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第百三話  大騒ぎになりました



【ガルソフィア】に向かって四日目の朝。


 行程は順調、大きな事件もなく平和に進んでいたのだが…


「どうしてこうなった…」


 【サマイ】と言う宿場街でそれは起きてしまった。


 安宿から高級宿まで並ぶこの【サマイ】は宿場街の中でもかなり大きな種類に分けられるらしい。冒険、商業、各ギルドの支店もあるほどだからその規模がうかがえる。


 そして、俺はそんな宿場街の中心にある広場にいた。


 普段は【サマイ】に住む子供達が遊んだり、宿泊客相手の露店が出たり、住民が世間話をする憩いの場所だ。


 だけど、今は違う。


 その広場のど真ん中ではジキルさんとキュラさんが互いに向かい合っていた。


「立場ってものをしっかり教えてあげます。降参しても止めるつもりもありませんが。」


 キュラさんの自信たっぷりな…横柄な態度に対し、ジキルさんはと言うと…


「はいはい、自信満々で何より。泣いても文句言うなよ?」


 面倒くささを隠す気もない、ローテンションだ。


 馬鹿にされていると感じたのか、タダでさえ強かったキュラさんの圧がさらにふくれあがる。


 まあ、その圧を受けて平然としているジキルさんもとんでもないんだけど。


 それよりも…


「やれえ、キュラちゃん!!」


「ジキル様、負けないでー!」


 広場の外側には二人を囲むように観客が群がっているし、歓声もあげている。


 露店も広場の端っこでせっせと商売しているし、どっちが勝つかの賭け事までやっている。


 まるでお祭りだ。


 ちなみに俺は観客の最前列にいる。


「では、二人とも準備はいいですね?」


 審判役は俺達と同行していた御者のゴンダリウスさん…


 うなずく二人を確認し、ゴンダリウスさんが手を挙げる。


「それではただいまより、ジキル・サライアットとキュラの決闘を開始します!」


「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」


 大盛り上がりの観客に対して、俺は冷めていく。


「はあ…」


 ため息をつきながら思い出す。


 なぜこうなったかと言うと…





******


「いい加減にしなさい!!」


 キュラさんの声が朝食のテーブルを震わす。


 【サマイ】でも一、二位を争う高級宿。


 その優雅な食事を一気に台無しにする怒りの原因は…


「ったく、朝からキーキー。少しは落ち着けって。」


 ジキルさんだ。


 旅をしてすぐに分かったけど、この二人相性が悪すぎる。


 ジキルさんの行動、言葉一つ、何もかもキュラさんの勘に障るみたいでとにかくキュラさんは怒りっぱなしだ。


 で、当のジキルさんはキュラさんの言葉を受け流し、怒りが収まるまで静かにしている。


 それが余計に頭にくるのかキュラさんの怒りはさらに増す。


 …正直、毎日修羅場です。


「まあまあ、落ち着いてください」


 仲裁に入ったのは御者のゴンダリウスさんだ。


 一番年長…多分、四十代くらい?だけあって話し方はとても丁寧で物腰柔らかい。


「キュラさんの言い分も分かります。しかし、ジキルさんの言う事に一理あるのも確か。」


 どちらの意見も否定しないで話をうまくまとめようとするゴンダリウスさん。


 この光景をもう何度視ただろう。


 今回のきっかけは、ジキルさんの『敬語を使わなくてもいい許可が欲しい』だ。


「もし、【魔道契約】に『反感的な態度』と書いてしまったとしましょう。それで襲撃に遭った時、店長さんに『逃げてください』じゃなくて『逃げろ』と言ったら…」

 

 『敬語』じゃないだけで、反感的な態度ととられかねない。


 実際、どうなるかは分からないけど、とっさの判断が必要な状況で敬語を使うのは難しいだろうし、その考えがあれば不安で動きも鈍くなってしまう。


 で、俺はそれを良しとしたんだけど…


 キュラさんは違った。


「『敬語を使わない』とかそこまで重要ではないものから譲歩させて徐々に縛りを無くしていく。それがあの男の狙いです。何より、どんな状況でも平時と同じように振る舞えない者に護衛なんてできません!」


