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第三十三話 話題の店になりました



「なあ、最近噂になっている店知っているか?」


「知ってる知ってる!商業区の露店通りに少し前に出てきた店でしょ!」


「ただのうさんくさい露店かと思ったけど…」


「とんでもない店だった…」


「俺はボールペンって言う物を買ったんだが驚いたな。インクもなしで文字が書けるのもだが、懐に納まって書きたい時に書けるんだ。地図を書き足したり、記録をまとめるのも簡単だ。」


「僕は包丁を一本買ったんだけど、びっくりするくらい軽くて切れ味も見習い用の安物とはまるで違う!それがあんな値段で売られているなんて…」


「それよりもあの紙よ!あんなに真っ白でしっかりとした紙は見た事がないわ!『薬品を使っているから食べないでくださいね』って言われたけど。」


「ああ、俺も驚いた。買う前に『こう使うとダメになる』とか注意を散々した時は少し苛ついたが…あの説明を聞いてて良かったと今は思うよ。」


「『買わなきゃ損!』はよく聞くけど、『買わなくてもいい』は初めてだったな。必死で儲けようとする気迫がまるでなかった。」


「そうそう!お店も一日おきに休んだり、三日連続でやってる時もあれば五日休んでたり。露店通りに行く人もすっごく増えたよね。」


「実はさっき行ったら今日やっていたらしいけど…売り切れでもう店じまいしていた…絶対次は何か買うんだから!」


「すごいよね、いきなり出てきてもうこんなに人気だもん。」


「ああ、本当に凄い。あの若さであれだけの物を揃えられるとは…」


「確か店主の名前は…」


*****



「ハイキ、アンタ大丈夫かい?」


 女将さんがそう声をかけながら、俺の座るテーブルにスープを持ってきてくれた。


「まあ、なんとか生きていますよ。」


 俺はそう笑いながら、今日のスープ…野菜と肉団子の塩スープを口に運んだ。


 疲れた身体にこのシンプルな味はしみる…!


「それにしてもねえ。」


 女将さんはまじまじと俺を見ると、苦笑いをした。


「アンタがここまでやり手の商売人だとは思わなかったよ。」


 女将さんはそう言うと、空いている俺の前の席に着いた。


「今じゃ、露店通りに通う人のほとんどがアンタを待っている。こんな状況、商売人なら毎日店を開けて荒稼ぎするのに、アンタは気まぐれに店を開けるから困ったもんさ。」


「…女将さんにもご迷惑おかけします。」


 俺は頭を下げた。


 今でこそ何もないけど、一週間前は一度も話さなかった宿泊客から商品を売ってくれと言い寄られたりもしていた。


 女将さんがいなかったらこうして落ち着いて食事も出来ていない。


「その事はいいさ…でも、露店通りの場所代もそれなりに払っているんだろう?」


 俺が今、露店を開いているのは商業区と呼ばれる場所だ。


 噴水広場を境に小鳥の宿のある反対側の方向にある商業区では一般的な生活用品を扱っている店舗から貴族御用達の店まで幅広い種類の店が存在している。


 その区画の一部にあるのが『露店通り』と呼ばれる通りだ。


 名前の通り、露店だけで埋まっている場所で、掘り出し物も出回ったりもするから冒険者や一般市民など中々の賑わいがある。


 そこで商売をする時に、商業ギルドを通して俺は場所代を三ヶ月分…小金貨三枚を払っている。


 普通なら場所代はもっと安いけど、店を開かない時もあるし、その間も確保してもらう条件もあったのでけっこう上乗せしている。


「まあ、俺は働き者でもないので…場所代くらいは問題ないですよ。」


 しんなりとした味のしみこんだ野菜を噛んでいると、女将さんがため息をついた。


「…それも狙いかい(・・・・・・・)?」


 女将さんのまなざしを受け止めながら、俺はフォークを動かすのを止めた。


「…さあ、なんの事でしょうか。」


 俺はそう答えながら、肉団子をほおばる。

 一度焼いているからか、味も香りもとてもいい。


「…アンタが店を開いてから、露店通りに来る人間は倍近くになった。それなのに目当てのアンタは気まぐれにしか店を開けない。だけど、他の店で買い物をする客も間違いなく増えている。」


「……」


「それこそ、露店通りじゃなくて商業区全体でだ。そうやって他の店にも旨味を渡す事で、他の店から排除される事を防いでいるんだろ?『自分がいれば分け前(・・・・・・・・・)もあるけど(・・・・・)自分を追い出せば(・・・・・・・・)客は一気に流れる(・・・・・・・・)』って…中々考えつく事じゃないよ。」


「そんなつもりはないんですけどね。」


 スープを飲み干すと、女将さんが空になったばかりの皿を引き寄せて立ち上がった。


「…ハイキ、気をつけなよ。そんな考えすら分からないで難癖付けてくるヤツは必ず出てくる。ヤバいと感じたら逃げるんだよ。」


「…分かりました。」


 女将さんが去って行くのを見送った後、俺は自分の部屋に戻った。



 部屋のカギを閉めて、食べたばかりだけどベッドに倒れる。


 ………


 …………………


 ……………………………


 ………………………………………


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 いや、どういう事ですかああああああああ!?



 叫ぶのをこらえてベッドでじたばたする…


 多分、誰もいない場所なら声出ていた。





 と言うか、そんな事になっているの!?


 確かに露店通りの人が前より増えたと思ったけど、俺のせいだった!?


 ってか、露店通りの人達、そんな風に思っていたの!?


 隣でやっている薬草売っているおばあちゃんから『アンタを敵にはしたくないねえ』ってしみじみ言われたけど、それなの!?


 …マジかあああああああああ!?


 違うから!違う!


 そんな旨味とか排除とか、計算とかで店やっているんじゃなくて、アレが俺の限界なの!


 コミュ障なめんなよ!


 それも接客業でトラウマ持ちの!


 店始めたら、あっという間に人が押し寄せてきたから、もう怖いし、疲れるしで、休みとってるだけ!


 他の店に分け前をあげてるんじゃなくて、体力と精神力が尽きてるだけ!


 そんな考えはないし、思いつきもしなかったよ!


「大丈夫かな、本当…」


 明日から不安だ。


 変な人が来ない事を祈るしかない…


 いっそ止めるって手もあるけど…



「はあ~…



 …それでもやるしかないんだ。


 目的の為には(・・・・・・)…!


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