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花束を持って、君と  作者: 雲雀ヶ丘高校文芸部
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1話-1

 有名な小説の書き出しに、トンネルを抜けたら雪国に繋がっていて、夜なのに地面が真っ白になった、というものがあるが、かくゆうわたしも校門を抜ければ敷地内の中央には校庭があって、でもって校庭に巨大な物体があったので近づいてみたら、それは合格発表とかでみる掲示板みたいで、だけど近くにつれてその掲示板はどんどんどんどん大きくなっていって、最終的には校舎から揺れている垂幕みたいなものが十以上も横に連なっているサイズで。

 この時も全然理解が追いつかなかったけど、よく見ると途端に理解し、そして理解を放棄した。頭の底が白くなった。

 そのまま雪だるまみたいに固まっていると、後ろから声をかけられた。

「おはよ、真央」

「しゅうちゃん!」幼馴染で初恋の相手で、ソウルメイトの修弥。しゅうちゃん、今日も恰好いいです。自然な感じの清潔感溢れる短い髪に理知的な眼鏡、眼鏡の奥から覗く澄んだ瞳、いつも面白い事を見つけたかのような片側だけ口角を上げて微笑んでいる口元。周りからは「爽やか腹黒」だとか「サラ金」だとか酷い渾名をつけられているけど、そんなことない! とっても優しくて、わたしが悩んでいるといつも解決してくれる、非常に頭の切れるスマート紳士なのだ。

「おはよ! あのね、しゅうちゃん、これなにかな?」わたしは動揺を抑えながら後ろの掲示板を指差し修弥に尋ねる。「何かの間違いだと思うけど、ほら、あそこに部活がどうのこうのって」掲示板には各部活名と、それぞれの下に数字と名前が書いてある。一番左の実力のありそうな部活には沢山の名前があり、右にいくにつれて規模が小さくなっていく。下の方には名前の横に花がついており、多分それは一年生の入部決定の合格マークなのだろうが………。

「あれは今年度の部活決定通知だな」あっさりと修弥は云った。「入部届を審査でふるいにかけて、合格者を掲示したものだろう」

 大した事では無さそうな顔でそう説明する修弥に、わたしは反論する。「だって、先週わたしが熱出した時に、『俺に全部任せろ! 真央が素晴らしい学園生活を送れるよう俺がなんとかする! 部活も、勉強も、真央のは俺が管理して最高の環境を作ってやる』って」

「ああ、あれ嘘」

「えっ?」

「本当はあの時点で先週中に入部届提出って云われてた。お前が倒れた後すぐ、生徒会長から発表があった」しれっと云う修弥に、わたしはどんな表情をしているんだろう。修弥は淡々と説明を続けているが、わなわなとしたこの感情が、身体中の毛を逆立たせるほど膨らんできた。よしっ、とかなんとか云ってるけど、彼のしたことは非常に許し難い。せっかく部活に強いこの学校に合格したのに、二人であんなに喜びあったのに、人を騙して、ニヤニヤしてて、こんなことが許せるだろうか。

「しゅうちゃん! 人を騙しておいて!! そんなニヤニヤして!!! やっていい事と悪いことがあるんだ…ょ……なに?」

 修弥がスマホをこちらに向けてきた。「いいから見てみろよ、真央。お前耳が生えてるぞ」そういいながら、スマホを近づける。スマホはミラーモードになっていて、わたしの顔が映っている。顔色が悪いのか怒った為か、ところどころ青かったり赤かったりしてるが、「耳がどうしたってのよ………へっ?」耳がないっ! なんか毛がふさふさになっていて、耳が隠れているのだが、チラチラ見える頬の横に、あるべきものがない! それに、

「なんで声がこんなにクリアに聴こえるの?」耳がないのに、音が聞こえる。修弥を見ると、頭の上をとんとんしている。馬鹿面をしているだろうわたしは、口をあんぐりと開けたまま自分の頭の上をとんとんした。何かふさふさしながらとピンっとしたものに触れた。少し温かい。

 スマホに視線を戻しながら、わたしは自分が触れているピンっとしたものを確認した。猫のような耳が生えていた。

「にゃーっ!!!」

 驚くわたしの頬から、髭が生えた。

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