第十九話 よくあるテンプレ展開になりました
「殺すから。」
そうナイフを向けられた俺はすぐに周りを見回した。
前にはナイフを持ったスキンヘッド、後ろには武器を持っていないけど二人の男。
大通りへ出る道はスキンヘッドが出てきた曲がり角だけで、横道もない。
ちょうど挟み撃ちにされた状態で、左右にあるのは壁…と言うか、塀?
…逃げ道がない。
「さあ、兄ちゃん有り金もらおうか?」
「ついでに持っている物もな!ギャハハハハ!」
後ろの二人からそんな声が聞こえる。
この二人は多分、そこまで危険じゃない。
【神眼】で見えた悪意がスキンヘッドとは全然違う。
なんか、薄いというか軽い?
マズイと感じたらすぐに逃げるタイプ…だと思う。
と、なると問題は…
この人だよね。
「ふ~…」
一度、深呼吸をして眼を閉じる。
今まで【神眼】で、本気で『人』を視た事はなかった。
さっきの帽子のお兄さんを探す時にも【神眼】は使っていたけど、名前や細かい情報なんかは視えないようにしていた。
【神眼】って言うぐらいだから、プライバシーとか知っちゃいけない情報まで視えるんじゃないかと思って…
「お、どうしたどうした?」
「何するの何するの?」
…後ろの二人組も同じだ。
本当に必要だと思った時だけ、俺は【神眼】を全力で使う。
そう最初に決めた。
…使うなら、今。
目の前の男にだ!
「!」
俺は眼を開け、【神眼】でスキンヘッドの男を視た。
名前…モルス・シュミラ
年齢…三十歳
職業…用心棒(金次第では殺人も受ける)
戦闘…ナイフ格闘術・拳闘術
補足…ナイフ格闘術を主体に見せかけているが、拳闘術を最も得意としている。ナイフを囮にし、懐に隠しているメリケンサックで多くの相手を叩きのめしている。
【※これ以上の情報は負荷がかかる為、閲覧出来ません】
「っ…」
一気に流れ込んできた情報にふらつくけど、すぐに息を整える。
異世界物語でよく視る場面だけど、実際はこんな感じなのか。
それにしても…拳闘術?
素手のケンカが得意って事か。
一か八かで突っ込んだら本当に危なかった…
あと、隠している奥の手が拳闘術で良かった。
これならいける。
「…あの~、見逃してもらえないですかね?」
俺はそう言いながら、壁を背に両手を前に出した。
「あ?」
「なにふざけた事言いやがる!?」
二人組が息巻いて迫ってくるけど、俺は壁にぴったり背中を着けながら、しゃべる事を止めなかった。
「いや、本当に!ほら!俺、何も持ってないですから!」
必死で両手を振って、拒絶の意志に見えるようにしながら、俺は言葉を続けるけど、
「…うぜえな。もういい、殺すぞ」
今まで黙っていたモルスから苛つきの言葉が聞こえた。
「え?」
つい、そんな声が出たけど、モルスはナイフを俺に向けたままゆっくり近づいてきた。
代わりに二人組は慌てて、俺から離れていく。
「あ、ああ…」
【危険察知】がなくても分かる。
過去最大の悪寒に気分が悪くなる。
『【治安情報】アプリより緊急連絡。脅威レベル5を確認。速やかに逃走、または撃退してください。』
スマートフォンからは最悪の報せが聞こえる。
「ま、待ってください!」
俺はとにかく両手を動かす。
声はうわずるし、緊張で喉が渇く。
だけどモルスの足はもう止まらなかった。
「死ねえ!」
そう叫んでナイフを俺の顔目掛けて突き刺そうとしたので、
「……!」
俺は目の前にずっと表れていた『液晶画面』から、それを選択した。
ガシャシャ!!
ナイフが刺さる直前、モルスと二人組の背後に大量の何かが高い所から落ちる音が聞こえた。
「!?」
思わず振り返るモルス達だが、それで終わりじゃない。
ヂーヂーヂー!
ヂーヂーヂー!
ヂーヂーヂー!
ヂーヂーヂーヂーヂーヂーヂーヂーヂーヂーヂーヂーヂーヂーヂーヂーヂーヂーヂーヂーヂーヂーヂーヂーヂーヂーヂーヂーヂーヂーヂーヂーヂーヂーヂーヂーヂーヂーヂーヂーヂーヂー!
暗闇でろくに足下も見えない中、高い不気味な音と何かが大量に地面を這いずり回る音が路地裏中に響きだした。
「うわああああああ!」
「ひええええええ!」
二人組の男達が叫び声を上げ、モルスも思わぬ事態に面食らっている。
今だ…!
俺はその一瞬を逃さなかった。
モルスと二人組…両方の顔へ狙いを着けて、その一言をつぶやく。
「射出!」
ヒュッヒュッヒュッ!
風を切るように飛んできたそれは三人に向かい、
ベチャベチャベチャ!
高速で飛んできたそれらは三人の顔面にぶつかった。
「なっ!?」
「え!?」
「くっ!?」
そして、
「うげえええええ!」
「うえええええ!」
「うっ!なんだ、これ!?」
男達は苦しみ出し、地面に膝をついた。
三人の顔面からはかなりの悪臭が漂っている。
「な、何がーーー!」
ヒュッ!
ベチャ!
なんとかこらえていたモルスに俺はもう一発、それ…あんパン(危険)を撃っていた。
「おえええええええええええええ!」
ついにモルスも陥落し、三人は嗚咽が止まらなくなっていた。
息をする度に悪臭による吐き気で苦しみ、口に入ったあんパン(危険)の味に悶え、必死に顔に着いた異物を取ろうともがいていた。
「!」
俺はそのままモルス達を置き去りにし、大通りへとつながる角へもう一度走った。
「ま、待てーーおええええええ!」
俺はその惨状を背にそのまま足を止めず、誰もいなくなった道を進む。
モルスが隠れていた、今は遮る者が何もない角を曲がって、ついに裏路地を抜ける!
「……」
日が沈んだのに、街灯で明るい街並み、種族を問わず、人で溢れている大通りに安心しつつも、すぐに小鳥の宿へ向かう。
本当に危なかった…!
昨日やった【廃棄工場】の設定、今日の実験、それがあったから対抗手段も作れた。
ぶっつけ本番だったけど、助かった。
俺はどうにか小鳥の宿に辿り着き、扉を開けた。
「あ、ハイキさん、お帰りなーーーどうしたの!?」
宿に着くなり、倒れ込んだ俺を見て、フーさんが心配そうに来てくれたけど、俺は荒い息で一言だけつぶやいた。
「も、もうこんなテンプレ展開は嫌だ…」
静かに暮らしたいです。