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第百八話  快適な旅になりました



 【サマイ】を出た後の道のりは順調だった。


 今日も大きなトラブルもなく、日が沈む前に宿場町にも辿り着けた。


 明日には【ガルソフィア】に着くだろうとの事だった。


 道中も最初より楽に過ごせた。


 その大きな理由は、宿場街の外れにあった。


「石に魔力を無理矢理込めるって…そんな危ない事―――。」


「『有り得ない』は通じない。追い込まれた奴は何をするか分からない。石に魔力を無理矢理込めて爆弾にするぐらいやるだろう。死ねば終わりだが、死ななければ終わらない。」


「…『相手が魔法を使えなくても油断してはいけない』って事ですか。」


「違う。『考える事を止めない』だ。上位ランクになればそれまでの経験から『あの時こうだったからこうなるだろう』と考える事を止めてしまう奴らが多い。一分、一秒、一瞬でも戦闘中は考える事を止めるな。」


「はい!」


 キュラさんが元気に返事をして、再びジキルさんとの訓練が始まる。


「いや、まさかこうなるとは思いませんでしたね。」


 ゴンダリウスさんが俺の横に立って、そうつぶやく。


「あのキュラさんがあそこまで変わるとは。」



 *****



 きっかけは【サマイ】を出た後だ。


 決闘でキュラさんが自分の心にかけた【封印魔法】は壊れ、これまで抑え込んでいた感情のほとんどはジキルさんの手で【怒り】として放出された。


 考えられる限り、最良の結果でキュラさんを助ける事は出来た。


 でも、器にあった感情がゼロになったわけじゃない。


【怒り】として出しきれなかった純粋な感情はそのままキュラさんに残っている。


 長い間忘れていたその感情に呑み込まれたキュラさんは決闘直後、まともに話す事もできない状態になっていた。


 ゴンダリウスさんの見立てではキュラさんはどれだけ楽観的に捉えても、「ガルソフィアに着くまではまともに剣を振れない」との事だった。


 だけど、キュラさんは【サマイ】を出た次の日には朝から剣を振って一人で鍛錬をしていた。


「皆様にはご迷惑をおかけしました。」


 朝食の場でキュラさんは深々と頭を下げた。


「どんな処分でも受け入れるつもりです。ですが…【ガルソフィア】までの護衛依頼だけは最後までやり通させてください…」


 謝罪の言葉をハキハキと話すキュラさんだが、大きく違う事があった。


 初めて会った時は冷たく人を寄せ付けない感じの声だったのに、今は不安と後悔、心からの申し訳なさが感じられた。


 キュラさんの決定権を持つゴンダリウスさんは驚いていたが、何を口にするべきか迷っているようだ。


 そこに思わぬ声があがった。


「なら、俺が処分を決めよう。」


 ジキルさんの言葉にキュラさんの身体がビクッと震える。


「この女に散々迷惑かけられたのは俺だ。【封印】を勝手に壊したのもな。」


 ジキルさんは一度俺を見て、フッと笑った。


「雇い主の婆さんから薬草採ってこいって言われてるんだ。Bランクの冒険者にはつまんないEランクの仕事だろうが、それを無償で手伝ってもらおう。」


「え?」


 キュラさんが顔を上げると、ジキルさんはゴンダリウスさんにも目を向けた。


「ところでだ。護衛が使い物にならないお荷物になるなら、使い物になるくらいにはしてもいいだろう?」



****


 と言う訳で、ジキルさんのおかげで全部丸く収まった。



 キュラさんの処分はジキルさんの薬草採集の手伝い。

 Eランクの新人がやるような仕事をBランクの上位冒険者にさせるのは馬鹿にしているのと変わらないらしいけど、キュラさんは受け入れた。


 むしろ、そんな程度で済んで良いのかと思ったらしい。


 あと、ジキルさんが暇な時にキュラさんに稽古をつけるようになった。


 稽古と言っても心構えや組織的な集団戦への対策、それと戦い方だ。


「少しでも評価を上げとけば難癖で処刑される事はないと思うんで。」


 ジキルさんは俺にそう言ったけど、それだけじゃない事はさすがに俺にも分かった。


 そして、今に至る。


「ジキルさんはうまい落としどころを作ってくれました。私ではあのようには出来なかった。」


 ゴンダリウスさんは稽古をしている二人を眺めながらため息をついた。


「【獣爪団】のリーダーだったのも納得できます。戦闘の強さ、鋭い知略、人を惹きつけるカリスマ…何より自分にそれだけの才覚がある事を自覚している。ジキルさんが本気で【獣爪団】を大きくするつもりだったら、【旧市街】の勢力図は全然違ったでしょうね。」


「…でも、ジキルさんは【獣爪団】を解散した。」


 自分の部下を守る為に。


「…ナンバー2の暴走の影響は、蜥蜴の尻尾切りで収まるレベルを超えていました。全てを手打ちにするには、【獣爪団】の解散とその資産ビジネスを明け渡す道しかなかったのでしょう。数秒でも迷えばそれも出来なかったでしょうが。」


 まんざらでもない顔で稽古をつけるジキルさんと真面目にそれを聞き入れるキュラさん。


 傍目からは師弟関係に視えるだろうけど、実際は命を奪う側と奪われる側だ。


 そんな奇妙な関係の二人を俺とゴンダリウスさんは日が沈むまで見守っていた。


お久しぶりです!


色々やる事が重なって放置してました。


あと、地味にキーボードのHキーの反応がおかしくなって、支障が…


また近日中に更新します!

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