4話-1
海鳥が鳴いている──。
いくつもの姿が交差しながら、海上から海の様子を伺っている。海面に立つ波しぶきや、太陽の光を反射する煌きに反応して、鋭い嘴を真下に向けながら、翼を折りたたんで、垂直に一気に降下する。潜ったと思ったらあっという間に空へ浮かんで、その嘴には尾鰭をばたばたさせながらもがき続ける魚の姿が見える。
近くでは、自分では狩りをせずに相手の獲った魚を横取りしようと、虎視眈々とその機会を狙っている海鳥の姿もある。
それらに混じって、他の海鳥とは飛び方も鳴き声も違う黒い影があった。
ブゥゥゥンと縦横無尽に飛び回るその姿は、やがて中空へ向けてその身体を押し上げた。どんどんと空の上まで昇って行き、同時に内蔵しているカメラで眼下に映る島を捉えていた。
波打ち際を映し出されていたその島は、ドローンが上空へと遠ざかるのに合わせて、その全景をさらけ出した。
中心に大きな楕円形の湖があり、その周囲にはいくつかの森がある。川が流れ、澄んだ水に太陽の光が反射し、木々のこずえの間をきらきらと走っている。
ドローンが映している島の奥側に、二つの大きな山が並んで聳えていた。頂上が少し丸みを帯びていて、山同士を結ぶ吊り橋が、まるで手を繋いでいるかの様に見えた。
島の中では開けた場所が点在しており、その殆どに人の手が入っていた。
山小屋やキャンプ場、船着場も整備されている。毎年夏が近づくと定期的に船がやってきて、そこから下船した人々が、島中に散らばって各々の目的の為に行動する。ある者は己を鍛える為に。そしてある者は、自然と一体となって自分が癒される為に。
ドローンが島に向かって近づいてくると、湖の手前、森と海岸に挟まれた場所にカメラを向けた。
そこには、これから始まる勝負の為に集まった、様々なマシンが横一列に並んでいた。
シンプルなフォルムから奇抜な形の物まで、大きさの大小や乗り物の形態さえ違っていた。それぞれがマシンの点検をしたり、整備士が整備をするのを黙って見ていた。
空に沢山のドローンが飛び交い、数多のアングルでモニターに映像を映し出した。その一つには、湖上に咲く花火の様子が映し出されている。
花火に合わせてお馴染みのファンファーレが鳴り、二機のドローンが動いた。一機はマシンを正面から捉えようと湖側から回り込み、もう一機は浜辺へ向かい、ゴール地点となるゲート横の司会者席を映した。
「さぁ、とうとうやってまいりました!!!
梅雨明け宣言が出てから、今日で半月。辛かった期末試験を乗り越えた私たちを祝福するかの様に、お天道様もその笑顔を振りまいております!!!
ここ、雲雀ヶ丘高校の所有する『わくわくアイランド』では、本日のイベント『チキチキ! 十二支対抗わくわくレース』の模様をいち早くお届けしようと、私、消防部の今見照夜が一日早く島入りしております! 情報部じゃないですよ、濁点が右にズレた消防部です! 司会やりながら会場内でトラブルが起きてないかチェックしております!!! 歴代司会も消防部でした! 是非覚えていて下さい!!!
本日は解説に生徒会の黒崎真先輩を呼んでおります! 黒崎さん、本日はよろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします」
「実は黒崎さんは元消防部。生徒会に所属する前はバリバリの消防活動をされていたとか。なので、事前に危険を察知できるんですね。つまり!!! レースで盛り上がる箇所が分かると!」
「そうですね。今回は特に十二支の方々が参加されますから、特に酷い事故でない限りはレースを盛り上げる良いスパイスになるんじゃないでしょうか? けれど、数人参加されている一般の生徒に怪我の無い様配慮をして欲しいですね」
「つまり、マシンは安全に設計されているので、どんどん激しくやりあっちゃって下さいと云う訳ですね! 流石元十二支で現四獣は云う事が違う!!!」
「あはは、そこまでは云ってませんけど、十二支全てが参加する催し物は盛り上がりますからね、僕も楽しみです」
「そうですね。私たちも、そしてモニター越しに待機しているあなたたちもっ!!! この対抗レースを思い切り楽しみましょう!!! 推しの選手を応援するのはいいですが、賭け事はいけませんよ!!? そこのところよろしくぅ!!!
では、ここからは選手紹介といきましょう! ドローンカメラさん、寄って下さい!!!」