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第九十九話 裏がありました



「【ガルソフィア】側の…都合?」


 レミト婆さんの言葉に戸惑いながら、俺はオルゼさんの顔を見た。


「………」


 オルゼさんは否定もしなければ肯定もしない。


 黙っているだけだった。


「…教えてやんな。ハイキの信頼を失いたくないならね。」


 レミト婆さんにつつかれるように、オルゼさんはようやく重い口を開いた。


「今回の依頼は【ガルソフィア】の冒険者ギルドから出されているが、正確な依頼主は【ガルソフィア】の冒険者ギルド支部長(・・・・・・・・・)だ。」


「…冒険者ギルドの支部長。」


 嫌な予感がした。


 今、オルゼさんはわざわざ『支部長が依頼主』だと言った。


 それって…


「【ガルソフィア】の冒険者ギルドの総意じゃないって事ですよね。」


 分からなくはない。


 こんな破格の条件、俺からすれば儲け話だけど、お金を出す方からすればたまったもんじゃない。満場一致とはいかないだろう。


「…本題はここからだ。」

 

 オルゼさんはため息をつくと、まっすぐに俺を見た。


「【ガルソフィア】の冒険者ギルドは数年おきに支部長を職員による投票によって選んでいる。その投票が始まるのは二ヶ月後だ。」


 ………ほう。


「投票システムは何十年も前から採用されている。問題は今回、支部長候補に挙がっているヤツだ。」


 オルゼさんはさっきよりも大きなため息をつくと、観念したように話し始めた。


「現支部長は昔気質の冒険者上がりだが、副支部長は貴族の親のコネで要職に就いた世間知らずだ。『改革』と銘打って金を少しでも搾り上げる為に精を出しているらしい。その金をばらまいて票を集めたり、周りを懐柔しているって話もある。」


「……うわあ。」


 現代日本でもよくあったザ・権力争いだ。


 現場主義と経営主義のドロドロの争い…


 俺、こういうの苦手なんだよな。


 ドラマやアニメでもそういうシーンはキツかったし。


「【ガルソフィア】の支部長とは若い時に一緒によく無茶をした仲でな。副支部長派の話を聞いた後ではさすがに放っておく訳にはいかなかった…副支部長派の『改革』で【ガルソフィア】では冒険者の動きが制限され始めている。裏もとれている。」


「………」


 …展開読めたわ。


 …そういう事ですか。


 部屋のドアに目を向けると、視界に入ったレミト婆さんが首を横に振った。


「…酷い顔だけど分かったみたいだね。ハイキ商店(アンタ)を呼ぶ事が出来れば、それだけで票も入りやすくなる。万が一投票に負けたとしても【ユーラン】とのパイプをアピール出来るから、冒険者ギルドの中でも発言力のある立場に残りやすい。それを考えればアンタへの待遇と報酬は安いもんなのさ。」


 異常なまでの報酬と待遇の正体はそういう事だ。


 要は俺に権力争いの駒になれって事。


 ……


 いや、無理です無理。


「丁重にお断りさせていただきます。お帰りください。」


 俺ははっきりと自分の考えを口にした。


 いくら報酬が高くてもやりたくない事はしない。


 現代日本では出来なかった事だけど、今の俺にはそれが出来るだけの余裕はある。


 だいたい、派閥争いってのは一度でも巻き込まれれば永遠に利用されるものだ。


 『前回参加したのに今回は拒否するのか』とかで冷遇されるのはまだいい。


 反対派閥がそれにつけ込んで、ある事ない事、噂にされて廃業なんて事も充分有り得る。


「もし、強引に連れて行こうと言うなら今すぐ俺は【ユーラン】を---。」


『出て行きます』と声が出る寸前だった。



 パンッ!!!!!



 手を叩いた時に聞こえる乾いた大きな音が応接室に響き渡った。


「っ!?」


 少し耳がキーンと鳴って、オルゼさんも顔をしかめるけど、


「ヒヒヒ、若いね。アンタは。」


 耳鳴りが止んですぐに聞こえたのはレミト婆さんの笑い声だった。


「アンタがそういう反応するのは当たり前だがね、オルゼの言っている事も本当だよ。偽物が出回れば遅かれ早かれアンタに面倒が来るのは時間の問題さ。」


「…それは。」


 言っている事は分かる。


 今は報告が少ないし、俺に直接何も起きていないけど、それもいつまで続くか。


 【ガルソフィア】に行けばその問題も解消されるらしいけど、それは派閥争いに参加する事になるし…


「……でも。」


 天井を見上げて弱音を吐き出す。


 問題を解消する為に面倒事に巻き込まれるか、面倒に巻き込まれない為に問題に怯える日々を過ごすか…


 最悪の選択だ。


 どうすれば…


「…安心しなさい、私も手は打ちました。」


「え?」


 一瞬、本当に一瞬だけど、レミト婆さんの声がとても若い女の人の声に聞こえた。


 思わず天井からレミト婆さんへ視線を動かすけど、レミト婆さんはいつもと同じ…何も変わっていない。


 …ストレスで幻聴でも聞いたか?


 でも、今確かに…


「手は打ったって…まさか、婆さん!?」


 オルゼさんは思い当たる節があったのか、驚愕の表情だった。


「…アタシはこの子をそれなりに気に入っていてね。アンタがそういう手(・・・・・)を使うなら(・・・・・)こっちも使える物は(・・・・・・・・・)全部使うよ(・・・・・)。」


 ゾワッ、と…本当に久しぶりに【危険察知(アラート)】を感じた。


 レミト婆さんからはとても強い圧が出ている。


 モルスともあのカメスって人とも違う…


 あの二人は別種の…冷たい、ヒヤリとした怖さがある。


 それを直接向けられているオルゼさんの顔には大量の脂汗が浮かんで、両手は小さく震えている。


「わ、分かった!今回の件は俺が全面的に悪かった!ハイキは派閥争いとは関係ないと俺から正式に【ガルソフィア】へ連絡する!依頼を断わるなら俺が責任を持って何とかする!!」


 泡を食ったように謝罪をするオルゼさんだけど、レミト婆さんからは圧は消えない。


「覚えときな、オルゼ。腹芸なんてもんは中途半端に覚えるのが一番危ないんだよ。特にアンタみたいなヤツはね。」


「……ああ、気をつける。」


 その言葉に満足したのか、レミト婆さんから圧が消えた。


 俺も緊張していたのか、手に冷や汗をかいていた。


「ヒヒヒ、すまなかったね。」


 軽く頭を下げるのはただの薬草売りのお婆さんのはずなのに…


 あの圧にオルゼさんの慌てぶり…


 年期とかそんなもんじゃない何かとんでもない物を垣間見た気がする…


「ところで、ハイキ。アタシはアンタに伝えないといけない用件があったんだよ。」


 突然、レミト婆さんが俺に話を振ってきた。


「え、用件?」


 そういえばレミト婆さんが来た元々の目的は「俺に話がある」からだった。


 でも、なんだ?


 レミト婆さんはさっきまでの雰囲気がウソのように、なんでもないように、本当に軽い調子で


「アンタに作っている薬草茶、もう作れないから。」


「ああ、そんなこと。それなら----。」


 …は?



「…はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

 俺に最大級の一撃をぶちこんだ。



…お久しぶりです。

四月の更新が一回だけになってしまい、申し訳ありません。

私生活で色々やってまして…

別の趣味に没頭しすぎました。

更新頻度が月一回なのに、ブックマークをしていただき本当にありがとうございます。

次回更新は五月となります。

これからもよろしくお願いします。

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