 自信満々に言いきるキュラさん。


 だけど、俺は今回ジキルさんの味方だ。


「ジキルさんの言い分は正しいと思います。何が起こるか分からないならせめて不安要素はなくしたいです。」


「…っ、ですが!」


 護衛対象である俺の言葉はさすがに効果があったのか、キュラさんの勢いが落ちる。


 これならなんとか折れてくれそうだ…


 そう思った矢先だった。


「なあ、アンタさ。護衛だとか回りくどい言い方止めたらどうだ?」


 ジキルさんは大きく伸びをすると、心底うんざりした声を出した。


「俺が気にくわないならさっさと特権(・・)でも使えばいいだろ。大人しく殺されるつもりなないけどな。」


「!?」


 キュラさんの顔が引きつるが、俺は頭を抱えた。


 今までジキルさんはキュラさんの言葉をのらりくらりと躱していた。言い合いになる前に先に折れたり、口をつぐんでいた。


 でも、今初めてジキルさんがそれを止めた。


「特権とはなんの事でしょうか?私はただの護衛―――。」


「支部長からもらった『ジキル・サライアット()への殺害許可』だ。しらばっくれるのもいい加減にしろ。」


 …ヤバイ。


 この場の空気に緊張が走る。


 ジキルさんもキュラさんもいつでも戦闘出来る状態になっている。


 周りのお客さんや従業員さん達も何かを察したのか離れているし。


 このままだと…


「なら、お望み通り使ってあげましょうか。」


「出来るもんならやってみろ。」


 ガタッ!


 二人が立ち上がった瞬間、


「では決闘をしましょう。」


 張り詰めた空気とは似合わないのんびりとした声が二人に水を差した。


「やるならしっかりルールを決めて。それがお互いのためです。」


 ゴンダリウスさんはそのまま大きく息を吸い込むと、


「さあ、皆様方!こちらにおられますは、Bランク冒険者キュラ!【ユーラン】が期待する大型新人でございます!そして、こちらはジキル・サライアット!無名ではありますが、【ユーラン】の荒くれ者共を束ねた手腕はBランク冒険者に引けをとりません!」


 唐突に始まった演説は宿中に響き渡り、宿泊客だけじゃなく、宿の前を通りかかった人まで「何事か」と足を止め始めた。


「この二人、腕は立ちますが見ての通り相性は最悪!しかし、それはどちらも曲げられない信念を持つからこそ!本日、お昼時にこの二人が決闘をおこないます!命を懸けるものではありませんが、信念を曲げる事はこの二人にとって命を失うも同然!!」


 ポカンとする俺はただゴンダリウスさんの言葉に聞き入るしかない。


「場所は決まり次第、お伝えします!ご興味のある方は周りにどんどん伝えてください。Bランク冒険者とそれに匹敵する強者との決闘、中々視られないものです!どうかその勇姿、目に焼き付けてください!!!」


 ぺこりと頭を下げるゴンダリウスさん。


 そして、


「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」



 話を聞いていた全ての人達が歓声を挙げた。


「決闘だってよ!」「Bランクってすっげえ強いんだろ!?」「相手の男もかなりやるらしいぞ!」「場所探しているって言ってたよな!中央の広場使えないか聞いてくるぜ!」「街中に伝えろ!稼ぎ時だ!!」「酒も用意しろ!!」



 大盛り上がりで宿を飛び出していく人達とは対照的にキュラさんはジキルさんに向ける時とは違う冷たい目でゴンダリウスさんを睨み付ける。


「どういう事ですか、なんでこんな…!」


「どうせなら思いっきりやろうと思いまして。」


 澄まし顔のゴンダリウスさんは悪びれている様子はない。


 俺は俺で未だに混乱中だ。


 ゴンダリウスさんはなんでこんな事を…?


「…やられたね。」


 ジキルさんは毒気を抜かれたように天を仰いだ。


「決闘なんて宿場街の住人からすれば娯楽みたいなもんです。住人だけじゃなく、宿泊客も大勢集まるはず。」


「…あ。」


 俺はその意味に気づいた。


「『命を賭けないが、命と同じくらい大事な信念を懸ける』…つまり、『負けたら相手の言う事を聞く』って話も一緒に伝わっているはず。勝敗に納得いかなくてもこんな大騒ぎになった以上、守らなければならない…」


 ジキルさんはゴンダリウスさんに苦笑いをする。


「…キュラ(そいつ)よりアンタを警戒しとくべきだったよ。」



******



 と言う訳で今に至る。


 決闘の話はあっと言う間に広がり、広場の使用許可、ルールの細かい設定、賭けも行われるらしく、不正がないように俺達四人には監視が着いた。


 …本気すぎるだろ。


 まあ、命のやりとりがないからそこは良しとして。


 …遅かれ早かれの問題だったと諦めよう。


 …これ以上何も起きませんように。

 

 二ヶ月ぶりの更新です!

 時間を空けてしまい、申し訳ありませんでした!

 体調が悪くなったとかは一切ありません!!

 単純に、筆が進まなかっただけです。

 次回更新は近日予定です。

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