第一話 女神様とのお話は壮絶でした
不定期更新ですが、よろしくお願いします!
「『死んで天国に行ける人間をわざわざ別の世界へ連れ去って、二度目の地獄を味わうなんて本当に最低の神ですよねせめて異世界で過ごせるように【スキル】を渡すのが筋なんじゃないですか?』って言うから、仕方なく望む【スキル】を渡してやったの!そしたら今度は『たった一つなんてけちくさいダ女神ですね普通こういうのは無双出来るくらい強いのをたくさん持たせて主人公感を出させるでしょ?』って!」
「…ひどい。」
「そうでしょ?そうよね!?でも、世界のルールに反する行いだからって説明したらなんて言ったと思う?『それはそちらの都合でしょ努力が足りないんじゃないですか、あ、足りないからダ女神なんですね分かりました』って!」
「うわあ…」
「どん引きでしょ!?だから、言ってやったの。それなら今からキャンセルの手続きをしますねって!そしたら急に『ここまで人を巻きこんで放り投げるのか!全部お前のせいなんだからキャンセルなんて許さない!』って逆ギレ…」
「……」
「でねでね!もう、本当に頭に来たから望み通り【剣と魔法のファンタジー】を存分に味わえる場所に送ってやったの!右も左も分からないのに、熟練冒険者でも危険な森の中の安全地帯に!今頃、大慌てよ!」
「女神様…」
「あ…ごめん。こんなに愚痴を言ってしまって…それにいくらなんでも女神らしからぬ行いだった―――。」
「それだけ怒っていても優しいんですね、女神様は。」
「え?」
女神様は驚いたように俺の顔を見つめた。
相手は神様。
隠す意味もないし、これだけ話してくれる人…神様はいないから正直に話そう。
「俺もコミュ障直す為に接客業やって酷いクレーマーを見てきたから。だから、女神様がどれだけ嫌だったのか、少しは分かるつもりです…。」
「………」
「女神様は優しいです。もっとひどい場所に送れたはずなのに、わざわざ安全地帯なんて場所にした。それに悪いのは相手なのに反省もしてる…女神様に言って良いのかわからないけど、カッコイイと思います。」
「あ、え…?」
黙った女神様は顔を真っ赤にして、プイっとそっぽを向いてしまった。
『カッコイイ』はやはり女性にはあまり使わなかったほうがよかったのか。
どうも怒らせてしまったようだ。
顔が隠れてしまった事もあり、周りは何もない白い空間。
当然、視界には女神様しかなく、改めてその全身を見た。
スラリとした長い手足に綺麗な整った顔、なびく金髪は太陽を思わせるように輝いている。それに…色々と大きいところと引き締まっている所の差が…
「…ご、ごめんなさい!じろじろ見て!」
何も言われてないが、すぐに頭を下げる。
コミュ障の俺にはこういう時はとにかく謝るしか分からない。
何せ二十年以上生きていて、苦手な事の第一位が『コミュニケーション』だ。克服の為にやった接客業のバイトはさっき言った通り悪質クレーマーに当たりまくり、早々に辞めてしまった経験もある。
とりわけ人を視る眼もないので、友人と思っていた相手に騙されたり厄介事を押しつけられた事も数え切れない程ある。
とにかく、今は女神様に機嫌を直してもらわないと。
それに…次の人もいるだろうし。
「あの…女神様。結構時間経ってると思いますけど、いいんですか?次の人が…」
「…そこは大丈夫。貴方が一番最後だし、ここでどれだけ何をしようとも私に逆らえる者はいないから。」
やっとこっちを見てくれた女神様はまだ顔が赤かった。
相当怒っているよ、本当…
なんで最後の最後に女神様を怒らせるなんてやったんだろう。
とにかくせめて色々とお話をしないと。
「あの、女神様。その、お願いがあるんですけど。」
学校の授業のように俺は右手をゆっくりと挙げて、女神様に声をかける。
「…何かしら?」
「あの…出来れば俺も【スキル】が欲しいです。あ、前の人みたいに滅茶苦茶は言いません!平和に過ごせる【スキル】が欲しいんです!」
戦いとか、無双とかそんなのは大好きな特撮やゲームの世界だけで充分だ。
俺は静かに暮らしたい。
富も名声もいらない。
欲しくない。
前の人のせいもあって難しいだろうけど、せめて生き残る術を…
「いいわよ。」
女神様はあっさりとうなずいてくれた。
「ひぇ?」
情けない声が思わず出てしまったが、それを聞いてなのか女神様は
「ぷ、アハハハハハハ!」
可笑しそうに大笑いした。
「あ、あの?」
訳が分からない俺に女神様は何とか笑いを押し殺し、俺の肩に手を置いた。
「大丈夫よ。貴方は良い人。私の話も聞いてくれてるし、嘘を言っていないのは分かっている。それに…ある意味、さっきまで相手していた人間のおかげで前例も出来たしね。」
「……」
女神様の微笑みはとても魅力的だった。
息をするのも忘れるくらい、この時間が続けば良いのにと思う程に。
「好きな【スキル】を言ってみなさい。出来る限り融通するわ。」