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第二十話 待っていたのはお説教でした




「なるほどね、それは災難だったね。」


 俺は宿の一階の奥にある立ち入り禁止の場所…女将さん達の家にいた。


 宿の一部だけど、防音と安全面には力を入れているそうで、女将さんはフーさんに宿を任せ、俺を連れてきてくれた。


「…すみません。」


 リビングのテーブルに座って、俺は女将さんにさっき起きた出来事を話していた。


 裏路地を歩いていたら男達に絡まれた事。


 なんとか逃げ出したけど、逆に怒りを買っているかもしれない事。


 そして…


「絡んできた相手はモルス・シュミラって名前の男です。ここがバレる前に俺は出て行こうと思います。」



 …迷惑をかける前にこの宿から出て行くつもりだという事。


「…モルス・シュミラね。」


 女将さんはその名前を繰り返した。


 その名前に心当たりがあるようだった。


「ご迷惑おかけしました。」


 今にもモルス達が襲撃をかけてくるかもしれない。


 そうなる前に出て行かないと…


 俺のトラブルに関係ない人を巻き込む事は出来ない。


「…短い間でしたが、お世話になりました。先に払っていたお金はそのまま受け取ってください。」


 せめてもの詫びに…


 そのまま俺は女将さんに頭を下げ、席を立とうした。


「…待ちなよ。」


 それを女将さんの声が止めた。


 女将さんは俺をしっかり見据えると、


「下手に動くよりここにいた方が安全だよ。」


 そうはっきり言った。


「いや、でも…」


 あのモルスは【神眼】では『お金さえあれば殺人も引き受ける』と出ていた。


 つまり、『人殺しが出来る』って事だ。


 そんなヤツがこの宿に来れば…


 女将さんはお茶を飲みながら、


「この小鳥の宿はね、特別な理由(・・・・・)がない限り(・・・・・)一切の戦闘を禁じる(・・・・・・・・・)絶対不戦の場所(・・・・・・・)』なのさ。」


 そう口にした。


「『絶対不戦』?」


 なんだかラノベに出てきそうな名前だ。


 凄そうに聞こえるけど…


「それって、ただの小鳥の宿(ここ)の決まりなんですよね。モルス達はそんなの無視するんじゃ…」


 ああいう相手は『知るか、俺がルールだ!』なんて事を言って、何もかもを滅茶苦茶にするタイプだ。理屈も言葉も通用しないはず…


 だけど、女将さんは俺の心配を余所に首を振った。


「モルスみたいなヤツほど、その決まりを守るのさ。いや、守らなくちゃいけない。このユーランで生きている冒険者や悪党、貴族、神官…色々な立場、種族を問わず、小鳥の宿(ここ)での戦いは禁じられている。わざわざ破るのは…よっぽどの馬鹿だけだよ。」


 女将さんは何か懐かしむような顔をしていたけど、すぐにいつもの顔に戻った。


「とにかくこれでアンタが出て行く理由はなくなったね。さあ、ご飯にしようか。あと、ハイキ。もし勝手に逃げたら…」


「…逃げたら?」


 女将さんはニヤリと笑って、


「フーと二人っきりにさせる。」


 そんな恐ろしい言葉を俺に残していった。


****



「つ、疲れた…」


 部屋に戻った俺はそのままベッドに倒れた。


 モルス達に襲われた疲労感、女将さんから滞在の許可が出た安心感…じゃない。


「まさか、この歳であんなに怒られるとは…」


 女将さん達の家から戻った俺を待っていたのは、


「事情を話してもらいましょうか、ハイキさん…?」



 怒りでこめかみをピクピクさせていたフーさんだった。


 どうやら、俺が女将さんと話している間に他のお客さんからある程度の事情を調べたようで…いや、どうやって?


 俺、裏路地出てからフーさんに会うまで誰とも話していないんですけど!?


