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第三十六話 クレーマーと戦いました


 

「申し訳ありませんでした。」


「すみません。」


「深く反省しております。」


「今後、このような事が起きないよう注意いたします。」


「ご迷惑をおかけしました。」



 そんな山ほどの謝罪を口にして、頭を下げて、理不尽な事を言われても、否定する事すら許されず、相手の気の済むまでボコボコにされる。


 現代日本で俺はそれを受け入れるしかなかった。


 刃向かえば周りに迷惑がかかるし、最悪クビにされるかもしれない。


 執念深い人ならSNSを使って、ちょっとの真実と嘘を混ぜた悪意をその場の怒りで拡散させて、これから先の人生まで潰そうとする。


 だから、相手が落ち着くまで何もしないのが一番なんだ。


 それが現代日本だ。


 そして…


 ……そんな生き方、もうやりたくない!!



 目を見開き、俺は覚悟を決める。


 ここから先は、現代日本で絶対にやらなかった、やれなかった事だ。


 いつも考えていたもしもの展開だ。


 責任を負うのは俺一人。


 何かあっても大変なのは俺一人。


 …なんて楽なんだろう。


 さあ、始めよう!


「なるほど、驚きました!」


 急に立ち上がった俺は男達に負けないほどの大声でそう言った。


 男達は少しだが後ずさって、周りの人達も驚いている。


 …いい感じだ。


 …正直、声出すのは恥ずかしいし、辛いけど。


 さっきの男達と同じように、周りに聞かせるように振る舞う。


「ならお聞かせください!ボールペンが爆発した事が事実なら、どうして貴方の服は汚れていないのでしょうか?」


「…っ!」


 気づいたか。


 ボールペンが爆発した…現代日本では有り得ない話でもこの異世界には魔力がある。


 日本の化学製品と魔力が超反応して爆発が起きた可能性もゼロじゃない。


 でも、それならそれで分からない事がある。


 右手が重傷になり、武器も壊れるほどの爆発が起きたなら、飛び散ったインクが一滴も着いていない事はおかしい。


 服は昨日のままだとさっき言っていたし、その服にもインクの跡は見当たらない。


 …まあ、そこはこう言えばいいか。


「右手で爆発を押さえ込んだからインクは服に飛び散らなかったんだよ!文句あるか!?」


 後ろにいた仲間の一人がそう叫んだ。


 その声で勢いを取り戻したのか、怒鳴り男は自分の右手をもう一度突きだした。


「そうだ!おかげで俺の右手はこの様だ!」


 俺はその右手をよく視て(・・・・)


「なるほど!だから服にインクは着かなかった!そうですね?」


 俺の声に怒鳴り男はうなずく。


「そうだ!だから、その治療費をーーー。」


「…なんて言い訳通ると思います?」


 俺は何年ぶりか分からないほど、久しぶりに冷たい声を突き立てた。


「ひっ!」


 男達が引いているけど、まだだ。


 …散々好き勝手してきたんだ。


 ここからは俺のターンだ。


「そもそも無理があるんですよ。今確かに言いましたよね?右手でボールペン(・・・・・・・・)の爆発を抑え込んだ(・・・・・・・・・)って。じゃあ、片手剣はどうやって(・・・・・・・・)壊れたんです(・・・・・・)?」


「そ、それは…」


 …ずさんすぎる。


 こんなのちょっと調べれば、いや考えれば分かる事だろ。

 

 …どれだけ俺を舐めていたんだ。


 逆によくこんな状態であんなに自信満々に出来たな。


「片手剣は爆発で壊れたと言っておきながら、その爆発は右手一本で抑えた。剣を壊すほどの爆発を抑えてよく右手がそれだけの怪我で済みましたね?」


「う、これはーーー。」


「それに!右手一本でボールペンを抑えるなんてそもそも不可能なんですよ!」


 ボールペンは長いから、右手でどう掴んでも必ず一部分が手からはみ出てしまう。


 さっき、右手を視た(・・)時に、手の大きさも確認した。


 この人の手じゃ、右手一本でボールペンを抑えきれない。


 もし、抑えるなら両手を使うか…


「じ、地面に密着させて右手を蓋にしたんだ!とっさだったし、左手を動かす前に爆発した!」


 後ろにいた男の一人がそう口にした。


 …そう言うしかないだろうな。


 予想通りの答えだ。


「なるほど。ですが、ボールペンは急に爆発した(・・・・・・)んですよね?よくそんな事が出来ましたね?」


「……せえ。」


「地面に密着させた…これに間違いないですか?」


 俺の言葉に怒鳴り男はついに


「うるせえええええええええ!!」


 ガシャアアン!


 俺が露店に並べていた商品を蹴っ飛ばした。


「きゃあああ!」


 見守っていた女性の声が響き、周囲がざわつく。


 俺の足下には今日のメインで売ろうとしていたフライパンと、透明窓付きのフライパンの蓋が転がっていた。


「黙れえええええ!」


 怒鳴り男はそう叫ぶと、余裕のない目で俺を睨んできた。


「ご託はいいんだ!これ以上、余計な事をするならぶっ殺す!!」


 もう自分は嘘を言っていたと認めているようなものだけど、本人に自覚はないんだろうな。


 俺はそんな男を無視し、反対に顔が青くなっている後ろの二人にも同じ質問を尋ねる。


「間違いないですか?」


 二人は今の状況が良くないと怒鳴り男よりは理解しているはずだ。


 でも、もう後には引けないんだろう。


「あ、ああ…本当だ(・・・)。」


「…間違いねえ(・・・・・)。」


 そう答えた。


 …決まったな。


「無視すんじゃ---」


 だから、はっきり伝える。


「じゃあ、その包帯取ってください。」



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