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第三十一話 気分転換は大事でした

連続投稿になります。

次回更新も早めにやる予定です。

大変な時期ですが、皆様どうかお気を付けください。


 お風呂に入る道具の用意は出来た。


 ただ、場所だけがどうやっても見つからない。


 ユーランの街を歩いたり、人づてに聞いたり、あちこち見て回ったけど…


「ないな~…」


 全部外れだった。


 良さそうな場所を見つけても周囲に民家があったり、民家も遠くて人も来ない場所を見つけても地主さんの許可がおりなかったり、街外れにある民家も何もなくて所有者のいない土地を見つけたと思ったら【治安情報アプリ】から警告が来て、慌てて逃げたり…


 身近に相談出来る人がいなかったのも大きい。


 魔石バスタブを買った事もフーさん達には伝えていないし、その為に良さそうな場所も聞いていない。


 そもそもフーさんに教えてもらった「広くて人気のない場所」があの農業地だ。あの時、農業地以外にも候補を教えてもらっていたけど、回ってみるとどうしても条件が合わなかった。


「ああ~。」


 そんな訳で場所探しに歩き回って疲れ果てたある日。


 気分転換に噴水広場で食事をしようと、俺は露店で買った分厚い肉の串焼きを食べていた。


 ホーンブルと言うモンスターの肉で食べ応え満点で人気なようだ。


 一本銀貨二枚はしたけど、確かに噛み応えはある。

 味付けは塩のみだけど、元々の肉のうま味が口いっぱいに広がってくる。


「ふう…!」


 この分厚い肉を噛みちぎる感覚も楽しい。

 野性味溢れると言うか…

 火が通って熱々なのに、火傷しそうなのに止まらない…!

 油もそれなりにあるのに胸焼けもしない。 



 それなりに大きなサイズだったのに、あっという間に食べ終えてしまった。


 夢中になりすぎていて気づかなかったけど、口は肉汁と油でべちゃべちゃになっている。

 さすがにこれはよくないか…


【廃棄工場】からポケットティッシュ(しわ)を取り出して口を拭いていく。取り出した時点でしわくちゃだけど、汚れをとるのには問題ない。口に当てて肉汁と油を拭き取って、ゴミになったティッシュは【廃棄工場】で処分する。

 

 …これでよし。


 それにしてもおいしかったな。


「もう一本買おうかな。」


 俺はそう思いながらも、まだ少し油っぽい口元をぬぐった。


 こういう串焼きはできたてを外で食べるのも良いんだけど、家でゆっくり食べるのもいいんだよな。


 口や手が汚れても人目を気にしないでいいし、静かに落ち着いて食べられるし。


 現代日本だったら冷めても電子レンジで温めておいしく食べられるし、家の冷蔵庫に入れてある冷えた炭酸ジュースを一緒に飲めば…


「…あ。」


 俺はある事に気づいた。


 気づいてしまった。


 お風呂に入る為に俺が探している場所の条件は


・安全である事

・人が来ない事

・心から安心出来る事。


 この三つだ。


 そして、この三つが揃うのは


「…そうだ。家を借りよう。」



 マイホームだ。


 小鳥の宿での生活はとても居心地がいい。


 頼りになる人もいるし、食事もおいしい。


 ただ、どうしても完全に一人の時間は少ない。


 部屋は一人だけど、一歩外に出ればフーさんや宿のお客さんにも会うし、壁は薄いから声も出しづらい。

 【廃棄工場】からカップ麺を取り出しても小鳥の宿では食べられないし、レトルト食品を食べるには毎回農業地へ行かないといけない。


 それにこれは現代日本で言うところのホテル暮らしだ。


 女神様のおかげでお金があるから気にせず泊まっていられたけど、なんだかんだで結構お金はかかっている。


 なら、賃貸でもいいから一軒家を借りた方が経済的にいいのでは?


 別に豪邸とか言う気はないんだけど、治安が良くて安全面もある場所ならお風呂だけじゃなくてカレーやカップ麺なんかの食事も何も気にせず、遠慮無く出来る。


 この世界での物件の取り扱いってどうなるんだろう。


 不動産があるのか、もしかしたらまたギルドに行かないといけないのか。


「と言う訳で教えていただきたいんですが…」


 俺は串焼きを食べ終えてすぐにある人に会いに行った。


「え、ええと…」


 戸惑うその人に俺はビシッと頭を下げる。


「お願いします!」


 コミュ障の俺がどうしてここまではっきり人にお願い出来るのか?


 …それは目の前の人にすごい事されたせいで、もう一周回って平気になったからだよ。


 …ねえ、サイラさん。


 今いるのはサイラさんのお店だ。


 …この前あんな目に遭って、フーさんからも「何かあった?」と心配されたのに何でよりによってサイラさんに聞きに行ったのか。


 それはサイラさん以外に聞ける人がいなかったからだ。


 お風呂に使える場所を探すのとは訳が違う。


 フーさんと女将さんは聞けば教えてくれるだろうけど、二人の立場を考えれば客が一人いなくなる、つまり売り上げが減る事になる。

 そんな事を気にする人達じゃないのは分かっているけど、後ろめたい気持ちはある。


 それに今回はある意味サイラさんの方が適任だ。


 サイラさんは店を一軒、倉庫代わりに家を三軒買っている。

 サイラさんが交渉して買い取ったとは言え、手続きなんかはやっているだろうし、もしそうでなくても専門の人や業者が間に入っているはずだ。


 サイラさんの手が空かなかったり、分からないなら専門の機関を紹介してもらえれば、それはそれで解決する。


 なんでもいいから情報が欲しい。


 そんな俺の思いに対するサイラさんの返答は


「ええと…申し訳ありません、ハイキ様。ハイキ様では無理です。」


 キッパリした全力否定だった。


「…サイラさん、一応お金はあるんですけど。」


 俺は予想外の返答に戸惑いながらもそう言った。


 俺が魔石バスタブを買ったから、お金がないと思っているのかもしれない。


 でも、まだ大金貨二十枚…二千万円以上はあるし、賃貸ならこれでも充分なはずだけど…


 すると、サイラさんは何か言いにくそうに口を開いた。


「その…お金の問題じゃないんです。いえ、お金も関係あるんですけど…」


 お金の問題じゃないけど、お金が関係している?


 なんかなぞときみたいだな。


「昨日のハイキ様のお話を聞く限り、お金は大丈夫です。ですけど…」


 サイラさんは何かを決意した目で俺を見た。


「ハイキ様…今、無職ですよね。」


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