第二十八話 お風呂を買いました
新年明けましておめでとうございます。
2021年もどうかよろしくお願いします!
今年の目標は総合評価1000突破です。
応援いただければ幸いです。
結局、話をまとめると俺は魔石内蔵式浴槽四号…念願のバスタブを手に入れた。
値段は大金貨三枚。
つまり、日本円で三百万円。
全財産の十分の一を使う事になったけど、これは必要経費だ。
それにすごいオマケも付いてきた。
交換用の魔石を一セットだ。
「先ほども話した通り、毎日水を出して使ったとしても魔石の交換は二年に一回ぐらいだとお考えください。それと…魔石内蔵式浴槽四号で使用している魔石はコンロ型魔道具六号よりもずっと大きい物で、価値も高くなります。」
その魔石のお値段は一つで中金貨五枚…
それがあのバスタブには五個も使われているので、全部変えるとバスタブを買い換えるのと変わらないぐらいの金額になるらしい。
なら買い換えた方がいいのでは?
そう考えもしたけど、そんな簡単な話じゃないみたいだった。
バスタブに使っている石材は元々それなりにいい値段がしていたらしいのだけど、この二ヶ月で値段が三倍以上に跳ね上がっているそうだ。
採掘に何かしらの問題が起きているようだけど、それ以上は分からない。
確かなのは今、同じバスタブを作っても材料費だけで大金貨四枚以上はする事。
このままのペースなら同じバスタブでも二年後には最低十倍以上の値段になっていてもおかしくないとの事。
サイラさんが言うには今後の課題でコストダウンを考えていたそうで、今は代わりになる物を探したり、色々動いているらしい。
「開発は今後も続けていきますから、どうか楽しみになされてください。」
サイラさんはそう優しく微笑んでいたけど…
大金貨三枚分のバスタブを売って、大金貨三枚近い魔石をタダで渡す。
いくら高騰前の石材を使っていると言っても、色々な物の収支を考えれば良くてプラマイゼロ…もしくは赤字のはずだけど。
「…と言う訳でもないのか。」
サイラさんの店を出た俺は改めてこの通りを視た。
一番奥にあるサイラさんのお店とその隣三件の空き家。
サイラさんが教えてくれたけど、サイラさんが魔道具の保管場所が欲しくてこの三件を丸ごと買い取ったらしい。
ここで働いていた店の人達には丁寧にお願いし、お詫びとして引っ越し費用や新しいお店の開店資金、お礼などすごい額を渡して、円満に交渉を済ませたそうだ。
…サイラさんはそれだけの事が出来る資金力を持っている。
サイラさんの店は一つ一つの魔道具の値段がとても高いし、お客さんが二日連続で来る事もない。
でも、その品質や使い勝手は明らかに他の魔道具とは次元が違うので、有名な冒険者達や貴族御用達の商人が定期的に訪れては買っていくし、別の街からサイラさんにお金を払って技術やアドバイスを求める人も多い。
来店するお客さんの数は他の店よりもずっと少なくても、収益はどこよりも多い。
ユーランにいる下級貴族よりも資産は多いそうだ。
それをサイラさん自身はあまり気にしていない。
「私はどうしても魔道具にしか興味がありませんので…生活出来るだけのお金があれば問題ありません。」
そう本人が言っているけど…
「…どこにでもぶっ飛んでいる人はいるんだな。」
サイラさんは魔道具にしか興味がない…どころか、魔道具の為なら全財産投げ出しかねない性格なので(本人も認めている)、お金の管理は商業ギルドの人間に任せて、自分は毎月決められた額だけで生活して、魔道具開発をしていると聞いた。
それでもお金が足りなくてすぐに必要な時は、他の魔道具店で修理のバイトをするらしい。
「まあ、なんにせよ。」
魔石内蔵式バスタブ四号…バスタブは手に入れた。
あとは場所をどうにかすれば…
「いや、それより…」
俺は足を動かす前にポケットからスマートフォンを取り出した。
帰る少し前にサイラさんの言っていたある言葉がどうしても気になっていた。
『これは…私の、いえ人が理解してはいけないものですね。』
あの人は俺のスマートフォンを視てそう言った。
その時のサイラさんはいつもと違っていた。
静かに、何かを戒めるように…
その言葉を自分に言い聞かせているみたいだった。
「…でも、その前がなあ。」
その直前の出来事を思い出して俺はため息をついて、
「…………」
ゾクリと震えた。
時間は少しだけ戻る。