 ともかく、俺が裏路地にいた事や襲われた事もバレてしまい…


「アシトさんからも止められたはずでしょ!!」


 と、もの凄く怒られました。


 見かねた女将さんがなだめて終わらせてなかったら、夜中まで続いていたかも…


 それにしても…


「よかった…」


 改めて、【廃棄工場】を【スキル】にして良かったと思った。


 モルス達が驚いていた謎の音と大量に動く何か…あれは、俺が昼間に直したネズミおもちゃだ。


 フーさんに渡したら、怒られるかもしれないと考え直したあのおもちゃ。


【神眼】ではこう出ていた。




 うごめくネズミ(変色)…ある企業が社運を賭けて作ったネズミのおもちゃ。手の平サイズで可愛らしい見た目、電池も必要なく、落とした衝撃で動く、価格もお手頃で耐久性もあるなど、注目されたおもちゃだった。しかし、無駄にリアリティを求めた結果、サイズのせいもあり動く姿はゴ*ブ*(自主規制)に近く、独自開発のモーター音があまりにも大きかった為、一斉返品を受けた一品。正常に動くが、長く買い手ももらい手もいなかった為、処分を待つ間に変色している。




 …重い内容は置いといて、そのネズミおもちゃは(変色)だけで百個はあった。だから、森で変色を直した後、【収納】に入れていた。




【収納】は俺の持っているスマートフォンを通さないと使えないけど、女神様はこう言っていた。


『【収納】は貴方の持つ【スキル】と連動している』と。


 昨日、【廃棄工場】の画面を開いて調整していると、確かに【収納】と連動している表示もあった。


 【廃棄工場】に入っているモノを【収納】から出したり、【収納】に入っているモノを【廃棄工場】から出したりも出来た。


 それに今日の昼に【収納】と【廃棄工場】に入っている物が俺の見える範囲なら『自在』に取り出せる事も確認している。


 自在…高いところから出したり、勢いをつけたり、狙った場所に取り出したり…



 後は簡単だ。



 壁を背にして後ろからの不意打ちを防いだ後、怯えて両手を振って拒絶しているようにしながら、目の前で堂々と【廃棄工場】の液晶画面を操作する。


 画面が俺にしか見えないように最初の女神様との話し合いで決めていたから、どれだけ目の前で画面をいじってもモルス達には見えない。


 そのまま俺に注意を引きつけて、直していた百個の『うごめくネズミ』をモルス達の背後…一メートルぐらい上から落とす。


 衝撃で動き回る『うごめくネズミ』に混乱している間に、【廃棄工場】にある危険物…あんパン(危険)をぶつけ、無力化させる。


 怪我もさせないで、相手を倒す俺に合った戦い方だ。



 これがさっき起きた出来事の裏側だ。


破壊と再生(スクラップ&ビルド)】を使えば、もっと簡単に終わったかもしれない。


 ただ、そうすれば俺が【スキル】を持っている事がバレてしまう。


 それに…俺には殺すような覚悟はない。


 でも、さっきの方法なら俺の仕業とは思わないだろう。


 俺はただ両手を振って、怯えていただけの男。


 陽動のネズミも、攻撃されたあんパン(危険)も俺とは関係ない方向から当てられたし…


「…目立たないようにって、大変だな。」


 そのまま俺は眠りに着こうとして、


「…大丈夫かな。」


 モルス達の心配もちょっとだけした。


【神眼】で視たあんパン(危険)の表示はこんな感じだった。




 あんパン(危険)…とにかく危険。食べれば確実に身体を壊し、嗅げば吐き気が止まらなくなる。包装はない。取り出しの際は充分注意する事。




 …正当防衛とは言え、危険すぎる物だった。


 次はもう少し控えよう。


「おやすみなさい。」


 明日こそ、平穏であるようにと願って、今度こそ眠る。


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― 新着の感想 ―
生き延びる為のスキルを望んだのに、命を狙われても「やり過ぎた」と感じるのは変だと思う 聖人君子じゃないんでしょ?
[気になる点] モルスはなぜこの宿で活動しないのだろう? 相手が不戦なのだから一方的にやり放題で ここにいる限りどんなに恨みを買おうが どんなに強いやつが来ても手出しされずに一方的にやれるのに わざわ…
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