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第百七話  盤外問答


 



「ふげっ!」


 最後に残った男の顔面に重い拳が入った。


「つよす、ぎ…」


 遅すぎる後悔と痛みから出たその言葉と共に男は地面に倒れ、そのまま気を失った。


「…ったく。」


 ジキルは周囲で伸びている男達にうんざりしながら、ため息をついた。


 決闘が終わり、人通りのない道を一人歩いていたジキルは突如として襲撃されていた。


 理由はなんて事はない。


 彼らは決闘の勝敗をキュラの勝利で賭けていたのだが、ジキルの勝利で大損をした者達だった。


 腹の虫が治まらない男達は決闘直後で一人歩いていたジキルを狙ったのだが…


 結果はこの有様である。


 多少は腕に覚えがあったのだろうが、ジキルは素手で一分も掛からずに全員を無力化した。


「…まあ、このくらいで許してやるよ。」


 ジキルはそう言い捨てて、来た道を戻ろうとすると、


「!」


 ジキルから一メートルも離れていない距離に一人の男が立っていた。


「馬鹿はどこにでもいるものだ。」


 男は二メートル近い背丈で眉間に皺を寄せている。


 一見苛ついているように視えるが、纏う雰囲気は落ち着いて、声からも怒りはまるで感じられない。


「決闘直後の人間なら油断していると思ったのだろうが…むしろ通常時よりも五感が冴えている事もある。狙うならそれなりに時間を空けてからのほうがいい。お前以外ならな。」


「…どうかな。」


 ジキルははぐらかしたが男の言った事に間違いはなかった。


 【旧市街】と言う街の裏側で生きていたジキルは決闘を目にする事も挑まれる事も多々あった。


 それらを身を持って知っていたジキルは決闘を終え、一人になった後も感覚を研ぎ澄ましていた。


 自分を追っている気配も分かっていたから、この人気のない道まで誘導したのだが…


(緩めたつもりはないのに、この距離まで俺が気づかなかった…)

 

 その事実がジキルの警戒を最大に引き上げている。


 男に軽い笑みを作ってはいるが、いつ戦闘になってもいいように。


「構えるな、やり合うつもりはない。」


 男はそう言って背を向けた。


「ただ、お前にも一言礼を言うべきと思っただけだ。面白いものを見せてくれたからな。」


「…何の事だ?」


 ジキルの返しに男は軽く手を振った。


「安心しろ、あの【固有魔法】の正体(・・)に気づいたのは俺だけだ。お前の雇い主も分かってない。」


「……」


 男はジキルの反応を気にする事もなく、倒れている男達の間を縫うように歩を進めていく。


「それはそうと、心にかけた【封印魔法】を壊すなんてよくやったもんだ。ほとんど不可能、出来ても壊した後の反動で廃人になるもんだが…あの女は運が良い。いや…」


 男は足を止めて一度だけ振り返った。


運が悪い(・・・・)…と言った方がいいか?」


 男の顔はさっきまでと同じしかめっ面だが、目だけが違った。


 ジキルを見定めるような、見極めるような目をしていた。


「…何が言いたい。」


 ジキルは男の言おうとしている事をあえて聞いた。

 

「【封印魔法】はあの女にとって最後の守りだったはず。理由はどうあれ、お前はその守りを破壊した。本人の許可無くな。」


「…ああ。」


「【封印魔法】という守りがなくなった今、あの女は今まで目を背けていたものと正面から向き合わなければならない。迷い、葛藤、後悔、怒り、恐怖…一度は逃げ出したものと再び対峙する苦しみはかつての比じゃない。冒険者として再起不能になってもおかしくない。お前はそれを知っていて【封印魔法】を破壊したんだろう…何故だ?」


 責めるのでも、蔑むのでもなく、男の言葉には純粋な興味が込められていた。


 その答えがなんであろうと、男は否定も肯定もせず、受け入れるのだろう。


 故に、ジキルの答えは…


ムカついただけだ(・・・・・・・・)。」


 飾ることも隠す事もない、本心だった。


「『助ける』とか『救いたい』とかそんな気持ちはまったくない。」


 どうして【封印魔法】を使ったのかは想像は出来る(・・・・・・)


 しかし、それはあくまで想像だ。


 何を思って、何を考え、何故その手段を執ったのか…


 その事実はキュラ本人にしか分からない。


「嫌がらせだと思ってくれ。詫びに一発ぐらいは殴られてやるつもりだがな。」


「…なるほど。」


 その言葉に納得したのか男は再び歩き出した。


「…面白い答えだった。礼を言おう。そして、訂正しよう。あの女はとても運が良い(・・・・・・・)。」


 男は今度こそ歩き出し、ジキルの視界からやがて完全に消えていった。


「………」


 ジキルがようやく視線を外したのはそれから十分が経過してだった。


「…こんなところで会うとはな。」


 ジキルは冷や汗をぬぐいながら目覚めようとしている男達をわざと踏みつけながら(・・・・・・・・・・)歩を進める。


 ジキルと男に面識はない。


 しかし、ジキルは男に心当たりがあった。


 確信はない。


 人違いの可能性もある。


 ただ、もし、ジキルの思っていた通りの人物だった場合、状況は良くない。


(【固有魔法】の事はほぼバレたと思っていい…まさか、あいつがいるなんて…)


 見立てが甘かったと反省しながら、ジキルは警戒を解かないまま、ハイキ達の待つ宿へ向かっていく。


『襲撃されたから早く街を出た方がいい』と提案するつもりだ。



 その襲撃の後にあった男の事は伝えずに…


 盤外で起きた問答は人知れず消えていく。

お久しぶりです。

龍○如く8をつい先ほど、ストーリークリアしました。

寄り道しまくったとは言え、プレイ時間100時間超えはさすがに驚きました。

…不定期更新ですが、まだまだ続いていきますので改めてよろしくお願いします!!!

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