3話-20
ファンファーレと共に入場する。待機通路を抜けると一斉に照明が向けられ、その眩しさと歓声の中会場入りした。
目が慣れて、しだいに視界に会場内の様子が見えてくる。だが、
(いや、これなんて別世界?)
と云える位には、今回の会場は広かった。
現代の科学技術でこの広さを地下に築けるのかは分からないが、分からなければ分かる人に任せればいいのだ。そう自分に言い聞かせ、目に見える事柄をそのまま受け入れる。
会場に十字で四つに区切ると、まず「右下」に位置する場所に私たち、そして右手に西園寺先輩がいる。そこから「右上」に位置する私たちの正面に白線で描かれたテランが見える。これがペタンクで使用されるのだろう。テランの左隣──「左上」に位置するは、これまた白線で、多分、巨大なコートが描かれていた。多分と云ったのは、横線は私からもラインが見えるのだが、縦線があまりにも遠くまで続いており、終いにはラインが途切れてしまっていた為だ。あそこが地平線とは思いたくない。
そして、「左下」──その巨大なコートの手前で私たちの左側──に、巨大な箱が置いてあった。天井や地面から箱に向かってぶっとい線が何本も伸びていて、箱の中から…………ブウウ――――――ンンン――――――ンンンン………………と奇妙な音が聞こえる。
怪しい……絶対に怪しい。
次に両サイドを見渡すと、右側の観客席に沢山の観客がいた。左側には巨大なモニターがあって、私たちの顔や会場全体が分割で映っている。
観客席にはブラスバンド部もいて、会場内を盛り上げる為に奏者一斉に揃った美しい演奏を披露している。また、大勢の消防部員がそこいら中に立って、指示を飛ばしあっている。何故だろう。手に持つ消化器はペタンクに必要ないはずなのに。
最後に天井を仰ぐ。どれほど高いか見当がつかず、照明からキラキラとした明かりが降り注ぐ。私は眩しくて視線を正面に戻した。
「真央さん、チャンスですよ」
演奏の切れ目に、チョコに肩を小突かれた。ブラスバンド部員が各自の楽器の点検を始め、修弥もフルートの点検やスコアの確認をしている。おい、誰だそこの女子部員! 横から修弥に仲良さそうに話しかけているんじゃない!
私はこの可愛らしい衣装姿を修弥に見てもらいたくて、飛び跳ねながらアピールする。
「しゅうちゃん! こっちこっち! こっち見て〜っ!!!」
修弥がこちらを見てくれた! 軽く手を振り、笑顔を見せてくれる。そうそう、両肩に何かを乗せるジェスチャーをし、ガシッと。
「ガシャン」
そうガシャンと。……ガシャン?
両肩に何か重さが加わって、自分の肩を見やる。背中全体にくっつく様な違和感を感じ、同時に肩に機械が取り付けられているのが見えた。
「は〜い、ちょっと動かないでくれよ。すぐ済ますからね」
白衣を着た女生徒が、私の身体を覆う様に何か複雑な機械をとりつけている。右手に手袋をつけられ、その手袋の甲から線が何本も背中に伸びている。線が何本も伸びている場面に既視感がある。
視線を修弥に戻すと、いつの間にか来ていた大和と共にこちらを指差しながらロボットダンスをして笑っている。慌てて左右を見ると、チョコも、そして西園寺先輩や世良先輩も白衣を着た女生徒たちに機械を装着させられていた。
あっという間に可愛らしい衣装が半ロボット少女みたいな見た目に様変わりし、修弥へのアピールも出来ないまま、ブラスバンド部の演奏が再び始まった。
演奏と同時に、左手にある巨大な箱から大量の蒸気が吹き出し箱が開いていく。中から巨大なシルエットが現れ、煙が晴れる頃にその姿を照明が捉える。
箱の中には巨大なロボットが膝をついた状態でいた。
「はぁ〜いっ!! 今回の陸上部とワンダーフォーゲル部の『下克上』は、ペタンクだぁぁぁぁぁぁ!!! みんな、予習はもうしてきたかなっ!? 本日は嬉しいサプライズがあるぞっ!!!!
なんと、生徒会と科学部からロボットのプレゼントだぁぁぁぁぁぁ!!! 会長っ、ありがとうございますっ!!! では会長から一言お願いします!」
「皆さん、本日はお集まり下さり、ありがとうございます。今回は科学部部長の本澤くんから、技術提供がありました。今彼のお父様が働かれている会社で開発中の介護ロボット。複雑な人体力学を応用したロボットを作成する工程で培った、組み合わせる事で様々な補助を行えるロボット技術。その技術の更なる発展の為に、今回サンプルデータの提供と交換で技術提供をしてくださる事になりました。ありがとう、本澤くん!」
「これくらい造作もない事。科学の力で、そう、科学の力で出来ない事はないのです。
これからの地球の未来を支える科学の歴史的瞬間に、本日私たちは立ち合っているのです!!! ああ、科学は素晴らしい!!!」
「会長! 科学部の本澤部長! ありがとうございました!
さぁ、参りましょう! 本日の下克上は、巨大ロボットを使った、『巨大ペタンク勝負』!!! 見た目も迫力も段違いだぞぉぉぉぉぉっ!!!!!」
司会の熱いトークと、会長と本澤先輩からの挨拶に会場全体が盛り上がり、熱気がびりびりと伝わってくる。なのに、私は悟った様な、諦観した気持ちでそこにいた。
すがるようにブラスバンド部の方を見る。演奏しながらも私を見てニヤニヤ笑う修弥の姿を見て、私のデートの計画は完全に絶たれた。
「真央さん……」
「どうせこんな事だろうと分かってたよっ! 可愛い衣装を渡された時に気づくべきだった! チクショーっ!!!」
私は膝から崩れ落ちて、地面に両肘をつき、少し泣いた。




