第三十九話 一件落着…って事にしました
その後の話。
怒鳴り男三人は到着した警備隊に連れて行かれた。
俺も事情を聞きたいって事で一緒に警備隊の本部に向かう事になったんだけど、周りが進ませてくれなかった。
「あの人は何も悪くない!」
「遅れてきたのになんで兄ちゃん連れて行くんだ!」
「せめてあの盾売って!」
こんな感じで…
仕方なかったので、次の日から三日連続で店を開けるし、もっと色々用意すると言ってようやく抜け出せた。
本部では丁寧な対応をされて、俺は聞かれた事を正直に答えた。
開店直後にいちゃもんをつけられて営業妨害を受けたとか、正当防衛で怒鳴り男を倒したとか。
警備隊の人が言うにはあの三人は露店通りで俺にやったような事をちょこちょこやっていたそうだ。
店を脅して金を払わせ、払わないなら悪評を流して店を潰す…
誰も被害を訴えなかったのは、例え捕まっても必ず報復すると宣言していたからだそうだ。
それに細々とやっている店だけを狙っていたので護衛もないと踏んでいたらしい。
俺に狙いを着けたのは最近有名になったからといくら売り上げが良くても露店をやっているEランクなら大した問題にならないと思っていたからだそうだ。
結果は全員逮捕だけど。
なんだかんだで警備隊の人からは「ご迷惑をおかけしました」と謝られ、俺は意外とすぐに解放された。
小鳥の宿に帰ったら帰ったらで大変だった。
フーさんと女将さんからは質問攻めに遭うし、どこから聞きつけたのかアシトさんまで飛んできていた。
どうも小鳥の宿の宿泊客も何人かがあの場にいたみたいで、今朝何があったのか全部しゃべっていたみたいだった。
俺の話を聞いて三人は安心したようだけど、アシトさんは「何かあったら絶対呼べよ!」と念押しして帰って行った。
で、その次の日から三日間。
この異世界で経験した初の地獄だった。
露店は大行列。
買い物客に混じって、冒険者パーティーのスカウトが何人も来るし、事の発端となったボールペンも飛ぶように売れた。
だけど、一番売れたのは…
「すみません、あの盾ください!」
「貴方が使っていた盾が欲しいんです!」
「あんなに使い勝手の良い盾他にありません!予備も合わせて十枚ください!」
透明窓付きフライパンの蓋だった。
俺が怒鳴り男と戦った時に使っていた事、それにナイフを簡単に弾いて打撃の武器として使っていた事が冒険者の間でかなり噂になったみたいだった。
「…あの、これ盾じゃなくて蓋なんですけど。」
一応、買う人にはそう言ったけど、みんな納得して買っていった。
…昭和の映画で鍋をヘルメット代わりにするシーンがよくあったけど、案外この異世界じゃありかも。
最終日にはそう考えるようになっていた。
そんなこんなで店を開ける約束をしていた三日目…最終日も終わり、俺はベッドに倒れていた。
店はしばらく休むとちゃんと宣言した。
体力の限界です。
…その甲斐あって、売り上げはこの三日で中金貨十枚…百万円になったけど。
「…………」
ベッドの中で忙しさを理由に考えないようにしていた事とようやく向き合う。
あの時…
怒鳴り男の動きがゆっくりに視えた。
それに何をするかまで…
視えていた。
俺を刺すその姿まではっきりと…
…【神眼】だよな、やっぱり。
でも、【神眼】で未来が視えていたとしても、どうしてあんな動きが俺に出来たんだ?
特撮が好きだったからヒーローの動きを毎週視ていたけど、ケンカはほとんどした事ないし、視るのと動くのは別だ。
「う~~ん。」
スマートフォンを取り出して【スキル一覧】を視ても、何も変化はなかった。
他に何か分かる方法あるか?
【神眼】を【神眼】で視る事が出来れば何か分かるかもしれないけど…
鏡なんか反射する物があればいいけど、さすがに探す気力が…
こんな疲労状態じゃ…
……
……あった。
俺はスマートフォンをもう一度操作して、今まで使わなかったアプリを使った。
【状態確認】アプリだ。
開いてみると、俺の全体図の画像が出てきた。
試しに眼をタップすると、項目が表示された。
【神眼】…神の眼。物事のあらゆる状態を見抜き、理解出来る。→
【スキル一覧】と同じ事が書かれているな。
ん?
でも、なんだこの矢印?
そのまま→をタップすると
【神眼】…【第一領域】解放により、対象を視る事で数秒後の未来予知、また動作の最適化及び最適解への動きが可能。
…【第一領域】?
今度はこの【第一領域】をタップするとまた文字が並んだ。
【第一領域】…聖水の継続的な摂取により肉体の基礎強度が上昇した状態。怪我をしても治りが早く、状態異常にも強い耐性を持ち、呪いなどが効きにくくなる。【神眼】の最適解の動きにも対応出来る。
……ちょっと待ったああああああ!?
なにこれなんですか!?
【第一領域】って何?
ってか、聖水なんていつ飲んだ?
そんな貴重な物俺は持っていないし!
継続的に飲んでいるのはせいぜい女神様からもらったペットボトルの……水…
「ウソでしょ…」
俺は山ほどある女神様からもらったペットボトルに入った水を、ただの水と思っていたそれを【神眼】で視た。
神聖水…最上位の聖水。一口飲めばあらゆる状態異常を回復し、二口飲めば身体の傷が完全に癒える。魔除けとしても使える。泉の水に一滴でも垂らせば、そこは浄化され、聖水の泉に生まれ変わるほどの力を持っている。継続的な摂取で【領域】の解放が出来るが、あまりの神聖さ故に普通の人間は継続的な摂取はほぼ不可能。無理に続ければ肉体が崩壊する。
…はあああああああああああ!?
神聖水!?
俺、カップラーメンにバシャバシャ使ってましたけど!?
スープ一滴残らず飲んでたし、寝る前に喉が渇いた時に普通に飲んでましたけど!?
そもそもそんなもの凄い物をペットボトルの大量に入れないでください!!!
え、でも肉体崩壊してないって事は…
つまり、その…
ああ、もう!
「…もう寝る、寝かせて。」
さすがにキャパオーバーです。
現実逃避させてください…
夢の中でくらい静かにさせてください。
…おやすみなさい。
と言う訳で、第一部はこれにて終わり。
新たな問題も出てきましたが一段落です。
物語の終わりではありません。
また近いうちに続きを書きますのでよろしくお願いします!