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季節物語 一日遅れのクリスマスを楽しみました

季節に合わせた番外編『季節物語』となります。

初の季節物語のテーマはクリスマスです。

本編の第二十七話まで読まれるとさらに楽しめると思います。

文字数は過去最大となりますが、どうか皆様お楽しみくださいませ。



「ん?なんだこれ。」


 朝食を食べた俺が部屋で【廃棄工場】のチェックをしているとある事に気づいた。

【廃棄工場】は廃棄予定の物が日によって増えていくのでこの作業はもはや日課になっているのだけれど、食料品に今まで見た事のない項目が追加されていた。


 フライドチキン(売れ残り)

 大ビン入り炭酸飲料(売れ残り)

 クリスマスケーキ(売れ残り)



「…ああ、そうか。」


 スマートフォンを取り出すと日付はいつの間にか十二月二十六日だった。

 

 この異世界に来てから色々な事がありすぎてすっかり忘れていたけど、現代日本は昨日がクリスマスだったのか。


 異世界ではクリスマスなんて概念が存在しないから気にしていなかった。


 現代日本でも一人だったから特別な事なんてなかったけど…


 そうか。


「…よし。」


 俺は【収納】から大きな皿を二枚とワイングラスを用意し、テーブルに置いた。


 そのまま【廃棄工場】からフライドチキン、クリスマスケーキを一個ずつ皿の上に取り出す。


 大ビン入り炭酸飲料はそのままテーブルに。


「おお…」


 つい声が出た。


 用意した皿は俺の両手が納まるくらい大きな物だったけど、出てきたフライドチキンはその皿をはみ出すほどさらに大きなサイズだった。

 衣も綺麗な黄金色で、おいしそうな匂いは冷めても伝わってくる。


 そして、ケーキにも驚いた。


 ワンホールのケーキには苺と生クリーム、それにサンタの砂糖菓子も可愛くのっていて、チョコレートプレートには「メリークリスマス!」の文字…珍しく、カタカナだ。だいたい英語だよな。


…まあ、気にしない。


 最後に大ビン入り炭酸飲料。

 クリスマスのラッピングがしていて、とてもよく冷えている。

 去年のクリスマスにどうしても気になってろくに調べないまま買ってみたんだよね。

 蓋を開けたらポンッと外国のお酒みたいに大きな音がして驚いたし、中は色つきの炭酸ジュース。お酒を飲んでいるみたいな感覚でおいしいだけじゃなくて、雰囲気も楽しめた。



 クリスマスの主役級が揃うとテーブルが一気に華やかになったし、クリスマスの気分も出てきた。


 念のため【神眼】で出した物を視るとこう表示された。




フライドチキン(売れ残り)…クリスマス用に作られた特製フライドチキン。高級鶏を使用していて、味も非常に濃厚。賞味期限は切れていないが、売れ残った為廃棄となった。




クリスマスケーキ(売れ残り)…クリスマス用に作られた特製ケーキ。高級苺、高級生クリーム、最高品質のスポンジケーキなど最高級の素材で作られた。賞味期限内だが、売れ残った為廃棄。




