第十四話 怖すぎる【スキル】を試してみました
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「ここか。」
昼過ぎ、どうにか小鳥の宿から脱出…いや、出発した俺はフーさんの教えてくれた農業地に来ていた。
見渡す限りの畑が広がり、さらにその奥には森があった。
フーさんの言っていた通り、人はほとんどいない。
いるのは畑で作業している人達…それもこの広さで五、六人くらいだ。
作業もゆったりとしていて、談笑しながら地面の様子を見ている。
「次の種まきの準備なのかな。」
異世界と言っても、農業は変わらないようだ。
…あんまり農業も分からないけど。
それにしても昼か…
三十分で着くと言われたけど、小鳥の宿を出るのにも時間がかかって、出発した後も俺があちこちで色々な物を見ていた事もあって、こんな時間までかかっていた。
そのおかげで街の事も少しは分かったから、仕方ないか。
「でも、まさか…ボールペン一本であんな騒ぎになるとは。」
あの後、俺はあまりにも熱心なフーさんに根負けし、ボールペン(壊れ)を売る事にした。
ただし、代金の銀貨五枚は受け取らなかった。
代わりに『滞在中、街のルールや分からない事を教えてもらう』事を条件にした。
「それじゃ、こっちが得しただけだよ!」
とフーさんが怒ってきたけど、それ以外なら売らないと俺が言い切り、そこそこ時間をかけて、どうにか納得してもらった。
そのまま何か言われる前に逃げだし…外出した。
それが朝の出来事だ。
「…じゃあ、まずは。」
帰った時の事を考える事を止めて、俺は畑で作業している人達に向かって歩き出した。
落ち着け、大丈夫だ。
一言、いや二言で終わりだ。
時間にして一分、長くて三分…
『すみません、森に入って作業したいんですがよろしいですか?』
うまくいけばこの一言で終わる!
何も言わないで入ったら私有地で『盗人め!』と捕まるのだけはご免だしな。
あの森なら人も入らなそうだし…
…ああ、本当に嫌だ。
初対面の人と話すのって本当に疲れるんだよ。
昨日は異世界転移のテンションで乗り切れたけど、今日は落ち着いてるから…
うう…
俺は緊張しながら、ちょうど顔を上げた日焼けで真っ黒なおじさんに声をかけた。
「す、すみません、あちらの森って…入っても大丈夫ですか?」
…危なかった!
作業って言おうとしたけど、俺道具持ってないし、【収納】も話すと面倒だから、ギリギリで変更したけど…どうだ!?
「ああ、兄ちゃん森に入りたいのかい?いいよいいよ。気をつけてな。」
おじさんは嫌な顔一つしないでそう言ってくれた。
「あ、ありがとうございます!」
俺が頭を下げると、おじさんは手を挙げてまた作業に戻っていった。
…よかった。
これで堂々と森に入れる。
俺はそのまま歩き続け、十分もしないうちに森の入り口に着いていた。
「…行くか。」
一歩足を踏み入れた途端、空気が変わった。
森の独特な匂い、それに鳥や小動物の声や動く音、それらが感覚を刺激する。
大きな木が太陽の光を遮り、薄暗い森の中で深呼吸して足を進める。
迷わないように後ろをこまめに振り返りながら進んでいくと、五分もしない内に拓けた場所に出た。
伐採作業の跡のようで、少し拓けた場所には切り株がいくつも残っていて、木がなくなっている為、太陽の光が降り注いでいた。
入り口からはそれなりに距離があるから、誰かが入ってもすぐには来られないはず。
…ここなら問題ないだろう。
俺は【廃棄工場】を使い、目を付けていたTシャツを取り出した。
一見、ただの黒い長袖Tシャツだけど、【神眼】で視るとこう表示されている。
絹糸長袖Tシャツ黒(穴)…絹糸だけで作られた長袖Tシャツ。製造中の機械トラブルにより、首回りに穴が空いた為、廃棄予定となった。
【神眼】で見た通り、首回りには指が一本入るくらいの大きさの穴がいくつも空いていた。これは確かに売り物にはならない。
ここに来るまでに聞いた話では、絹糸はこちらの世界でも高級品らしく、主に貴族やお金持ちの服に使われるそうだ。
多少、痛んでいても絹糸と言うだけで価値があるとか。
その絹糸Tシャツを近くの切り株に置き、俺は少し離れた。
これで準備は終わった。
「ふう…」
緊張で喉が渇くが、もう一度深呼吸をして落ち着かせる。
狙いは切り株の上にあるTシャツ。
右手の平をTシャツに向けて、俺はあの【スキル】を使う。
「【破壊と再生】!」
ガシャンガシャン!
一瞬、本当に一瞬だけど、プレス機のような何かがTシャツの両側、そして真上から現れ、Tシャツを轟音と共にプレスした。
瞬きもしない内にプレスは終了し、切り株の上に残っていたのは…
「…出来た。」
黒い糸の束だった。
すぐにこちらも【神眼】で見る。
絹糸(黒)…質感、肌触り全てが一級品の黒い絹糸。非常に価値が高い。
「出来た、出来た!」
俺は思わずガッツポーズをした。
【破壊と再生】の説明を見た時、ある可能性を考えた。
女神様は俺の【スキル】を魔改造したけど、元々欲しかった機能はなくなってない。格段にグレードアップしてはいるけど。
【鑑定】を【神眼】にしたように【スキル】の根本は変えていなかった。
【リサイクル】も【破壊と再生】なんて物騒な名前になっているけど、基本は変わっていない。
だから、試しにTシャツを破壊し、元になった糸に再生出来ないか試してみた。
わざわざこんな人気のない場所を選んだのは、万が一を考えての事だった。
【スキル一覧】に書かれていた『指定した範囲の物を問答無用で破壊する』の一文。
もし【スキル】の範囲調整が失敗すれば、部屋を壊してしまうし、勘だったけど、音が大きかったら、フーさん達にごまかしが効かないと思った。
…まだ俺の【スキル】は誰にも知られたくない。
この二つが原因で、俺は朝からフーさんに『広くて人気のない場所』を教えてもらっていた。
結果として、実験は見事成功。
Tシャツを置いていた切り株も無事だ。
あとは音にさえ、気をつければ宿でも【破壊と再生】は使用出来る…けど。
「…まあまあ音大きいな。」
【破壊と再生】発動直後、一斉に飛び立った鳥たちの姿を追いかけながら、そうつぶやいた。
でも、しょうがない。
せっかくこんな所まで来たんだし、色々と試してみよう。
俺は【廃棄工場】から適当に眼に着いた雑貨を取り出していった。
元々凝り性な事もあって、試したい事は山ほどあったし。
さあ、やるぞ!