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第百話   物は言いようでした



 俺の絶叫が部屋に、いや、店中に響き渡った。


「どどどど、どうしてですか!?あれ、あのお茶がないと俺は、俺は!?」


「お、おい、落ち着けハイキ?」


 オルゼさんが俺をなだめてくるけど、今はそれどころじゃない。


 レミト婆さんが用意してくれる薬草茶の味は現代日本で飲んだ緑茶と同じものだった。


 和菓子屋さんで飲んだような淹れ立ての緑茶のようにおいしいし、懐かしさを感じる奇跡の一杯だ。


 【ユーラン】でお茶を探してはみたけど、どれも紅茶に近いもので緑茶は見つからなかった。


 あの苦みと香りがもう味わえないなんて…


「お、お金ならいくらでも出します!だから、アレをあの薬草茶を!!」


「…婆さんアンタ、ヤバイもの飲ませてはいないよな?」


 俺の必死すぎる姿にオルゼさんはドン引きしているけど、どうでもいい。


 とにかくあのお茶を…!


「金じゃないよ、材料の問題さ。」


「…材料?」


 レミト婆さんは懐から細かい文字の書かれた紙切れを取り出した。

 

「アンタの薬草茶には色々な薬草を使っているんだが、もう在庫がないんだよ。仕入れるにも【ユーラン】じゃ手に入らない物が多くてね。」


「……な、なら、俺が探してきます!冒険者ギルドにも依頼します!!」


 なんだかんだで俺も知り合いは増えている。


 商店街や警備隊、商業ギルドに【アームズ工房】…直接は持っていなくても集める手がかりはあるかもしれない。


 そして、冒険者ギルドはモンスター討伐、護衛の他に採集の依頼も受け付けていると聞いた。


 お金もあるし、あの薬草茶が飲めるなら、いくらでも…!


「…この周辺には生息していない薬草ばかりだから、冒険者ギルドに依頼を出したところですぐには解決しない。それに判別が難しい薬草もあるから、採集するにもちょっとした知識(・・・・・・・・・)が必要さ。」


 …マジか。


 異世界物語だと主人公が【鑑定】とかのスキルを使うから薬草採集は簡単なイメージがあったけど…


 そもそも、物がなければ意味がないか。


 …詰んだ。


「じゃあ、諦めるしかないって事ですね…」


 がくりと肩を落とすと、レミト婆さんは頷いた。


「そうだね、【ガルソフィア(・・・・・・)に行けば別だけど(・・・・・・・・)。」


「そうですよね、【ガルソフィア】に行けば…行けば…?」


 

 …え?


 この人、今なんて言った?


「ヒヒヒ、実は足りない薬草は全部【ガルソフィア】周辺で採集出来るのさ。群生地域もたくさんあるからね。」


「………」


アタシからの(・・・・・・)個人的な薬草採集の(・・・・・・・・・)依頼(・・)を聞いてくれる(・・・・・・・)知り合いはいないかね(・・・・・・・・・・)?その依頼の…ついでに(・・・・)どこかのお偉いさんの(・・・・・・・・・・)依頼を受けても(・・・・・・・)文句はないよ(・・・・・・)?」

 

「……おいおい。」


 オルゼさんは苦笑いしているけど、俺も同じだ。


 『個人的な薬草採集がメインで、ギルドからの正式な依頼はついで』…滅茶苦茶な言い分だ。


 だけど、これは良い考えだと思う。


 レミト婆さんの個人的な依頼をギルドの依頼よりも優先していると分かれば、俺が派閥争いに興味がない事も伝わるだろう。


 『冒険者ギルドからの依頼はあくまでついでに仕方なく受ける事になった』とアピールも出来る。


 これなら【ガルソフィア】の派閥争いとは確実に距離が開くし、出張店舗は出すからオルゼさんの顔も潰さないし、向こうの支部長も納得するだろう。


「分かりました。薬草採集は受けます。そのついでなら、出張店舗の依頼を引き受けましょう。」


 譲歩としてはここが限界だと思う。


 少なくとも最初よりは状況は圧倒的に好転した。


 …それで良しとしよう。


「じゃあ、レミト婆さん。道中よろしくお願いします。」


 俺は同行してくれるレミト婆さんに頭を下げ、


「アタシは行かないよ?」


 …さっそく新たな問題が出た。


「え、だって、さっき…」


「アタシは【ガルソフィア】で薬草が採集出来ると言っただけ。一緒に行くとは一言も言っていないよ。」


 確かにそうだ。


 『同行する』とか一切口にしていない。


「心配しなくても、冒険者ギルドから護衛は出るんだろう?なら、薬草に詳しい護衛を用意してもらいな。」


 なるほど。

 

 『ちょっとした知識』があれば大丈夫らしいから、そこは冒険者にお願いしよう。


 頭を切り換え、オルゼさんに向き合う。


「オルゼさん、よろしくお願いします。」


 そのオルゼさんは険しい表情だった。


 あれ?


「…婆さん、それ見せてみろ。」


 オルゼさんはレミト婆さんが持っていたメモを受け取り、ざっと読むと、


「無理だ。」


 即座にそう答えた。


「…むり?」


 オルゼさんはトゲトゲした視線をレミト婆さんに向けて、頭をかいた。


「何が『ちょっとした知識』だ。専門家でも間違えるようなものばかりじゃねえか。今の【ユーラン】でこんな依頼が出来る奴なんて、【獣王】ぐらいだろ。」


 【獣王】…アシトさんの事だよな。


 じゃあ、逆にラッキーだ!


「なら、護衛はアシトさんをお願いしたいです!」


 アシトさんなら護衛としても安心だし、知らない人よりは全然良い。


「…アシトは別件の依頼で一週間前に【ガルソフィア】へ向かった。滞在中、顔を合わせるくらいは出来そうだが、薬草採集の時間はとれないだろう。」


 …なんか、雲行きが怪しくなってきた。


「なら、現地で募集するのは---。」


 言いかけて口を閉じる。


 派閥争いに関わらないようにする為の薬草採集なのに、自分から関わりに行ってどうする。


 【神眼】を使えば俺でも薬草の選別は可能だろうけど、どこに何が生えているのかまでは分からない。


 女神様に言えば新しいアプリを作ってくれるかもしれないけど…


 さすがに頼りっきりはな。


「ヒヒヒ、そこでだ。アタシから提案があるんだけどね。」


 レミト婆さんは心底楽しそうに、


「ハイキ、アタシの弟子を連れて行かないかい?」


 そう名案を出してくれた。

月一回は更新します!

どうか今後もよろしくお願いします!

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