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第百十一話 打ち合わせをしました


「それでは気を取り直して始めるとしようか!」


 後味の悪さの残る空気を変えるようにギルガスさんは大きな声で部屋の外に呼びかける。


「ケミア、入ってこい!」


 コン、コン、とかなり控えめにドアがノックされ、冒険者ギルドの制服を着た女性が入ってきた。


「し、失礼します…!」


 分厚い眼鏡に猫背、それにオドオドしたその姿は冒険者ギルドでは視たことのないタイプだった。


「こ、今回ご担当させていただく、け、ケミアと申します、よよろしくお願いします!」


 緊張からか呂律が回っていないようだけど、気にしないようにしよう。


「ハイキです。こちらこそよろしくお願いします。」


 簡単な自己紹介を終えてそのままオレ達は出張店舗の打ち合わせを行った。


「こちらが出品する一覧表です。」


 まずは今回ハイキ商店が販売する商品のリストを二人に見せる。


 リストに書かれている商品の一部はこんな感じだ。


・窓盾(本来の用途とは違う為、自己責任の使用許可を得た場合のみ販売)

・ボールペン

・メモ帳

・紙一束(十枚)

・マッチ

・紙皿

・タッパー

 

 などなど…


 今回は発端となった【窓盾】だけじゃなくて、ボールペンやメモ帳など、ハイキ商店で取り扱っている日用品も販売する。


 冒険者以外にも興味を持ってもらえれば新しい顧客になる可能性もあるし、窓盾目当て以外の客層も増やしたい。


 販売する物の使い方は、販売リストを送る時に説明分とヤルシに書いてもらった絵も送っているから問題はないはずだ。


「あれ?」


 ケミアさんが首を傾げると、リストの下の部分を指さした。


「あ、あのハイキ様?こちらのリスト、前もっていただいていたものに、その…載っていない商品があるんですが…」


 ケミアさんの言った通り、リストの最後には後から付け足した一品があった。


「はい、こちらはリストに書き忘れていた商品でして現物をお持ちしています。」


 実際は違う。


 「書き忘れていた」のではなく「急遽用意した」から書いていなかっただけだ。


 元々は今回の移動中にオレが必要になったから【廃棄工場】で探し出した物だった。


 ただ、これは売れるかも知れないと思って、宿で一人になった時にこそこそ準備していた、


 それが…

 

「これがその最後の品、【消臭剤】です。」


 オレがテーブルに置いたのは、ビー玉サイズの透明な玉がぎっしり入ったプラスチックの容器。


 「気になる臭いを強力吸収!」ってキャッチコピーで売られていた消臭ビーズは現代日本では見慣れた商品だ。


 ビーズだと伝わりにくいと思って「消臭剤」と紹介した。


「消臭剤?匂い消しってやつか?」


 ギルガスさんは怪訝そうな顔で容器を視ている。


「そうです。この玉、一つ一つが臭いを吸収していき、無香料タイプなので余計な臭いはつきません。屋内用なので範囲もこの部屋ぐらいが限界です。即効性はありませんが、効果は一ヶ月ぐらいと思ってください。」


「…まあ、物好きは買うかもな。」


 ギルガスさんは売れないと判断したようだ。


 匂い消しはこの世界にもあるし、冒険者ギルドでも販売しているくらいだ。


 でも、オレの出した消臭剤とは決定的な違いがある。


「ハイキ様、いいくつかご質問をよろしいですか?」


 興味を無くしたギルガスさんと違ってケミアさんは真剣な目つきで消臭剤を手に取った。

 

「あ、あの…ここちらの消臭剤は設置後に注意することはありますか?」


 食いついた!


 オレは思惑通りに行っている事を悟られないように説明を始める。


「設置後はそのままで大丈夫ですが、この玉は水分を吸収する材質で出来ているので湿気がある場所ではその分効果も短くなります。それに強すぎる臭いでは効果も弱くなります。」


 ギルガスさんは気づいていないようだけど、この商品は間違いなく需要がある。


「じ、人体への影響やふ副作用はありますか?」


「直接口に含んだり、摂取しなければ問題はありません。一部の人や獣人など、種族によって無香料とは言え不快に思われる可能性はありますが。」


 ケミアさんはオレの説明を聞いてから、消臭剤をテーブルに戻した。


「さ差し支えなければこちらの消臭剤…冒険者ギルドで使用してもよろしいでしょうか?当然代金はすぐにお支払いします。」


「おいおいケミア。消臭剤…臭い消しなんてうちにもいくらでもあるだろ?」


 ギルガスさんは呆れた顔をしているけど、ケミアさんは譲らない。


「お言葉ですが支部長。冒険者ギルドで使用している臭い消しは強い香りで誤魔化しているだけです。鼻の良い方々からもどうにかならないかと意見が出ています。」


 そう。


 この世界での臭い消しは強い香りで他の臭いを上書きしているだけだ。


 人によってはその臭いがダメだろうし、複数の臭いが混ざり合うと場合によってはとんでもない悪臭が出来てしまう。


 …オレが止まった宿もそういうのがいくつかあった。


 だから、部屋に着くと消臭剤を置くようになったし、どうしてもダメな時はもう一つのとっておき(・・・・・)を使っていた。


「その点こちらの消臭剤は臭いがほとんどしません。効果範囲が狭いのなら複数設置すれば問題ありませんし、一ヶ月は効果が持続するならこれまでの臭い消しより交換の手間も省けます。」


「な、なるほど…」


 どうやらギルガスさんも言われて思い当たる節があるそうだ。


 ケミアさんに押されている。


「それなら十個ほどお渡ししますので臭いの気になる場所に置いてみてください。こちらとしても効果があれば宣伝になります。」


 ストックも充分にあるし。


 ちなみに【廃棄工場】から出した時はこんな感じだった。


 消臭ビーズ(変色)…製造時に不純物が入った為、基準より濁りが多く、容器に詰め終わった後に廃棄処分が決定した。消臭効果、持続時間に影響はない。


 そこで試しに【破壊と再生(スクラップ&ビルド)】で不純物だけを取り除いてみた結果、消臭ビーズ(変色)は消臭ビーズ(変色なし)になった。


 …改めて反則な組み合わせだな。 


 そんなこんなで打ち合わせは順調に進んでいった。


 販売する物の価格、一日の販売個数、一人当たりの購入制限数なども決めていく。



 そして事前に話のあった事の確認だ。



・出張店舗は十日間のみ

・今回の報酬大金貨三枚とは別に売り上げは全てハイキ商店のものになる

・出張店舗予定地は街の一等地、場所代や仮店舗設営などにかかる費用も全て冒険者ギルドが負担する


 この三つはオレがオルゼさんから話を聞いていた時に決まっていた事で、オレはその後に追加で条件を加えていた。


・店舗の開店、閉店時間はこちらで調整可能とする

・悪質な嫌がらせ、こちらの注意を無視し、営業妨害と判断した場合の反撃の許可

・その反撃で相手がケガ、今後の生活や命に関わる重傷になったとしても一切の責任は問われない事

・時間外の強制労働の禁止


 『責任は問われない』はさすがに無茶かと思ったけど、特に問題なく通った。


「とは言え、正当防衛が絶対条件だ。そうでないならこちらもしかるべき対応をとらせてもらう。」


 最後に厳しい目で言われたけど。



 冒険者ギルド内で出来る打ち合わせは終わった。


 次は現場だ。



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