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第十七話 裏路地はピリピリでゾワッとしました




 日が沈み、街には灯りが点いている。


 店や家だけじゃなくて、現代日本と同じ背の高い街灯も並んでいた。


 でも、裏路地には灯りはない。


 大通りからの光が建物の合間に少しだけ漏れてるけど、それだけだ。


 誰も灯りを持たず、必要としていない。


 大通りの賑わいがすぐ近くのはずなのに、この薄暗い場所ではその騒がしさも遠い物に感じる。


 一歩踏み込んだら別世界ってわけじゃないけど、どこかひんやりとした空気を感じながら俺は道を進んだ。


 裏路地は暗く、静かだったけど、無人じゃなかった。


 地面に座り込んでいる人や静かに俺を観察する人、何の興味も示さず誰かと話している人…


 人はそれなりにいるけど、大通りにいる人との一番の違いは、人からあまり活気を感じられない事だった。


「………」


 裏路地の人間達からすれば、見慣れない顔の俺はやはり目立っている。


 時折、視線を感じるけど、俺はその中を堂々とした態度で歩く。


 急ぎ足ではないけど、歩幅には迷いがない。


 視線は前を視つつも、周囲も警戒する。


 端から見れば、油断のない男に見えるだろう。


 …見えますよね?


 ……そう思ってもらわないとマズイんですけど!?


 内心はびびりながら、俺はひたすらポーカーフェイスを貫いていた。


 こういう場所では不安や怯えなんかを表情や態度に出してはいけない。


 下手にビクビクしていると、普段は関わろうとしない人間達が絡んでくる事もある。


 だから、いかにもな態度を見せつける。


 …これ、経験談だけど。


 場所によっては逆に絡まれやすくもなるから…



 万が一絡まれた場合は…一応、対抗手段(・・・・)はあるけど、無駄な争いは避けるにこした事はない。



 …それにしても、本当に暗いな。


 【神眼】のおかげではっきりと見えるからいいけど、【神眼】がなかったら直した懐中電灯を使わないといけなかった。


 …そういえば、森で色々直した中に落とした衝撃で動くネズミのおもちゃなんてあったな。


 帰ったらフーさんに見せてみるか?


 …下手したら、叫ばれるだろうし、宿にネズミは営業に関わるか。


 止めておこう。


 無表情の顔をしながらそんな事を考えていたけど、


「……」


 俺は歩く速度を落とし、一度目を閉じた。


 …………やっぱりか。


 肌がひりつくような、このピリピリとして、ゾワッとする感覚…裏路地に入ってすぐは感じなかったそれ(・・)が少し前から止まらない。


 そして、この感覚には覚えがある。


 【危険察知(アラート)】だ。


 コミュ障だった俺が現代日本で身につけた…女神様のくれた【スキル】とは違う、ただの勘(・・・・)


 自分に危険が迫っていたり、面倒な状況に巻き込まれそうになると、感じるこの感覚を俺は【危険察知(アラート)】と呼んでいる。



 いわゆる第六感ってやつかな。


 

 実際のところ、それなりに信頼がある。


 接客業のバイトやっていた時、いきなり上司から接客を代われと言われて、礼儀正しいスーツを着たおじさんの相手をしたら、接客中にずっとゾワッとした感覚が続いていた。


 気のせいかと思ったけど、接客終了後、帰ろうとしたおじさんが靴紐を結ぶ為にしゃがんだ瞬間…うん、見えた。背中から怖いアレが…鬼がこっち視てた。


 …上司はそれに気づいて、俺を身代わりにしていたようだった。


 あの上司、毎回俺に変な客や怖い人を押しつけて…


 …いや、この話は止めよう。


 …とにかくそのせいか、【危険察知(アラート)】だけは無駄に鍛えられた。


 …何度も言うけど、【危険察知(アラート)】は本当にただの勘で、【スキル】じゃない。外れもするし、当たる事のほうが少ないと思っている。


 でも、この異世界だからこそ、俺のこの【危険察知(アラート)】はもっと信用するべきだと思っている。


 ここはゲームじゃない。


 死んだらそれで終わりだし、取り返しのつかない怪我をすれば生きづらくなる。


 元々、俺は臆病なんだ。


 静かで平穏な生活の為にも、俺は臆病であり続けなければならないんだ。



 …ピリピリも、ゾワッとした感覚もどれだけ歩いても消えない。


 むしろ歩いて行くほど、強くなっている気もする。


 今更道を引き返す訳にはいかないし、大通りへつながる道も荷物があちこちに置かれているせいでふさがれている。


 頭の中で地図を浮かべながら、足を動かしていくと、今までよりも一際暗い通りに出た。


 道は狭いわけではないが、これまでと違って人の気配がまるでない…


 その時だった。


 ピー!ピー!ピー!ピー!


「うおおおおおお!?」


 つい大声を出してしまったが、それよりもポケットに入れていたスマートフォンから聞いた事のない音が出ている。


 なんだ警報!?


 すぐにポケットから取り出そうとすると


『【治安情報】アプリより緊急連絡。繰り返します、【治安情報】アプリより緊急連絡。』


 無機質な電子音声が聞こえ、俺の手は止まった。


『現在、端末所持者…ハイキ様に向けて敵意を持った人間が接近中。人数は三人、脅威レベル3。注意してください。』


 …脅威レベル?


 いや、その前に…


 緊急連絡っていったいなんですか!?



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