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第二十九話 綺麗なお姉さんには闇がありました




 時間は俺がサイラさんからバスタブを買った時に戻る。


「はい、では大金貨三枚いただきました。」


 サイラさんは俺からバスタブの料金を受け取ると、『売約済み』と書かれた札をバスタブに貼り付けた。


「これで良し。でも、ハイキさん?」


 サイラさんは心配そうな顔で俺を見た。


「その、どうやってお持ち帰りされるのですか?」


 ああ、そういう事か。


 水が入っていない状態でも二百キロだっけ。


 一人じゃ確かに難しいな。


「…あの、やっぱりキャンセルされますか?」


「いえ、大丈夫です。」


 でも、それは現代日本の俺の話だ。


 今の俺は違う。


 俺にはこれがある。


 俺はスマートフォンを取り出して、【収納】を起動した。


 狙いはもちろん、このバスタブ。


 瞬きする間もなく、バスタブはその姿を消した。


 よし、これで解決。


 【収納】アプリには新しく『魔石バスタブ』の項目が増えた。


 俺は帰ろうと振り返り、


「あ…」


 自分が何をやってしまったのか気づいた。



 つい、つい、何も考えないで俺は【収納】を使っていた。


 サイラさんの目の前で。


 【収納】が使える魔道具はあるかもしれないけど、スマートフォンは多分この世界にこの一台しかないはずだ。


「こ、これは空間魔法!?」


 思った通り、サイラさんが驚いた声を出した。


 でも、それで終わりじゃなかった。


 サイラさんはすぐに頭の上のゴツいメガネをかけて、バスタブのあった空間を視るとメガネのダイヤルをいじりだした。


「いえ、空間魔法の痕跡とは違う!?この流れ、まさか…!」


 サイラさんは何かを追いかけるようにゆっくりと顔を動かして、やがて俺の手元のスマートフォンに眼を留めた。


「その板がこの流れの大本…でも、そのサイズでこんな複雑な魔法が使える魔道具なんて!?」


「さ、サイラさん…?」


 俺は思わず一歩後ろに下がっていた。


 とてもマズイ予感があった。


 両手を広げて、ゆっくり俺に近づいてくるサイラさん。


 時間は昼間、外には人もいるし、相手は女性。


 ほんの数分前まで俺はサイラさんと余計な問題を起こさないようにと適切な距離を保っていた。


 今、その距離をじわじわ詰められ、追い詰められる獲物の気分を体感する事になっている。


 さっきまで『出来るお姉さん』だった目の前の『ヤバい女性』に俺は危機感を感じていた。


 …なんならモルスに襲われた時よりも怖い。


 メガネで眼が隠れているだけじゃなくて、口元は緩みまくってるし、息も荒い、それに手の指もなんか変な動きをしている。

 

 『見た目だけは完璧だから』とフーさんが言っていた事を思い出す。


 てっきり仲の良い間柄だから言える冗談だと思っていたけど…


 本当だったんだ…


 

 『余計な抵抗はするな』オーラすごいし…


 うまい具合に位置取りしてるから、ドアには行けないし…


 顔もスタイルも良いだけにここまで変貌すると尋常じゃない恐怖だ…し…


 って、あれ?


 もう後ろ壁なんですけど!?


 これ以上逃げ場ない!?


 こ、こうなったら申し訳ないけど、正面突破を…!


「ーーーーーーーーーーーーーーーーーー。」


 そんな俺の決意など分からないサイラさんは涎を指でぬぐいながら、ぶつぶつ何か言っている。


 な、なんだ?


「大丈夫大丈夫ちょっとだけちょっとだけだから触らせてください痛くしません痛くしませんからお金払いますむしろ払わせてくださいその角いえ先っぽだけでも中を開いて解体いえ構造分析とにかくみせてくださいさわらせてくださいなめさせてくださいああ、もう我慢出来ませんんんんんんん!」


「いいいいやああああああああああああああああ!」


 戦意消失した俺に出来た、いや身体が勝手にやったのは叫ぶだけだった。


 例えでも何でもなく、本当に飛びかかってきたサイラさんの手が俺に届くわずかな瞬間。


 誰かが俺の叫びで助けに来てくれる事を俺は願った。


 でも、俺の悲鳴は防音魔法がかけられていた建物の中でむなしく消えていった…





 一分後。




「これは…私の、いえ人が理解してはいけないものですね。」


 メガネを外してすっかりいつもの調子に戻っていたサイラさんでしたけど、俺はあの恐怖を忘れる事はないでしょう。



 あ、ちなみにスマートフォンを奪われただけですので、俺自身は無事でした。


 何もありませんでしたし、あの人スマートフォンにしか眼に写っていなかったようです。


 そのスマートフォンもあの台詞の後にすぐに返ってきましたし。


 ただ、サイラさんには気をつけます本当に。



 勝てる気がしない…


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