出した。
「木の盾より強く、鉄の盾より軽く、窓から相手の動きが視える【窓盾】を製造する技術はまだユーランにはありません。それにハイキ様の扱う品は我々の常識を超え、生活に変革をもたらしています。そんな人をEランクにしておくのは勿体ない。」
ギルゼさんはそこで言葉を句切って、メガネの位置をクイッと上げた。
「…というのは表向きの理由です。本当の目的はハイキ様の安全の為です。」
「安全?」
物騒な言葉が聞こえたけど、ギルゼさんの目は真剣だった。とても冗談を言っているようには視えない。
「安全って…どういう意味ですか?」
「どうもこうもねえ。このままだと、お前まともに動けなくなるぞ?」
オルゼさんはそう言って、懐から葉巻を取り出すと口にくわえた。
…マジモンじゃないですか。
見た目のせいか、なんかゾワッてするし…
「Eランクってのは更新料も少ないし、一つの街に店を持たない分、自由に動ける、ある意味で身軽だ。」
オルゼさんが手の平で葉巻の先を軽く触った瞬間、火が葉巻に灯っていた。そのままオルゼさんは葉巻をふかすと煙をゆっくりと味わっていた。
「だがな…逆に言えば、なんの後ろ盾もないって事だ。ユーラの小僧のように隊長の役職で積極的に世話を焼くお人好しはそうはいねえし、そんな人間と出会える事が奇跡みたいなもんだ。」
オルゼさんは葉巻の煙を天井に吐き出すと、そこで俺に鋭い視線を向けた。
「もし…もしの話だ。最近、色々と有名になっている商人がいたとしてだ…貴族の中にはどうにか取り込みたい奴もいるだろうし、気に入らないと裏から手を回して、潰そうと考える奴もいるだろう。」
「………」
「そいつがEランクなら、貴族にとっては好都合だ。どうしようと文句を言ってくる奴はほとんどいない。いたとしても、所詮Eランクのつながり。大した問題にはならない…そんな事を考える馬鹿は必ず現われる。」
「…だから、Bランクになれと。」
オルゼさんは頷くと、葉巻を口から離して、いつの間にか用意されていた灰皿に灰を落とした。
「本当は強制なんかさせたくねえ。それは俺もギルゼ支部長も同じ意見だ。ただ、お前は目立ちすぎた。【窓盾】なんて見た事のない武器を使って、冒険者を傷一つ負う事なく何人も叩きのめした。それも冒険者でもない、Eランクの商人がだ。」
「……」
ケンカは苦手だった。
怒りで殴ろうとした事はあったけど、殴る直前、相手が怪我をする、痛がる姿が浮かんで迷い、何度も手を止めた。
そんな俺が場慣れしている冒険者を相手出来たのは、女神様のくれた【スキル】と【聖水】のおかげだ。
【神眼】と【第一領域】の覚醒で、俺は攻撃を簡単に避けられたし、相手を怪我させる事もなく、簡単に抑える事が出来ていた。悪目立ちをしている自覚はあったけど、強くなっている自分とそれを褒めてくれる人もいて、どこか浮ついていたのも事実だった。
「特に今日倒した『赤の牙』は将来性を見込んで、ある貴族が援助もしていた。お前は『赤の牙』とその支援者のメンツも潰してるんだよ。」
「ええ…」
あの筋肉男達を支援する貴族がいた事にも驚きだけど、あんな場所で好き勝手暴れようとする男達によく将来性を見いだせたな。
…もしかして、あんな場所で暴れた理由は『貴族から俺を引き連れるように言われたから』かもしれない。
貴族から支援を受けているのなら無茶苦茶な内容でも、従うしかないだろうし。
「はあ…」
ため息も出る。
商売の営業停止に、知らないうちに貴族の恨みも買っていた。
静かに暮らしたいのに、どうしてこうなるかな…
そんな落ち込む俺を見て「まあまあ」と今まで黙っていたギルゼさんが声をかけてくれた。
「ハイキ様。Bランクになれば貴族の方も簡単に手出しは出来ません。それに更新料に関してもご心配なく。今後五年はハイキ様の更新料は冒険者ギルドが負担してもらえるように契約は結んでおります。」
「はああ!?」
また変な声が出てしまった。
五年分!?
五年分の更新料を負担!?
いやいやいや!
確かBランクの更新料って大金貨だったろ。
それを五年って…
「いや、それはさすがにーー。」
「冒険者ギルドには払う義務がある。」
俺の言葉を遮って、オルゼさんが声を出した。
「初めに言っただろ。足りねえぐらいだって。五年の更新料で名目上手は打ったが、まだ少ない。」
まだ長い葉巻を灰皿に捨てると、オルゼさんは手の平サイズの巾着袋をテーブルに置いた。
「お前がいなくなる損失は計算すら出来ねえ。これは冒険者ギルドとは関係ない俺からの個人的な詫び代だ。大金貨十枚。」
日本円で一千万円…
そんな大金をこんな風に出されると…
一周回って冷静になってしまう。
…本当にこの人、冒険者ギルドの支部長だよな?
ライク ア ドラゴン的な組の会長とかじゃないよな!?
背中にドラゴン昇ってないよね!?
「その上で頼みたい…どうか、Bランクになってくれないか。」
オルゼさんは立ち上がってゆっくりと頭を下げた。
「私からもお願いします。」
ギルゼさんも同じように頭を下げている。
「え、ちょ!」
二人は俺の倍以上も生きていて、立場も何もかもが上の存在だ。
そんな人達が頭を下げている状況が…
俺は怖かった。
俺なんかの為に頭を下げさせているこの瞬間が…
「わ、分かりました!だから、頭を上げてください!」
どうにか顔を上げてくれた二人に、息を整えて、宣言する事にした。
「そのお話、お受けします。ただし、こちらも条件があります。」