大ビン入り炭酸飲料(売れ残り)…クリスマス用ラッピングをされた大ビン入り炭酸飲料。賞味期限には余裕があるが、クリスマスを過ぎたので廃棄となった。




 …やっぱりか。


 おいしそうだし、賞味期限も大丈夫なのに、クリスマスを過ぎた瞬間から廃棄になるのか。

 確か、昔テレビで見たけど、十二月二十六日は一年で一番ケーキが売れない日とか言っていたな。


 今の俺にはごちそうだけど。


 異世界でケーキなんて食べられないしね。


 でも、せっかくなら…チキンを温めたいな。


 問題はどうやって、だ。


 電子レンジがあればすぐに解決するけど、そんな物はない。


 前にサイラさんにも聞いてみたけど、さすがに電子レンジは作ってなかったし。


 フーさんは…また大騒ぎになるな。


 だとすると手持ちで使えそうなのはコンロ型魔具だけど…


 …無理だな。


 せっかくの揚げ物を焼くのは嫌だし、二度揚げもな…


 女将さんが使っている石窯が使えればいいんだけど。


 串でフライドチキンを刺して、石窯でじっくり温めれば余分な油も落ちるし、中まで熱も伝わるだろうし。


 でも、そうなれば他の人にも視られるし、女将さんに事情を話さないといけないし、そうなるとフーさんの追求は凄そうだし…あまり変な注目を受けたくはないんだよな~。


「う~~~~~ん…」


 唸りながらもう一度【廃棄工場】の画面を見ると、


「…あ、そうか。」


 名案が浮かんだ。


 それもとびっきりの。


 今日はアシトさんも小鳥の宿に用事があるから顔を出すって言っていたし…


 ちょうどいい。


 俺はさっそく部屋を飛び出した。



*****


 その夜。



 小鳥の宿、一階食堂にて。


 小鳥の宿の食堂は多くの人が集まっていた。


 手には飲み物の入ったグラスがあるが、その中身は誰一人お酒じゃない。


 その事に文句を言う人間は誰もいない。


 全員の注目は一カ所に集まっているからだ。


 食堂の中心のテーブル。


 部屋の端まで届きそうなほどの長いテーブルの上には何かを隠すように大きくて長い白い布がかけられている。


「今日は特別メニューが出るとか。」


「急に決まったらしいわね。」


「いや、それよりも…」


「ああ、家族や友人を連れてくるのもいいと。」


 常連達が穏やかに話す中、浮き足だった子供の声が聞こえる。


「俺、小鳥の宿初めてだ…!」


「私も!だって、ここあの伝説の(・・・・・)…」


 そんなざわめきが続く中、一際大きな声が響く。


「待たせたね!」


 いつも以上に混雑している食堂で女将さんが大声を上げる。


「さあ、アンタ達!今日は特別メニュー『クリスマス』だよ!」


 そう言って女将さんはフーさんと一緒に長いテーブルにかけられていた白い布を取り外した。



「これが今日の食事さ!」



 テーブルの上には山盛りのフライドチキン、ボウル一杯のサラダ、寸胴鍋に入った湯気の出ているスープ、何十本もある大ビン入り炭酸飲料、それに小さな皿に切り取られた苺の乗ったケーキまで、この世界の人には見慣れない料理も並んでいる。


「いいかい!今日は立って食うも良し、座って食うも良しだ!ただし、料理の持ち帰りは許さないよ!やったらそいつは永久追放だ!」


 女将さんの一言で何人かがギクッと反応した。


 どうやら持ち出しを考えていた人間はそこそこいたらしい。


 …最初に女将さんと決めておいてよかった。


「さあ、始めようか!順番はしっかり守りなよ!じゃあ、かけ声は…!」



 女将さんはそこで俺に眼で合図をした。


 俺はドキドキしながら持っていたグラスを掲げた。


「メリークリスマス!」


「「「「メリークリスマス!!」」」」


 食堂にいる全員が声を合わせてその言葉を口にした。


 全員が料理に群がる。


 フライドチキンにかぶりついて、大ビン入り炭酸飲料をゴクゴクとコップに注いで飲み、女将さん特製のサラダとスープで安定の味を楽しんで、ケーキの甘さに眼を丸くする。


「ハイキ、ありがとうね。」


 女将さんがそう言って俺に言葉をかけてくれた。


「アンタがいきなり『クリスマス』を提案した時は驚いたけど、やってよかったと思うよ。酒抜きはびっくりしたけど、アンタが用意した料理は本当に凄かった。たまにはこんなパーティーもいいもんだね。」


 楽しそうな女将さんの声を聞き、俺はうなずく。


「ありがとうございます。女将さんが俺の案を受けていただいたおかげです。」


 俺の考えは簡単なものだった。


 一人で何かすると目立つなら、大勢巻きこんじゃえばいいのでは?


 そんな無茶苦茶な考え。


 幸いにもチキンとケーキ、それに大瓶入り炭酸飲料もとても一人じゃ消費しきれないほどの数があった。

 チキンだけでも毎日食べても半年は余裕なほど。


 他も同じだった。


 だから、俺は女将さんに提案をした。


「故郷で毎年食べる『クリスマス』という食事が手に入りました。たくさんあるので、せっかくなら大勢でパーティーしませんか?」


 女将さんは最初は乗り気じゃなかったけど、俺の用意したケーキを一口食べると、すぐに準備に取りかかってくれた。


 ちなみにお礼としてケーキを三ホール渡すと約束している。


 その甲斐もあって、俺は目立つことなく石窯を使って温まったチキンを口にする事が出来ていた。

 

