第二話 欲しい【スキル】を考える事になりました
「じゃあ、言語については問題ないんですね。」
「うん、大丈夫。【言語理解】は魂に入っているから、今のまま異世界に行っても通じる。ただ、モンスターには通じないから気をつけて。」
「…やっぱりいるんですね。」
真っ白い空間の中に現れたちゃぶ台を挟むように俺と女神様は向き合っていた。
女神様の服は目のやり場に困るけど…
それよりも集中しないといけない事がある。
手元に置かれているのは、A4サイズの白い紙と鉛筆。
女神様がちゃぶ台と一緒に出した物だ。
「この紙に欲しい【スキル】を書いて。言葉にする事が難しくても、その鉛筆が修正してくれるから。」
そう言いながら、女神様はかれこれ三十分近く俺と話してくれている。
優柔不断で悩む俺の質問にも今みたいに答えてくれるし、世間話のように異世界の事を話してくれる。
本当に感謝しかない。
「戦闘はしたくないけど…そうもいかないか。」
異世界には日本の警察のような大きな組織はない。
領主?その土地を納めている権力者が私兵を使って治安維持をしていたり、民間の自警団がそれぞれで動いているらしい。
だから、治安は場所によって落差は激しく、マフィアみたいなコワイ組織と領主がつながっている事も珍しくないとか。
当然、日本では禁止されていた奴隷も…
「こうやって聞くと、異世界転生物語って参考になるんだなあ。」
特撮番組を主流で見ていて、アニメはめっきり見なくなったけど、マンガやSNSに流れてくる『異世界転生』のジャンルは知っていた。
話によって世界は違うけど、今の状況には参考になる。
「ああ、それね。実は本当の事なの。」
「え?」
女神様はまたどこから出したのか、暖かい緑茶とおまんじゅうを出してくれた。
俺の好きな白いこしあんのおまんじゅうなのだったので、頭を下げて手を伸ばす。
「いただきます。」
甘い餡が口いっぱいに広がる。
それをほんのり暖かい緑茶のほのかな苦みが口の中を潤していく。
「いい顔ね。それでさっきの話だけど、貴方や前の人みたいに結構な周期で死んだ人間や生きている人を異世界には送っていたの。ただ、いきなり異世界なんて言われても分からないでしょ?だから、異世界の事情を書いた『異世界転生』シリーズを流行らせたの。少しは事情が通じればいいぐらいにね。」
確かに。
ファンタジーを読まない人からすれば、いきなり異世界に行ってくださいなんて言えば混乱する。
それに今でこそ、スマートフォンで大人も堂々とゲームをしているけど、少し昔は白い目で見られたし。
『ゲームなんてやっているからこんな仕事も出来ないんじゃないか』
未だにクレーマーの言葉は耳に残っている。
あの時、俺は黙ってたけど、ずっと思っていた。
『ゲームをしているから仕事が出来ないんじゃない。仕事が出来ないのは俺の問題でゲームは関係ない』
でも、言い返せなかった。
「……」
「異世界シリーズが流行ったおかげで説明も大分楽になったわ。さっきみたいな問題もあるけど…ただ、ここまで流行ったのは予想外で…みんな異世界に行きたいのかしら?」
「…そうでしょうね。嫌な事から逃げ出したいんでしょうね。」
俺もこんな風に誰かとおしゃべり出来て、おまんじゅうと緑茶が飲めればそれで……
…………?
!?
今更、本当に今更気づいた。
「あ、あの女神様…」
俺は震えながら、そうでならないようにと願いながら、質問をした。
「食文化って…どうなってます?」