第三話 欲しい【スキル】を造ってもらいました
俺は日本人だ。
それも平成生まれ。
食べ物に不自由した事はなく、むしろ様々な食べ物を思う存分に味わえるそんな時代を生きていた。
別に何万もする豪勢な食事をした事はない。
時間がないからとコンビニで菓子パンと缶コーヒーを朝食にしたり、昼は熱々のつゆだくだく牛丼生卵かけを食べたり、晩飯にちょっとした贅沢で有名チェーン店の回転寿司に行ったり…
ラーメン、餃子、カレーにハンバーガー、ピザにアイスにジュース、和菓子、洋菓子、とにかく色々…
それが食べられない…
「その、ごめんね…」
女神様が謝るが、俺はうなだれていた。
どうやら異世界では動物だけでなくモンスターの肉も食べるそうだ。
そこはいい。
いつかは熊肉も食べたいと思っていたんだ。
そこは気にしない。
肉だし…
ただ、食文化においてはそこまで発達していないのは重大な問題だった。
香辛料も貴重で一般には出回らないとか…
俺に分かるように例えてくれたが、それはまさに歴史の授業で習った中世の外国だ。
現代日本から中世外国まで食を遡る…
無理だ。
耐えられる気がしない。
すでにこの時点でカレーが食べられないのが確定している。
カレールーに至っては存在すらしていないだろう。
揚げたてとんかつのカツカレーはもう二度と食べられない。
…それにもし、なんとか材料を確保したとしてもまだ問題はある。
俺も料理は作れるが、それは現代技術があってこそ。
目玉焼き一つにしてもだ。
テフロン加工のフライパンとガスコンロでしか料理をした事のない俺が、鉄板とたき火で料理しろと言われても出来る自信がない。
何より中世に近い食文化なら、卵も貴重だろうし、焦げ付き防止のサラダ油も当然ない、それに外国に近いなら醤油も…
どうしよう…
幸いにも手元には【スキル】を書ける紙がある。
いっそ、『食事を何でもおいしく感じられる』【スキル】にすれば…
でも、絶対ふとした瞬間にラーメン食べたくなるんだよな。
カップ焼きそばもそうだ。
たまに無性に食べたくなる。
食料品を定期的に送ってもらえる【スキル】はどうだろう?
ダメだ、保管する場所もないし、何よりどれだけの量が来るか分からない。
体調が悪かったり、その時の気分次第では無駄になる事もあるだろう。
それにどれだけ材料があっても結局のところ、道具がなければ意味がない…
慎重に考えないといけない。
【スキル】は使い物にならないと意味がない。
「ああ~…」
情けない声を出して、俺はちゃぶ台に頭を乗せた。
「ねえ、大丈夫?」
女神様が心配してくれている。
本当に俺を案じているその声で気分が落ちつく。
「もったいないな~…」
ぼそりと呟いた。
女神様とこのままここにいれれば幸せなのに…
でも、無理だろうな~。
ああ、もったいな…い…?
「…それだ!」
唐突に浮かんだアイデアで俺はバッと顔を上げた。
「きゃ!」
「ごめんなさい!」
驚く女神様への謝罪もそこそこに俺はすぐに鉛筆を紙の上で走らせた。
ここで書き切れないと間違いなく忘れる!
そうなれば待っているのは地獄だ!
全ての問題を解決するのはこの【スキル】しかない!
頭の中にぐじゃぐじゃと言葉が溢れるが、鉛筆は流れるようにそれをまとめてくれる。
「…出来ました!」
五分経って、俺は書き終わった紙を女神様に見せた。
走り書きで乱雑な文章になったと思ったが、修正鉛筆が字の汚さも俺の書きたかった内容も丁寧に書いてくれた。
女神様はしばらく紙から目を離さなかったが、
「…本当にこれでいいの?」
不安そうに俺に聞いてくれた。
俺は少し迷ったが、決意した。
「あの、可能なら【スキル】をもっと使いやすいようにしたいです。それにその…」
「なに?」
「あと二つだけ…欲しい【スキル】があり…ます…」
わがままなのは分かっている。
でも最後の最後だし…ここで何も言わなかったら後悔すると思う。
「ダメならいいです!今書いた【スキル】も無茶苦茶ですし、それにご迷惑になるなら―――」
「いいわよ?」
女神様は白紙の紙をまた二枚出してくれた。
「…い、いいんですか?」
怒られると思っていたが、女神様は優しい表情のままだった。
「だって、前の人は自分が欲しい滅茶苦茶な【スキル】をたくさん持って行ったんだから…貴方に一つしか渡さない理由はないわよね?」
そういたずらっぽくウインクして。