「いいや、アンタのおかげさ!」



 女将さんはそう言って、俺の肩を強く叩いた。


「ぐえ…」


 変な声が出たけど、女将さんはとびっきりの笑顔で俺の頭をぐしゃぐしゃになでた。


「アタシは石窯使わせて、料理を少し作っただけさ。もっと胸張りな!」


 女将さんは最後に俺の頭に優しく手を乗せた。


「…はい。」


 そんな言葉が嬉しいのと同時に照れくさくなり、なんとか返事をしていると、


「ハイキさん!このケーキ?すっごくおいしいです!」


 フーさんが俺の目の前にケーキの皿を持って現われた。


 口元にはクリームがべったりくっついていて、眼は輝いている。


「こんなに甘い苺もだし、ふわふわ…貴族の人が食べているお菓子みたい!」


 白いケーキを持っているせいもあってか、赤い髪がいつも以上に綺麗に見える。


「サンタみたいですね。」


 つい、そう言うとフーさんは首をかしげた。


「サンタ?」


「いえ!気にされないでください。」


 俺が慌ててそう言うと、


「ああ、本当にこのジュースはおいしいですね~。」


 今度はサイラさんがグラスを片手にやってきた。


 ラフな格好をしているけど、相変わらず頭にはあのゴツいメガネが乗っている。


「フーが呼んでくれたから私も参加出来ます。ハイキさん、ありがとうございます。あ、ナイショ…でしたね?」


 人差し指でぷっくりとした唇を押さえるサイラさんの仕草にドキッとする。


 この人、これで本当に天然なのか…


「え、ええ。お願いしますね。」


 俺はフーさんのジトッとした視線に気づかないよう(・・・・・・・)にしながら(・・・・・)、周りに眼を配ると久しぶりに視る顔があった。


「あ、アシトさん!」


 俺は今にも何か言いそうなフーさんから離脱して、獣人のアシトさんに向かっていった。


 アシトさんはフライドチキンを豪快に骨ごとかぶりついて、バリバリと音を立てながら舌鼓を打っていたけど、俺の声にすぐ反応してくれた。


「おお、ハイキ。ちょっと待ってな。」


 アシトさんは油で汚れた手を持っていたタオルで念入りに拭いて、口元を綺麗にしてから俺へ口を開いた。


「元気か?いや~、それにしてもこのフライドチキン?はうまいな。小鳥の宿でもかなりウマい食べ物だ。油が多いから、洗い物とかちょっと大変だけどな。」


 アシトさんはそう言うと、ニヤリと笑った。


「お前は本当に凄いヤツだな。」


 それ以上何も言わなかったけど、俺はアシトさんに苦笑いするしかなかった。


 この人は何も言わなくても何もかも見通している気がする。


 料理を提供したのが俺なのは秘密にしているはずなのに、気づいている。


「ええと…」


 ガシャン


 近くで音がしたのでそちらを視ると、誰かが空になった皿を乱暴に置いていた。


 食堂の隅に空の皿や食器を置く場所を作っていたのだけれど、すでに乱雑に置かれて無理矢理積み上げられた皿の山は崩壊寸前だった。


 アシトさんはため息をつくと、俺に頭を下げた。


「…すまん、ハイキ。俺ちょっと片付けしてくる。おい、お前ら!皿は綺麗に並べろ、油まみれの手であちこち触るな、食器は丁寧に扱え!」


 せっせと皿を綺麗に並べ直すアシトさん…相変わらず、あの人やる事オカンだ。


 俺は賑やかな場所からそっと離れて、炭酸飲料の入ったグラスを取ると、窓の外を視た。


 夜空にはたくさんの星が輝いている。


 現代日本とは違う星空へグラスを掲げ、俺はここにいないもう一人へ声を送る。


「…メリークリスマス。」


 この楽しい時間に感謝を。


 俺に出会いをくれた最高の女神様に伝わるように。


 そんな祈りを込めて…


 


いかがでしたでしょうか。

季節物語は季節に応じた番外編となりますが、ご好評なら今後も積極的に書いていきたいと思います。

また気づかれた方もいらっしゃるかもしれませんが、今後の内容に関わるかもしれない言葉も出ています。

どうかこれからもよろしくお願いします。  2020.12.26 クモト

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― 新着の感想 ―
[一言] (゜_゜ )うーん 圧力釜が欲しいね~
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