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花束を持って、君と  作者: 雲雀ヶ丘高校文芸部
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6話-24

 ──九月某日。土曜日の昼下がり。


 期間はたったの一ヶ月。そして昨日の今日で今は二日目。

 夏休みが過ぎると休日の公園も人がまばらになった。世のお父さん、お母さんも頑張ったのだろう。日焼け、腰痛エトセトラエトセトラ……。九月初めの休日まで子供を連れて行く元気などないのだった。

 克馬はその日、ベンチにあぐらを掻いてその上にタブレットを置いていた。頭には例のヘッドフォンがしてある。タブレットの画面上では様々なノイズが行き来しており、克馬はそれを捉えては他のノイズと繋げて遊んでいる。

「ここがこうなって……むむむ、やるなぁ」

 中学生の頃に作った克馬のおもちゃだ。ノイズを繋げることで音の繋がりを掴み、彼独特の表現をするのに役立つ。あの頃もこうして数々の名曲が生まれた。

 とは云っても、曲は今回、完全に彩乃に任せていた。彩乃が作った出来立てほやほやの曲を克馬がデコレーションしていくという方式は、克馬からの提案だった。彩乃の個性を潰したくないのがその理由だった。

 もしここで彩乃が克馬の才能を知っていたら、

「でもあなたはあたしの為に最高の曲が書けるんでしょ?」

と云われ、せっせせっせと書き上げたことだろう。だがそれはもしもの話であり、彩乃はそれを勿論知らないのでしぶしぶ曲作りを始めた。

 一日で曲を書け、と無理難題を叩きつけた克馬だったが、彩乃がそれに対してどのようなアプローチをしてくるのか非常に興味深かった。

 其の一、曲を完成させる。

 其の二、途中まで作り持ってくる。

 其の三、手ぶらでくる。

(さて、どれだろう。

 其の一の場合、クオリティが問題だ。俺は確かに彩乃の曲を気に入っているが、そう易々と書ける物ではないと知っている。フィーリングだけで書いた曲は十中八九人真似になったり、単調になったり、無難になったりする。

 其の二の場合、控えめに云って最高だ。仕事の途中経過をしっかり報告する事は非常に大事だからだ。進展の具合も把握出来るし、より効率的な曲作りをアドバイスできる……様な気がする。

 其の三の場合。既にある曲を歌ってもらおう。俺が聴いたいくつかの曲からピックアップし、それをマッシュアップでもして新曲にしよう。彩乃は少し不貞腐れるかも知れないが、リクエストが出た時に書けないんじゃ、プロとは云えない。まぁ、彩乃はプロではないが)

 克馬が色々と悩んでいると、そこに影が落ちた。克馬が見上げると、目の前に彩乃がいた。彩乃が何やら話しているが、ヘッドフォンをつけている克馬には聞こえない。

 彩乃は左手を伸ばし、右側のアームを少し持ち上げた。「人が挨拶してるんだから、挨拶しなさいよ」

「む」

「あなたねぇ、人が産みの苦しみを味わってる時に呑気にゲームしてるんじゃないわよ。こっちは大変だったんだから」

 彩乃は紙束を克馬に渡す。受け取った克馬はパラパラと巡るが、下の方がほぼ白紙だ。

「斬新だな。後半はハミングでいくとは」

「ほっとけ。出来なかったのよ。

 なんか、この後はあなたと話したら決まるって思うのよね」

 克馬はコードは気にせず歌詞にだけ注目する。読んでいく内に彩乃の云いたい事を理解した。

「これは……俺たちの話なのか」

「そうよ。だから、あなたにも協力して欲しいの」

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