第四十三話 偉い人達と話し合いになりました
商業ギルドユーラン支部支部長ギルゼさん。
メガネをかけた六十歳ぐらいの年配の人で、話もテキパキと進めるザ・出来る人って感じだ。
その隣にいきなり現われた男の人。
冒険者ギルドユーラン支部支部長オルゼさん。
会って一分もないから詳しい事は分からないけど、一つだけ分かる。
この人はヤバイ!
年齢はギルゼさんと同じくらいだろうけど、午前中に襲ってきたあの冒険者達と顔つきも身体もまるで違う。
なんて言うか…無駄に筋肉着けているってよりは、必要な部分に必要なだけ鍛えている?と思うし…
俺の【危険察知】が地味に反応しているんだよな。
マズイと思ったら逃げろって…
「…あの、話とは?」
まあ、逃げた所で意味はないから逃げないけど。
今のところは!
最悪、窓ぶち破って、ル○ン的に逃げる…
…いや、怪我するし、修理代かかるからやめよう。
「おう、実はな。さっきの話、俺も聞いていたのよ。」
オルゼさんは自分の家みたいに椅子にゆったり座って、話し始めた。
…現代日本なら、偉い人じゃなくて怖い人だな。
「で、だ。元々、お前を呼び出したのは俺とギルゼ支部長の案でな。まずは、うちの冒険者が迷惑をかけた。すまない。」
オルゼさんは突然真剣な声で深く、それこそテーブルに顔が着くんじゃないかってほど頭を下げた。
「え、いえいえ。どうか頭をーーー。」
「うちの管轄の冒険者達が商業ギルド管轄の人間に暴行を働いた…頭を下げるには充分過ぎる理由だし、下げても足りない程だ。必要なら、この老いぼれの腕を出してもいい。」
いや、ガチで怖い人じゃん!?
俺が好きだったゲームに出てくるような人だよ!?
ライク ア ドラゴンじゃねえか!
「ハイキ様。事はそれだけ大きくなっているのです。」
今度はギルゼさんが口を開いた。
「互いに不可侵を結んでいるギルドの人間が他のギルドの人間を襲った。それも数回に渡って…特に冒険者ギルドは有事の際は防衛戦力とも数えられ、責任も重大です。もっとも彼らは『襲ったのではなく、勧誘だった』と言い張っていますが。」
ギルドカードを登録する時、女将さんが言っていたギルドの不可侵ってこういう事か。
すっかり忘れていたけど、こんなに大事になるんだ。
トップがわざわざ頭を下げにくるほど、深刻な問題に…
「…あれ、でもどうしてここまで大きくなるまで放っておかれたんです?」
オルゼさんの性格なら初めの一回で俺に会いに来そうだけど。
それにこれだけ迫力のある人なら、一回でも注意すれば終わりそうな気がする。
なんで五回も俺、襲われたんだ?
俺の疑問にオルゼさんは頭を上げると申し訳なさそうな目で俺を見た。
「実はな…ちょうど二週間前から俺はユーランを離れていたんだ。その間、副支部長が対応していたんだが、お前を襲った連中は特に跳ねっ返りの強い奴ばかりでな。何を言っても、ペナルティを話しても聞く耳持たずで、俺が帰るまでにお前から取れるもん取って、ユーランを出る腹だったようだ。」
「なるほど。」
通りでクセの強い人達だと思った。
ユーランの冒険者ってこんな人達なのか?って思ったもん。
「で、今朝ユーランに帰ってきた俺が冒険者ギルドに行くと、ユーラの小僧がぶち切れていてな。大声で怒鳴る小僧から理由を聞いて、今更事態を把握したって訳だ。」
「ユーラさんが…」
怒っているようには視えたけど、そこまで怒っていたとは思っていなかった。と言うか、怒っていても静かな人だと思っていた。
「小僧があそこまで怒る所は見た事がねえ。だが、うちの冒険者達の言い分も無視する訳にはいかねえ。だから、お前がどんな人間か知る必要があった。騒ぎを利用して自分さえ儲かれば良い典型的な金の亡者か、大人しそうに視えて目上の人間だろうとお構いなしに噛み付く馬鹿か、俺が問答無用でぶっ飛ばしたいほどのアホか。」
「………」
最後の一言に凄い言葉が聞こえた気がしたけど、気のせいだよね。うん、気のせい。
【危険察知】が一瞬、メーター振り切ったけど…うん、気のせい!
…いや、本当に。
内心震えている俺に、オルゼさんはそこでようやく力が抜けたように笑った。
「どんな奴かと思ったら、笑っちまう程の大馬鹿だった。お人好しで、商人なのに周りに迷惑かけてまで儲けたくない、それなりの腕がある冒険者をぶっ倒す腕っ節もある…だから、俺はギルゼの話に乗る事にした。」
オルゼさんの声でギルゼさんは頷くと、懐から一枚の書類を出して、読み上げた。
「商業ギルド支部長ギルゼ、冒険者ギルド支部長オルゼ、両名の同意によりハイキを商業ギルドEランクから商業ギルドBランクへの特例ランクアップを認める。また、冒険者ギルド及び商業ギルドは今後ハイキから求められた場合、必要な人員、物資を可能な限り優先して提供する事をここに誓う。」
…え?
今、ランクアップって…
それもBランク!?
驚く俺にギルゼさんは読み上げた書類を俺の前に出した。
「Bランクへの特例ランクアップの承認書です。ハイキ様さえよろしければランクアップを行います。当然、要望も出来るだけお聞きします。」
「お前は風呂が使える家を探しているんだろ?いくつか物件を探しておくし、気に入った物件なら購入もこちらが全額負担する。当然、名義はお前になるし、冒険者ギルドも商業ギルドもその家には何一つ手を出さない。」
「………」
急展開だ。
えっと、話をまとめると…
Bランクへの特例ランクアップを認めます、要望を言えば色々聞くし、断ってもいいからね。お風呂が使える家は探しておくし、気に入った物件ならお金出すから買って良いよ。もちろん、ギルドはその家には立ち入らないから。
って事らしい。
……え、
「えええええええええええええええええええええええええ!?」
支部長室に俺の絶叫が響き渡った。