第百九話 冒険者の街に着きました
時刻は昼頃。
そろそろお腹の減りを感じた時だった。
「皆さん『壁』が視えました。もうすぐですよ。」
ゴンダリウスさんの声が聞こえ、俺はすぐに荷台から顔を出した。
「っ!でっっか!?」
ついそんな声が出た。
【ユーラン】の街にも街を囲む大きな壁があった。
襲撃や侵略への防衛の為の壁は空を飛ばない限り、入り込む事が出来ないくらい高く、見るからに頑丈な造りだった。
でも、今視える『壁』は比べものにならない。
高さこそ、ユーランより少し高いぐらいだけど、横がとにかく長い。
と言うか、先が見えない…
何キロ、何十キロはあるんだ?
それにこんな大きな壁で囲まれているって事は街の規模もとんでもない大きさって事だ。
「【ガルソフィア】の名物です。規模の大きなダンジョンが東西南北にあるから、その対策として防壁を広く作っているんです。」
キュラさんが説明してくれるけど、聞き捨て出来ない単語があった。
「…ダンジョン?」
それって、モンスターやお宝が出てくるあの?
「はい。【ガルソフィア】は元々一つのダンジョンの攻略用に作られた拠点の名前です。ですが、ダンジョンの発生が起き続け、拠点はその度に発展し、今ではこんなに大きな街になったそうです。」
「すみません、その…ダンジョンに疎くて…あの発生ってどういう事ですか?」
今のキュラさんの言い方はその…地震や台風みたいな…自然現象が発生するような言い方だった。
「ダンジョンは一定の魔力が溜まるとどこにでも発生するんですよ。ただ、環境によっては何百年経っても発生しないし、朝起きたら出来ていたってものもある。『魔力が溜まる場所ほど、厄介なダンジョンが出来やすい』とも言われている。」
ジキルさんの話を聞いたキュラさんがうなずく。
「ダンジョンは発生時に周囲の魔力を根こそぎ使うので、数年は同じ地域で発生しないのですが…この近辺の土地の性質は特殊らしくて…」
キュラさんは苦虫を噛んだような顔で口を開いた。
「早ければ一週間に一回はダンジョンが発生します。」
なにそれ、こわ…
「…婆さんが言うには百年前に拠点が出来た時はこんな状況じゃなかったらしい。ただ、そのおかげで【ガルソフィア】は異常なまでに発展した。モンスターの研究、ダンジョンで採れる素材を活かした武器と防具の開発、希少素材を使った魔道具の製造…あの街が『冒険者の街』と呼ばれる由縁だ。」
「『冒険者の街』か…」
うっすらとした不安を感じながら、そびえる壁の圧を受けながら、俺は馬車の中に顔を戻した。
*******
【ガルソフィア】の門を通るのは思った以上に早く済んだ。
【ユーラン】では門を通る時に審査を受ける為に列に並んで、身分証がなかったら入場料を別途払わないといけなかったんだけど。
俺達が門まであと百メートルぐらいの距離まで近づいたら門番の一人が走ってきてこう言った。
「ハイキ商店様ですね。領主様、それに【ガルソフィア】冒険者ギルドから連絡を受けております。どうぞ私の後に。」
門番の人に連れられた俺達の馬車は長蛇の列を素通りし、案内してくれた門番の人が全員のギルドカードを確認して街に入る事が出来た。
「【ガルソフィア】みたいに特に大きな街は来賓する貴族も多いから、待ち時間がないようにこのような対策をとっているのです。列に並んでいる人もそれは分かっています。」
俺の顔を視て何か察したのかキュラさんがフォローしてくれた。
「そうそう。それに店長さん、窓から外見てみなよ。」
ジキルさんに促され、俺は馬車の窓から外に目を向けた。
「……」
窓越しでも伝わる活気と熱気。
窓から視えるのは整備された街並みと大勢の人々。
誰もが目を輝かせて、堂々と道を進んでいく。
【ユーラン】とは違う世界がそこにあった。
「ここが【ガルソフィア】…冒険者の街。」
ようやく自分が【ガルソフィア】に着いた実感が出た。
「ハイキ様。」
そんな俺に御者台からゴンダリウスさんが呼びかけた。
「冒険者ギルドの方が迎えに来られました。このまま冒険者ギルドに来て欲しいとの事です。」
いよいよか。
もうここまで来たら行くしかないのは分かっているけど。
「はい、では向かいましょうか。」
「了解しました。」
動き出す馬車は軽快に、活気溢れる街の音と対照的に、俺は緊張と不安でいっぱいだった。
向かう先は権力争いの中心。
中立の立場を表しても何かしらのアクションが起きるのは間違いないと思っている。
「でもまあ…やるしかないか。」
言葉で自分を奮い立たせ、覚悟を決め直す。
そして…
いつでも逃げられる準備だけはしておこう、と道順をしっかり覚えておく。
四ヶ月音沙汰無しですみません!
近日更新と言いつつ、全くしてませんでした。
病気などではありませんのでご安心ください。
ざっくり言うと他の事ばかりやってました。
ゲーム、マンガ、遊び…です。
次回更新ですが…
そこそこ早く更新します。
それでは。